異世界の勇者が魔王軍幹部に負けて逃げたので村人に代わりをさせたら、何故か本職の勇者より強かった件〜ゲスい村人の無双英雄譚〜

どこにでもいる小市民

ただの村人が勇者をするのは無理があると思う

「さぁ、勇者よ。再び相対できたこと、幸福の極み! 強くなったお前の力を見せてくれ!」


「ふっ、望むところだ。後悔するなよ? 今度は俺が勝つ! 俺はもう、誰にも負けない!」


(あぁぁぁぁぁ!!! 魔王軍の幹部にバカみたいな事言っちゃったよ! どぉしよぉぉぉ!!! 俺、本当はただの村人なのにぃぃぃぃぃぃ!!! どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁ!!!)


***


現在、この世界は魔王軍の侵略が開始されて三カ月が経っていた。

1度目の侵略によって、この世界に住む人間の5%が亡くなった。


生き残ったこの世界に住む人間の20%を動員した防衛部隊が結成されたが、2度目の侵攻で壊滅的被害を出した。


このまま魔王軍にこの世界は蹂躙される。この世界の人間の誰もがそう思った時、いにしえより伝わりし秘術、『勇者召喚』と呼ばれる儀式を行った。

前回呼ばれた勇者は、魔王をたったの10日間で滅ぼした。


今回、儀式によって呼び出された勇者は、『地球』と呼ばれる異世界から来た。

今回『勇者召喚』によって呼ばれた勇者は、まるでおとぎ話に出てくる英雄のごとき活躍をした。


3度目の侵略の死傷者はなんと千人未満。この世界の元々の総人口は800万人。勇者の凄さもわかるだろう。


だが、魔王軍も黙ってやられているだけではなかった。

4度目の侵略の際、幹部と呼ばれる魔王軍最強の存在のうちの1人を送り込んできたのだ。


勇者と言っても、今はまだ召喚されたばかりだった。結果、勇者は幹部と呼ばれた存在に大敗した。

大勢の兵士を犠牲をして……。


勇者が敗北した。その事実はこの世界を震撼させた。

だが、勇者はさらなる強さを得て戦場に舞い戻る。そう聞かされていた。







だが……事実は違った。


「あなたに……勇者の代わりになってほしい」


俺にそう言ってきたのは国の兵士の将軍、アリア・アクテリオスさん。

勇者が現れるまでの人類最強の名を欲しいままにしていた……女性だ。

彼女の心の内なる炎を表したような赤い髪色をしていて、敵に髪の毛を掴まれないようにショートヘアーにしてある。


身長は140㎝ほどと女性の平均より結構低い。だが、驚くのは胸の大きさだ。

椅子の背もたれに背中がくっついているにも関わらず、机の上に胸が乗っているレベル。

あれ、絶対に戦闘で邪魔そうだ。そして鎧は特注品。

『俺が下から支えてあげましょうか?』と冗談だが言いたいぐらいだな!


話は少し前に戻る。先程、俺の住んでいる村に騎士団がやってきた。

俺の村は至って普通のどこにでもある村のうちの一つだ。

せいぜい少しばかり山奥にあるのだが、何故こんな不便なところにあるのかの理由は、里の人も含めて誰も分からない。

騎士団の登場。

村のみんなが騒然とする中、代表のアリアさんが俺を見つけて、今居る小屋の中で話をするように言ってきた。

そして現在に至る。


「…………え?…………」


そして、この間抜けな声を出したのが今年で15歳になる俺、モルティーブだ。

身長は165センチほどで体つきも普通だ。

村の農作業で、筋肉も少しは付いているが、これくらいは村の人なら普通のことだ。

顔も、街を歩いたとしても目を引くような特徴もなく、すぐに忘れるぐらいの普通の顔だ。

髪の毛も茶髪で派手さもない。

村のみんなからは略してモブと呼ばれている。

せめてモルティが良かった。


アリアさんから言われた言葉で、俺は目の前が真っ暗に、頭の中が真っ白になった。

意味が分からなかった。勇者の代わり?……どういう事なんだ?


「えっと……ちょっと、意味が分からないんですけど……?」


「はい。私もその気持ちはよく分かります。……もうすでに遅いですが、これから話す内容は絶対に他言無用です。そして、その話に承諾をしてください。あなたに断る権利はありません。断った場合、私が今ここで殺してもいいと言う命令を受けていますので」


えぇぇぇぇぇ! ひ、酷いっ! そんなのあんまりだよっ! こいつらが本当の魔王軍や!

生まれて此の方ただの村人のモブとしてやってきたのに、いきなりなんだこの展開は!

どこでそんなフラグ立ったぁぁぁぁぁ!?


