王都への道中、哀れな盗賊団
通行の邪魔となる大きさの岩や石、草花だけを排除された、王都の人から見れば道と呼べるかも怪しい道。そこを俺とアリアさん、運転手の3人を乗せた馬車が通る。
「ふぅ、疲れた〜」
俺は汗をかきながらも、なんとか最低限の物資や必要な物を集めた。
10分しか無いんだから、忘れ物も今は思い出せないが、多分しているだろうし気が気じゃ無い。
「そうか、こちらの都合で君にこんな事をさせるのは不本意ですが、これも国のためです。すまないがよろしく頼みます」
アリアさんは俺の肩にポンと手を置き、俺の事を慰めるようにそう言った。
その時に、俺の目の前のまるで巨大なメロンが2つ、馬車が揺れるたびに揺れている。
俺はそれを見ただけで『この俺に任せてください(イケボ)』なんて言ってしまった。アホだな俺も。
「それで……俺は勇者になるんですよね?」
「そうだが……。何か問題でも?」
問題しかないんだけどな……。
「俺は実際の勇者のように強くはありません。武器や武具も全部盗まれたじゃないですか。顔が似ているだけの人間が、戦いもせずに相場にいるだけと言うのは、どうしてもその場にいる兵士たちに疑われてしまうと思うんですけど?」
「その点は心配ご無用だ。勇者の武器等などには、もしもの時のための模造品がある。見た目の問題はそれで解決すればいい」
へぇ、勇者の武器に模造品なんてものもあるのか。まぁ、壊れたりしたら大変だろうし当然か……?
「ところで俺って顔や身長などの見た目、声なども全てが似ていたんですか?」
「あぁ、そうらしい。その騎士曰く、なんで勇者がここにいるんだ? って思ったらしいレベルだそうだ」
……勇者に似てるって言われたら嬉しいけど、幹部に負けて逃げたって聞いたらなんか微妙な感じだな。
「次の方が問題です。俺自身は強くありません。兵士、騎士たちでは太刀打ちできない相手に、俺みたいな、ただの村人が立ち向かえるとは思わないのですが?」
「絶対に戦わせませんのでご安心を。私はもちろんですが、同じく『聖域の十二騎士』の皆様も全員集合で当たります。戦力的には勇者単体のレベルは上回るかと」
「なるほど……ですが、幾らそれでも限界は来そうな気がするんですが?」
「世界中の国が今現在も、血眼になって行方を捜しているのです。勇者の逃亡生活もそう長くは持たないでしょう。勇者自身も元の世界に還るためには、勇者返還を行わなければいけないが、勇者召喚をした巫女しかその儀式は出来ないですので、絶対に見つかりますよ。勇者返還の儀式を巫女にさせるために、勇者を戦わせようと国のお偉い方々はしようとしています。まぁ、勇者も嫌々ながらも戦ってくれるとは思いますけどね」
……ふむ。つまり俺は勇者を見つけるまでの代役か。確かにそれなら俺が戦うまでには見つかりそうだけど……。
「本当に勇者が国に従ってくれますかね? 一度負けたぐらいで勇者は逃げたんですよ? まず、本当に元の国に帰りたいのかどうかですよ。それに、無理やり戦わせるのもどうかと。勇者といっても同じ人間ですし、勇者自身が元から戦いに身を委ねていたかも不明なのでは? 俺もいきなり違う場所で、いきなり戦わされて死ぬ思いをしたら、そら逃げたくなりますよ」
「それを私に言われても困る。聞いたところによれば、勇者自身はむしろ召喚されて喜んでいたらしいし、違う場所で戦わされるのも本望だと思うが?」
「……確かにそれが本当ならそうですけど……」
俺はあまり納得がいかなかったが、今それを指摘しても意味が無いだろう。
この人は俺に代役を頼みに来ただけであり、本来は戦争の前線にいるべき人だ。
戦うのが普通なので、価値観も少し違うのかもしれない。
つまり、この人に何を言っても意味は無いのだ。
「ところで……あんなにも居た騎士の人たちは一体どこに? 馬車の周りを守る護衛、みたいな事もしていないように見えますし、この馬車もアリアさんが乗るにしては質素なような気がするんですが?」
「騎士たちは戦争の最前線まで向かってもらっています。騎士たちには悪いが、私たち2人は王都に向かっている。方向としては真逆です。馬車が質素なのは、盗賊などに襲われにくくするためです」
あぁ……今も命を賭けて、騎士の人たちは頑張っている。なら、俺にもできることがあるのならやろう。
「で、王都までこの馬車ならどのくらい掛かるんですか?」
「一年」
「……からの〜?」
「1ヶ月」
「…………からの〜?」
「3日です」
「からの〜?」
「3日って言ってんだろが」
「すみません」
……なんで俺が謝ってんだ?
笑顔できつい口調をしたアリアさんについビビってしまった。
確かに調子には乗ったが、嘘を二回もついたアリアさんの方が悪いと思うのだが?
言っても無駄だろうな。
ガシャン!
ボヨン! モニュン!
そんな音が聞こえてすぐ馬車は急に止まった。
俺はそのまま勢いをつけて、向かい合わせに座っていたアリアさんの胸の谷間に一直線に飛び込んだ。
……飛び込んでしまった、だ。つい本音が漏れたので訂正しよう。
……本当だぜ? わざとじゃないぜ?
