夢中時間

 到着時にはあった雲は時間と共に流れていったようで、今は快晴で日差しが眩しかった。目線をまっすぐにするのも困難で手を額に添えて歩みを進めた。

 あっついな。少し前までは涼しかったのにいきなり暑くなるもんだな。

 よく考えてみれば加持と再会してからもう三ヶ月経っているのか。時間の流れは早い。練習しかしてない気がするけれど。このまま練習だけして日にちが過ぎるのももったいないよな。


「あっゴーグル忘れてきた。真島先に行っといて!」


 真理が方向転換し、だーっとホテルへ戻っていった。


 ***


「あ、見てみて。パラソルとチェアーの貸し出しがあるわ! 借りましょ!」


 リンの声に目を向けると海の家に大きな看板で貸し出し備品についての記載があった。パラソルとチェアーはセットで五百円と書いてある。


「なら、それぞれ借りようか。俺とミズキで支払いしとくからパラソル設置しといて」


 タカさんの指示通り僕達は店員さんに声をかけてパラソルを受け取った。少し歩いたところに開けた場所があったのでそこに拠点を置く事にした。返却口も近いし結構いい場所が取れた。

 四つ並べて設置したあと汗が出始めたので急いでシャツを脱いだ。これで身に着けているのは水着だけとなる。加持もシャツを脱いでいた為引き締まった上半身があらわになっていた。

 あんまりまじまじと見た事なかったけど、筋肉すごいな。細マッチョってこういう感じなのか。対して僕は華奢な体だった。海に行くまでの期間腹筋でもしておけばよかったかな。


「へぇあなたって結構筋肉質なのね。うちは結構好きよそういうの」

「お前に好かれても嬉しくねぇよ」


 二人の会話が聞こえてきたので目を向けると、きれいな肌の山二つが目に飛び込んできた。練習の時は結構スポーティな格好だから気づかなかったけど、リンって意外にスタイルいいんだな。

 視線に気づいた彼女は、やはりにまっと笑って僕を見た。


「あっ、なーにそんなじろじろ見て。触りたくなった? いいよぉ。うりうりー」


 そう言って胸を寄せてにじり寄ってきた。まだまだ僕のいじりは継続中の様である。


「おっ触っていいのか。じゃ遠慮なく」


 加持が横から手を伸ばして胸を掴んだ。むにゅんと効果音が聞こえてきそうだった。


「ぎゃぁああああ! 変態! なにすんのよ!」

「お前が触っていいって言ったんだろ」


 ……もしかしたら加持は本当に頭のねじがズレているんじゃないだろうか。まぁでも今後僕をからかおうとしたらまた加持が手を出すかもしれない。これでリンのいたずらも無くなるかもしれないな。


 無事にゴーグルを持ってきた真理も合流して僕達は海を満喫することとなった。

 海に入って奥のほうに大きな四角形の浮きがありそこで皆で飛び込みをした。ダンス経験者ともあって、加持タカさんミズキさんはバック転や側宙をしながら飛び込みをしており外野からおぉーっと歓声を浴びていた。


「お前もやってみろよ。バック転なら簡単だぜ。後ろに跳んだ後顔を上に向けとけば勝手に回るから」


 加持が僕の背中を叩いてきた。


「え、無理無理無理。できるわけないよ」

「真島くん。地面と違って痛くないからやってみたら?」


 えータカさんまでそんなことを……。


「やらなくていいよー。モテるのは俺だけでいいからー」


 ……一人だけ自己主張の激しい人がいるけど、なんだか飛ばないといけない空気になってしまった。


「気楽に飛び込めよ」


 いや、そんなこと言われても怖くてすぐにできないよ。上手く飛べなくて顔から落ちたらどうしよう。足をつったら?うぅ。考えるだけで嫌だ。


「や、やっぱり……」

「いやっほーーーう!!」


 真理が僕の隣でバック転して飛び込んだ。


「うわぁ楽しい! 真島も早く飛び込め! 水が気持ちいいよ!」


 ばしゃばしゃと泳いでる真理を見て何だか怖がっている自分が馬鹿らしくなってきた。

 ええい、跳んでやる!


「──っ!」


 僕は勢いよく飛んだ。ものすごい速さで動く視界に真理の笑った顔が写った気がする。

 結論から言うと顔から下に落ちて顔にある穴という穴に海水が入り込んでものすごく苦しんだ。でも言われた通り水は気持ちよくて高揚感が楽しかった。

 飛び込みが終わると加持とリンと一緒にオーシャンウォーキングという重いヘルメットを被って水中を歩くレジャー体験をした。浮力が働いてるため足がおぼつかなく平衡感覚を保つのが難しかったが、水の中を歩くのは新鮮だった。

 たくさんの色とりどりの魚がいて僕たちの周りを自由に泳いでいた。インストラクターさんがパンを握り締めており僕たちに手渡してきた。水中でもかけるボードに「ふやける前に千切って、あげて。」と書いて見せてきた。魚たちは自由に泳いでいるんじゃなくて餌をくれる人が来たから集まってきただけなのか……。


「ぶぁーー! 楽しかった! いい思い出になった!」


 リンの叫びに僕達はうんうんと頷いた。


「うち、喉かわいたからジュース買ってくるね」


 彼女が砂浜を駆けていく。僕と加持は次の目的も無く顔を見合わせた。

 あれ、そういえば他の皆がいない。どこにいったのだろう。辺りを見回すと浜辺のほうでやたら人だかりができていた。


「加持、何か人が集まってる。行ってみよう」


 その原因となってる人物はウィンドミルやトーマスをして場を盛り上げていた。汗だくで目をギラギラ輝かせたその人はミズキさんだった。

 本格的にモテようとしてるな……。しかも人だかりの一番前では目を輝かせながら真理が見てるし。何でお前も見とれてんだよ。

 ミズキさんの傍にいたタカさんが僕たちに気づくと駆け寄ってきた。


「いやー助かった。こんなに人が集まってくるとは思わなくて。ミズキは調子に乗るし、居づらかったよ。……あれ、リンは?」

「ジュース買ってくるって言ってましたけど。そういえば遅いですね」


 海の家にジュースが売っていたはずだ。そんなに遠くないはずなんだけど。

 リンが去って行った方角を見ると、店の前でリンが男二人に絡まれているのが目に入った。

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