第ニ章 悲しき依頼者
その頃、駆は、赤いスポーツカーに乗り、優子の身辺を探っていた。
優子は、とある会社に勤めていた。駆は、携帯をバッグから取り出すと、電話を掛ける。
『はい。○○商事です。』
受け付けの女の声が聞こえる。駆は、落ち着いた口調で、こう言った。
「そちらで働きたいのですが。」
『人事部に、お繋ぎします。少々、お待ち下さい。』
電話の保留の音楽が流れ、ガチャと音が鳴る。
『はい。人事部。』
「私、矢崎 駆と申します。そちらで働きたく、お電話を致しました。」
『営業の仕事の御経験は、ございますか?』
「はい。3年ほど、営業の仕事をしていました。」
『そうですか。では、明後日の朝10時に面接を行いたいと思いますが、ご都合は、よろしいでしょうか?』
「はい。大丈夫です。」
『では、明後日、お待ち致しております。』
「ありがとうございます。失礼致します。」
電話を切り、シャツの胸ポケットから煙草を取り出すと、駆は、一本、口にくわえ、ライターで火をつけた。
大きく煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出しながら、目の前に、そびえたつビルを駆は、光のない瞳で見つめていた。
「さて、始めましょうか。」
呟き、煙草を口にくわえたまま、駆は、スポーツカーを走らせ、その場を去った。
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