アリアさんも剣は携帯していたが、防具類は馬車の中なのでさすがに外していた。
ラッキー! ……ってそうじゃなくて!
俺は急いでアリアさんの胸から……急いで、かつゆっくりと離れる。
「おそらく襲撃だな。盗賊でも出たのか?」
あんたさっき襲われないっていたのに!?
「で、どうするんですか?」
「斬る」
「あ、そうすか。頑張ってください」
「何を言ってるんです? お前も見学ぐらいはしておいてください。初陣で表に出ることすら出来ないでは困ります」
アリアさんはそう言って俺の首根っこを片手で掴んで馬車から飛び出た。
嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
俺が無理やり馬車の外に出されて目に飛び込んできたのは、十数人の盗賊だった。
きっちりフラグ回収されてるんですけど……。
「へへっ、命が惜しけりゃ荷物や身ぐるみ全てを置いていって……おいおい、よく見りゃなかなか美人じゃねぇか。今夜は楽しくなりそうだな。男の方は殺して良いが、女は俺が一番に頂く。その後はお前たち全員で好きにしろ」
「「ひゃっはー!!!」」
「お頭ぁ! 男の方、俺がいただいても良いですか?」
「じゃあ好きにしろ!」
赤いバンダナをつけた盗賊のリーダーらしき男が、アリアさんを見てそう言った。
盗賊のやつらが全員はっちゃけて喜ぶ。
……おいちょっと待て! 1人だけ俺を見てニヤニヤしてるやついるんですけど!
嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
初めてが男なんて絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
「アリアさん、あいつらやっちゃってください」
俺はアリアさんの背中にぴったりと張り付きながらそう言った。
「動きにくいのだが……。まぁ、すぐに終わらせよう。死体も残さない」
「それはやめてください。見たくないです」
「慣れてくださいよ」
「ただの村人のモブに何を期待しているのやら?」
「おい、人前では勇者と名乗れ……今のブルブル震えている格好では無理だな」
「その通りです!」
「何を誇らしげに言っている? 死体が一つ増えるぞ? いや、正確には一つも増えないがな」
殺す発言したよ⁉︎ 死体も残さないって、俺も盗賊たちと同じ目に⁉︎
「すみません。……離れてるんで、お願いします」
「分かった」
アリアさんが腰に携帯していた剣の柄に手をかける。
「おいおい嬢ちゃん。無理するなって。俺たちゃ泣く子も黙る『漆黒の月影』だぜ?」
『漆黒の月影』……今何時だと思っている? 昼の2時だぞ? 出直してこい! と心の中で叫んだ。
「御託はいい。10秒やる。逃げるのなら好きにしろ。だが、向かってくるなら……斬る」
アリアさんの迫力に、『漆黒の月影』の盗賊団のリーダーもびびる。
「や、野郎どもっ! 相手は女1人も同然だっ! 念のため、全員で一斉にかかれっ! ただし、大きな傷はつけるなよっ!」
「……愚かな」
スパン!
アリアさんがそう呟くと同時に動いた。
俺の目にはアリアさんがはっきりとは見えず、動く分身体がいくつもあるように見えた。
そしてまたさっきまでいた場所に戻り、抜いた剣を再び鞘に収めた。
そして、剣が収めた音を立てた瞬間、リーダー以外の全員の首が飛んだ。
「……は? ……へ? あぇ? ……どゆこと?」
盗賊団のリーダーも何が起こったか分からずに、俺と同様にアホ面を晒している。
だっせぇ! ……今の盛大なブーメランっ!? つまり俺もだっせぇ!? そんなバカな!?
「ま、まってくれ! 命だけは! 命だけはっ!」
盗賊団のリーダーは状況を理解するや否や、早々に武器を投げ捨てて必死に頭を下げる。
「悪いが襲ってきた以上見逃すつもりはない。さらばだ……『暗黒の日陰』」
「『漆黒の月影』ですよ?」
「…………」
やっべ、アリアさんの決め台詞みたいなの台無しにしちゃった。
あ、そうだこうしよう。
「アリアさん、こいつの命だけは助けましょう」
「なに?」
「ま、まじでっ⁉︎」
俺がそう提案すると、アリアさんと盗賊団のリーダーが驚いた顔で俺を見る。
「助けてほしいか?」
「あ、あぁ、命だけは勘弁してくれっ!」
「じゃあアジトの場所教えろ。金品は全て押収する。それをしたのちお前を回収する」
「なっ……鬼畜外道めっ!」
え? 酷いかな? 命助けてあげるんだし、要求も同じなのに?
「モブ、金品は国がお前から押収するぞ?」
「えぇっ! 俺の嗜好品のために使おうと……。あぁ、遠慮なく国のために使ってくれ(イケボ)」
「……」
「……」
無言が一番きついんですけど!?
こうして俺たちは盗賊のアジトから金品を根こそぎ奪い、王都へと向けて再出発を開始した。
盗賊団のリーダー? 誰それ? ……あ、忘れてた。
まぁ……なんくるないさ! ……すまん。
俺は村に伝わる言い回しを心の中で言いながら、盗賊団のリーダーに謝罪をした。
そしてそれから3日後、俺たちは王都についた。
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