第ニ章 悲しき依頼者
駆がアパートに戻ったのは、夜の8時を過ぎていた。
アパートの階段を上り、部屋へ向かうと、部屋のドアの前に、踞る人影に、駆は、眉を寄せた。
静かに近付くと、その人影は、奈未だった。疲れたように座り込んでいる奈未に驚き、駆は、側に駆け寄ると、腰を屈める。
「奈未さん!どうしたんです?!」
駆の声に顔をゆっくりと上げた奈未は、涙に濡れた顔で力なく笑った。
「駆くん……私、もうダメ。」
呟く奈未の身体を支え立たせると、駆は、部屋のドアを開け、奈未を中に入れた。
部屋の明かりをつけようとした駆の手を弱々しく止め、奈未は、静かに呟いた。
「明かりは、つけないで。」
薄暗い部屋の中、月明かりが窓から差し込み、二人を照らす。
ソファーに奈未を座らせると、駆は、キッチンへ向かった。その背中を奈未は、力なく見つめている。
しばらくして、駆がマグカップを片手に側へきた。
「ホットココアです。気持ちが落ち着きますよ。」
「……ありがとう。」
カップを受け取り、奈未は、隣に座った駆の肩に、トンと頭を乗せた。
「お父さん、入院しちゃった。」
「えっ?」
声を上げた駆に、カップをテーブルに置き、奈未は、話し出す。
「今日、金融業者に、お金を返しに行ったの。1千万。
だけど、借りた、お金2千万になってた。利子だって。」
「借金って、闇金からだったのか……。」
奈未は頷き、話を続ける。
「店が上手くいかなくてね。お金を借りようとしたけど、どこも断られちゃって。一件だけ、貸してくれる所があったの。それが闇金だったのよ。返しても返しても、借金は減らなくて。それで、今日、行ったら、そう言われて。お父さんが怒鳴ったら、あいつら、お父さんに暴力を……!私も…………!!」
そこまで言うと、声を詰まらせ、奈未は、両手で顔を覆い、泣き出した。
月明かりに照らされた奈未の身体には、よく見ると、あちらこちらに、アザのようなものがあった。
「奈未さん………。」
駆は、泣いている奈未の身体を強く、抱き寄せた。その瞳が怒りに震えている。
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