立ち止まっては焦り
急いでいる時ほど信号の赤色に引っかかることが多い。
もうすぐ練習の時間になってしまう。僕は焦っていた。だって信号に3回連続で引っかかているんだから。こんなことなら遠回りしてコンビニなんていくんじゃなかった。
いや、こういう時こそ落ち着いてみよう。信号なんてたかだか数十秒くらいだ。そんなに慌てることはない。今日の練習は何しようか思いを馳せようじゃないか。
想像の中の僕はいつも華麗なステップをしている。実際そうだといいのに。ぼ-っとしてるうちに信号機が青に点灯してることに気がついた。
歩を進めながら時計を見ると針は既に練習開始時刻を通過している。目を見開いて確認しても過ぎた事実は変わらなかった。
遅刻じゃないか! 急がないと!
僕は急ぎ足からかけ足と切り替えて無我夢中で走り抜けた。
「準備運動はできたみたいだな」
事前に受付を済ませた加持が鍵をくるくる回していた。
「いや……まぁ、うん。とにかく遅れてごめん」
「気にすんな。俺も遅れたりするしお互い様だろ」
加持はクールだけどこういう優しい所があるから好かれるんだろうな。ツンデレってやつか?
「ハロハロー! さぁはりきって練習しよう!」
後ろからばしっと肩を叩かれたが振り返るまでもなくリンだと分かった。
「こういう遅れても悪びれない馬鹿もいるからな」
ツンデレっていうかツンドラだな。ツンツン過ぎる。
その馬鹿は「なによもう」と口を膨らませ軽運動室へ走っていった。
まだ鍵開いてないよ。
さっさと開けなさいよね。うるせぇ馬鹿。と罵り合いをしながら軽運動室に入った。
あの山に行ってから約二週間か。三人で練習するのも慣れてきたな。いつかは真理も入れて四人でしたい。
ここ最近の練習で加持にしゃがんでする基本のフットワークと、トップロックにアップロック、ツイストやポップコーンなどの立ち踊りを教えてもらった。加持から教えて貰った「スタンダード」というブログも暇さえあれば見ているので他にもステップは勉強している。
色々教えてもらってからは各々やりたい練習をする形をとっていた。
リンはフットワークが好きみたいで音に合わせてステップを踏んでいる。動画サイトに投稿してある海外のダンサーの真似なんかもしていた。
加持は主にパワームーブというダイナミックな動きを練習している。確か今やってるのはウィンドミルってやつだな。そこから他の技に繋げている。すごいな、何したかよくわからなかったけどあれもパワームーブなのだろう。
ウィンドミルは恐らくブレイクダンスの中でも有名な技で、寝転がった状態で開脚をして回る技だ。僕も何となく見た事がある気がする。どこで見たか覚えてないけど多分有名人がテレビでくるくる回っていたのを見たのかもしれない。
僕の目線に気づいたのか加持がムーブが終わった後近づいてきた。
「なんだそんなに見て。お前もパワーしたいのか?」
僕がパワーだって? いやまだ早いだろう。
「いや、まだちょっと早いかなぁ。あはは」
そう苦笑いしたが加持には通用しなかった。
「パワーは早いうちに始めた方がいいぜ。変に逃げる癖つけると練習がますます辛くなるぞ。」
何が言いたいのかさっぱりだが加持は僕にパワームーブをさせる気満々のようだ。
「わ、わかったよ。そしたら何から始めたらいい?」
「最初はやっぱウィンドミルだろ。まずは人型チェアーからだな。このチェアーできるか?」
そう言って加持はチェアーをした。ただ普通のチェアーと違って体が地面に平行だった。両手だけで体を浮かしていた。
「どうだろう。普通のチェアーは慣れてきたからいけるかな」
そう言って加持と同じ体制をとったが、僕の発言は大間違いだった。足を浮かせるのがきつい。なんならつりそうだった。
「いや、ちょっとすぐには厳しいかな。これ」
しかも通常のチェアーより遥かに腕の負担が凄かった。
「まぁ、これを片手で支えれたら次のステップな」
か、片手だって……? 両手でもできないのに……?
えーなにそれ面白そう。と乱入してきたリンも人型チェアーの練習を始めて、僕と競い合ってきた。
正直助かる。一人でこれやっとけって放置されてたらきっと挫折しただろうから。
僕も張り切って勝負した。まぁ結局二人とも終了時間まで全然できなかったんだけど。
かくして僕は始めてのパワームーブに挑戦することになった。早くできるようになりたいとは思って練習するけど、こういう時に限って赤信号になったりするんだ。焦らずちゃんと練習すればいいのに少しできないからといって他の練習に逃げたりする。
帰ってからの自主練習でちょこっと人型チェアーをしてみたがやっぱり出来なくて、ラビットという逆立ちで跳ねる技を練習している自分がいた。
できるようになりたい時に限って変な練習ばっかりしてしまうんだよな。
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