「……つまり、俺は強制的にアリアさんの話を聞いて、その内容を承諾しろって事……ですよね?」


「はいそうです」


『はいそうです』! 即答っ! え? 合ってるの? 今の解釈であってるの? 最大限大げさっぽく言ったのに合ってるの?

……合ってるんだ……まじかよ。


「話を聞くと言う事でよろしいですね?」


「…………はい…………」


アリアさんの無理やりな脅し……じゃなくて誠心誠意を込めた頼み込みを聞き、俺は仕方なく、本当に仕方ないながらも承諾をさせられた……じゃなくて承諾した。


「それで、話ってなんですか?」


「はい。では、最初から事情を説明しますので、少々長くなり、精神的にも不安定になると思うので心して聞いてください」


俺がアリアさんにそう尋ねると、アリアさんは語り出した。


「勇者が召喚された。この事実は知っていますね?」


アリアさんの言葉に俺は頷く。


「そして、召喚されたばかりの勇者が一度勝っただけで調子に乗って、魔王軍の幹部にボコボコにやられた。この事実も知っていますね?」


再びアリアさんの言葉に俺は頷く。……言い方がこの人酷いな。


「そして、勇者はより強くなるために、現在山に篭って修行中である。ですが実際は聖剣、聖武具を根こそぎ盗んでどこかに逃げた。この建前と事実は知っていますね?」


3度目のアリアさんの言葉に俺はうなず……けるかぁ!


「……ま?(まじですか?)」


「ま……(まじです)」


「……ま?」


「ま……」


「「…………」」


「ちょ〜っと、待ってくださいね?」


「嫌です」


「そこは普通待って下さいよ!」


「はぁ、しょうがないですね……」


……色々とすごいなこの人……。ってこんなこと考えている場合じゃねぇ!

……勇者が負けて山籠りという事までは知っていた。


だが、それが嘘であり、勇者が逃げて居ない……という事実は知らなかった。

なるほど! 最初の言葉の意味が分かったぞ! つまり、何故か分からないけど俺が勇者の代役をすれば良いのか!


「…………いやいやいやいやっ! 意味分かんないんですけど? なんで俺がやるんですか?」


「くじ引き」


「嘘でしょぉぉぉぉぉぉ⁉︎」


「嘘です」


こいつー! あとでお茶でも出す時に下剤入れてやろうか? とっておきのな! 即効性も良いがバレるだろう。よって遅効性のとっておきのやつをだ!


「それで、本当の理由は何故でしょう?」


「……この国の徴兵制度で、あなたが王都を訪れた時です。ーー」


この国の徴兵制度とは、成人となった15歳以上の男性は一度は王都に召集され、兵士としての技術を2ヶ月間教え込まれるのだ。

俺も当然王都に行き、兵士として最低限の力はある。そう、最低限の力が……な!


「この時に、あなたの顔を覚えていた男の……いえ、女の騎士が居たんです。なかなか顔が好み……いえ、筋が良いとのことで」


「……今、男で顔が好みって言いました?」


「言ってません」


嘘だっ! 絶対言った! 俺男に好かれてんの!? いやぁぁぁぁぁっ!!!


「そして、勇者の顔も一度同じ戦地で見たそうなんでとても印象に残っていたらしく。……分かりますか? あなたは偶然、勇者と似た顔なんです。つまり、あなたに影武者……勇者の代わりとなってほしいんです」


アリアさんはそんなことを言って、俺に頭を下げた。曲がりなりにも国の重鎮ポストに収まっているだろう人がだ。

うん、でも俺はごまかされないよ。顔が好みって絶対に言った。俺、男色の毛は無いからね。


「……なるほど。俺と勇者の顔が偶然だが似ていた。だから、いない勇者の代わりを俺がしろと、そう言う事ですね?」


「はい。引き受けてくれますね?」


「……だが断る!」


「ならば殺します」


「冗談ですっ! 言ってみたかっただけですっ! よろこ……喜んで……お引き、受け……します」


俺は終盤若干だが泣き声になりつつそう答えた。いや、答えさせられた。

まるで誘導尋問だ。

て言うかこの人、下手したてから出てると思ったけど、自分の都合が悪くなるとすぐに高圧的になる。

もう、やだよっ! ちっくしょぉぉぉ!


「では、すぐに王都に向かいましょう」


アリアさんは椅子から立ち上がりそう言った。


「え? 今からですか?」


俺は荷造りや親への別れの挨拶など、何一つできていないのにそんな事を言い出したアリアさんに尋ねた。


「ふふっ、当然行きますよね?」


アリアさんは笑顔の皮を被った鬼の形相で、こちらの都合を一切無視した発言をした。


「1時間ほどだけーー」

「10分だけ待ちます」

「…………はい」


こうして俺は王都へと出発する事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る