青天の霹靂
インターネットの接続状況が悪い。ダンスのサイトを見たいのに全然見れない。僕は部屋の中で一人無性にイライラしていた。こんなのホントに些細な事なのにストレスが溜まってしまうのはなぜだろう。
見たいものが見れないから。いつもの速度じゃないから。もう一つの理由があるとすれば、その対象が身近であればあるほど些細なことでイライラしてしまうんだろう。
インターネットなんていつでも見れるし何だったら時間を少し空ければまた快適に見れるかもしれない。見れるようになったら見ればいいのにそんなことはせず画面の前で貧乏ゆすりしてりるのだ。僕って本当愚かだよな。
最近ヒートアップしていた二人の口喧嘩は火に油を注いだかのごとく燃え上がっていた。今日なんて鏡を準備をしてないことで口論していた。そんなの使いたい人が準備すればいいのに。幸いにも僕に火の粉は振ってこないので仲介するというわけじゃないけど鏡を準備してあげた。
まーしーに感謝することね! お前が使いたいんならお前が感謝しろ! って全然収まらなかったけど。
このままだとまずい。二人に話を聞いておくべきか。
僕は加持の方へ歩みを進めた。
「なんかリンと喧嘩し過ぎじゃない? 加持らしくないよ。どうしたの?」
「はぁ? あいつが俺に当たってくるからだぞ。俺は普段どおりだ。」
あまり良くなる気配はなさそうだ。少し時間を置いてリンにも話を聞いてみることにしよう。
しばらく練習をしたところで、彼はタバコ吸ってくると席をはずした。今がチャンスだとリンの傍へ寄る。
「なーに、うちに惹かれて来ちゃった? まぁかわいいからしょうがないか」
……なんだか盛大に勘違いされてるけど無視しとこう。
「最近加持と仲悪くないかなって思って。どうしたの?」
「あいつが暴言吐いてくるのが悪いの! うちは普通!」
返答はほぼ一緒だった。似たもの同士だな。どうしたらいいんだろう。
何も思い浮かばないので一人でウィンドミルの練習をした。
やっと体を返せるようになったけどすぐに足を着いちゃう。もう少しで一周いけそうなのに。もどかしいな。
「返しをするタイミングが少し遅いぞ。もっと早く意識しな」
加持が僕の練習を見てたのかアドバイスをくれた。
わかってるんだ。今試行錯誤している。あと少し、あと少しで早くできそうな気がする。
「足の振りの方が大事よ。左足を外側からぶわぁーって振るの! そしたら腰が浮くから!」
リンも負けじとアドバイスしてきた。
それも意識してる。あと少しで早く振れそうなんだ。あと少し。
「初心者は引っ込んでろ」
ま、また喧嘩が始まった……。思わず頭を抱えそうになる。
「どったの? そんな俯いて」
「ま、真理!」
見上げると真理がひひひと笑って立っていた。
「見ての通りだよ。二人の喧嘩が収まらない。ここ最近ずっとなんだ」
僕が指差すと真理は「ふーん」とじっと見つめて唸った。
「蜂さんが跳んで来たらいいのにね」
「は、蜂?」
なんだこいつ突然何を言い出すんだ。
「この前ねクラスで喧嘩があった時に蜂が飛んできたの。クラス中びっくりしちゃって喧嘩どころじゃなくなっちゃった。やっと蜂がいなくなったら喧嘩した二人は目を合わせて笑ってたよ。だから蜂が来たら解決だよ」
いや屋内と屋外だと条件も違うし、そう簡単に来ないだろ。しかも解決にはならん気がする。
「でもそのあと先生に二人とも怒られてた。かわいそうにね」
真理がぽつんと言ったが僕にはあまり聞こえてなかった。ある事を思いついたのだ。
そうだ。びっくりか。もしかしたら……上手くいくかもしれない。一か八かやってみよう。
「先生って何でいつも怒るんだろうね。怒るのが仕事みたい」
話は続いていたが無視して僕は二人の下へ駆け寄った。
「なによ! 私だってタカとミズキに教えてもらったことを伝えただけじゃない! 初心者なんて関係ないわよ!」
「いちいちうるさいな! あの二人の方がいいならここじゃなくてあいつらと練習しろよ!」
「まぁなんて言い草! あんたねぇ……!」
うわ、思ったよりひどい状況だぞ。早く実行しなきゃ。ええと二人の言葉を思い出せ。体と足、体と足。イメージだ。集中しろ。……よし!
「よっしゃああああ!! 見とけよ!!」
僕は普段出さないボリュームの声で叫んだ。驚いた二人がこっちを見た。
まずは思い切り足を振る! 左肘を崩して肩から背中に体重移動させて仰向けになる! ここだ! 足を思い切り振って、体を……全力で返す!
勢いよく崩しと返しをした僕は一周回った後もスピードが落とせずどたっと倒れた。
よっしゃ! ウィンドミル成功だ! 見たか、二人とも!
ぽかーんとしてる二人に向けて拳を突き出した。
「二人のアドバイスを同時にしたらできたよ! どちらも正しかった! 悪いやつなんていなかった! これで口喧嘩はお終い!」
ふーふーと息を荒立てて捲くし立てた僕を見て二人は笑った。
「あはははは! すごい必死になって変なの!」
なんだかすごく失礼なことを言われたが、まぁいいだろう。加持も満点大笑いだし。
「あーあ、何だか喧嘩してたのが馬鹿みたい。ごめんね。加持君。うちうるさすぎたよね」
「いや俺も言い過ぎたかもしれん」
二人の歩み寄りを聞きつつ真理のほうをちらっと見た。彼女はいつもの笑顔で僕に親指を立てていた。僕も拳を上げて返す。
よし、これで壁は乗り越えた。後は進むだけだ。
突き上げた拳の先に浮かぶ夕焼け空は僕たちを暖かく包みしっかりと輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます