続・夢中時間
あれはもしかすると所謂ナンパというやつだろうか。まぁ端から見れば容姿も整ってるしスタイルいいし声がかかるのも当然ちゃ当然か。
「おぉ、あいつもついに彼氏が出来るかも。目標達成じゃん。これでダンスを辞めるかもな」
加持の言葉に耳を疑った。なんだって? ダンスを辞める?
「彼氏ができたら辞めるってどういうこと?」
「あぁ、言ってなかったっけ。あいつのダンスを始めた理由って彼氏に振られたからなんだよ」
意外な返答に一瞬固まってしまった。
「……は?」
「意味わかんねぇだろ。振られてむしゃくしゃして外を歩いてる時にちょうど俺のダンスを見たってわけ。第一声が『ストレス発散したいからダンス教えなさい』だぜ。いかれてるだろ? あいつ別にダンスがしたかったわけじゃないんだぜ」
うぅん、何だか容易にその光景が浮かんでくるな。それで山で目標を言ったときダンス関係じゃなかったのか。確かに続ける理由がない以上、目標達成したら辞めちゃう気がする。
「でもせっかく仲良くなったのに辞めてしまうなんて僕は嫌だ。どうにかして止めたい」
「同感だ、真島君。行こうか」
ぽんっと僕の肩にタカさんが手を置いた。迷ってる暇は無い。僕達は足を進めた。
「だからしつこいっての! あんたらタイプじゃないし他あたってちょーだい」
「ひぇー気の強ぇことで。そういうのも可愛いね」
「なぁ、いいじゃん」
どうやらリンは嫌がってるようだ。安心した。これで乗り気だったらもう止める手段はないもんな。
そういえばどうやって止めに入ったらいいんだろう。こんな経験したことないからわからないぞ。彼氏だったら俺の女に手を出すなって言えばいいんだけど。あぁもう近づいてしまった。考えは纏まってないけど仕方が無い。
「あ、あのすみません」
僕のか細い声に二人が振り向いた。
「なにお前」
「邪魔すんなよ」
一蹴だった。こういう場面になると頭が真っ白になって言い返せなくなってしまうんだ。情けない僕の肩を加持が優しく叩く。
「彼女は俺たちの連れなんで声かけるの辞めてもらっていいかな?」
タカさんが間に入って助けてくれた。助けにきた人を助けるなんて変な状況だけど。
ナンパをしていた二人は少し苦笑いをしながら後ずさりしていた。
……あぁそうか。優しいイメージを持ってないとタカさんは普通に怖いもんな。強面で背が高くてしかも体格もいいし。そりゃ逃げたくなるのも無理は無い。
「ちぇ、白けた。行こうぜ」
捨て台詞を残し二人は去っていった。僕達の勝利だった。というかタカさんの一人勝ちだった。
「もぉぉ三人ともイケメンすぎー! 超助かったぁ!」
どうやら一難去ったみたいだ。リンが張り詰めた表情から安堵に変わっていた。
遊び疲れた僕達はレストランでご飯を食べてることにした。ブッフェでどれもこれも美味しくて箸が止まらない。
先に食べ終えたリンがしばらくカードキーケースの案内を眺めていた。
「地下一階に大浴場があるみたいよ。後で入りに行きましょ。体もベタベタするし」
僕達はおぉっと声を揃えて一気にご飯を口に入れる。ゆっくりとお風呂に入りたくてたまらなかった。食べ終わった僕達は大浴場へと移動した。
入浴すると体中の疲れが一気に溶け出した気がした。あまりの気持ちよさに口が綻ぶ。
……あぁ、本当に来てよかったなぁ。
***
夜も遅くなった頃三人部屋にみんなで集まった。敷かれた布団に雑魚寝をしている。
「そういえばミズキさんは何か成果はあったんですか?」
僕の問いかけにミズキさんは無表情になった。
「成果? なんのことだい? 僕は子供達に笑顔を届けただけだよー」
……あぁ、うまくいかなかったんだな。しかも恐らく子供達には真理も含まれているんだろうな。
「すごかった!」
真理がにこやかに答えていた。
とりとめのない会話を楽しんでいると急にタカさんが部屋の電気を暗くして携帯電話のライトをつけた。
「さぁ、お泊りといえば恒例の怖い話、はーじめーるよー」
う、僕は怖い話は苦手なんだよなぁ。なんか聞き終わったら嫌な想像しちゃうからさ。
みんなの返答はお構い無しにゆっくりと話は始まった。
「ええと、そうだなぁ。……真島君は四王寺市に住んでるんだよね。市の言い伝えの神様って知ってる?」
「え、あぁはい。まつたけさんってやつですよね。詳しくは知らないですけど」
「そう、その神様はね、人助けの神様なんだ。困っている人の前に現れてその人の手助けをするとてもいい神様だよ」
へぇ、そうだったのか。四王寺市ではお守りを買うときに「まつたけ様のご利益がありますように」なんて言って渡されるけど全然知らなかったな。
「その神様にまつわるお話なんだけど、死にたいって思っている人にも手助けしてしまうことがあるらしいんだ。人間やっぱり死ぬ直前は怖いから死を避けてしまうんだけど、まつたけさんは相手を殺すまで永遠と手助けをするそうだよ。もし辛い事があってあー死にたいなんて軽々しく考えてしまったら次はきっと君自身が……」
僕はごくっと固唾を飲んだ。何でよりによって四王寺市なんだ。僕しか該当者いないじゃないか。聞くんじゃなかった!
「っていう作り話を友達に聞いたから話してみただけ! あはは!」
あははじゃないよ全く……。
ふと横を見てみたら真理がなんとも言えない表情で布団に包まって僕の服の裾を握っていた。やっぱり子供だな。こんなに怖がっちゃって。
「なんだよ、泣きそうなほど怖いのか?」
僕は場を紛らわそうと真理を茶化してみた。
「は、はぁ! 怖くないし! 泣かないし! なに! 昼の仕返しでからかってんの!?」
真理ではなく布団を被っていたリンが僕に向かって叫びだした。
いや、お前も怖がってたのかよ……。
その後も怖い話大会は続き時間は流れていった。一人、また一人と寝落ちをしていく。僕も眠さの限界がきた。昼間思いっきり遊びすぎたな。まつたけさんが僕を襲いませんようにと願いながら瞼を閉じて意識を失った。
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