第ニ章 悲しき依頼者
奈未を部屋に招き入れ、閉めきったカーテンを開ける駆。
「具合でも悪いの?顔色が悪いわ。」
「大丈夫です。少し……疲れているかもしれません。」
キッチンへ向かい、駆は、ヤカンを火にかける。
「…駆くん。今月で、お店、閉めることになったの。」
「えっ?」
駆は、振り向き、奈未を見た。奈未は、フッと笑うと壁に背をつける。
「お店、続けてても、借金は増えるばかりだし。今、あるもの全部、売り払って、田舎に行くつもり。お父さんの生まれた故郷。それでも、借金は、残っちゃうんだけど、少しずつ、払っていこうって。お父さんと話して、決めたんだ。」
奈未の話を聞きながら、駆は、寂しそうに彼女を見つめた。
「…田舎って、どこ?」
「青森。」
「青森か……遠いね。」
悲しく呟く駆に、奈未は、明るく笑う。
「やだなぁー。そんな顔しないでよ。会おうと思えば、会えるわよ。」
「そうだね……。」
駆は、呟き、しばらく考えていたが、キッチンを離れ、本棚に向かう。本棚の右の引き出しから、二つある通帳の一つと印鑑を取り出す。
「とても、失礼なことだけど……これ、1500万ぐらい入ってる。何かの役に立てて欲しい。」
「えっ!?ダメよ!だって、駆くんが一生懸命、働いて貯めた、お金じゃない!」
「いいんだ。使ってよ。但し、あげるんじゃないよ。貸すんだから。何年、何十年かかってもいいから、ちゃんと返してね。」
「それは、もちろんだけど……でも、駆が困るでしょ?」
「俺のことは心配しないで。金なんて、働けば、また貯まるんだし。他にも、少し貯金あるから。」
駆の言葉に、奈未は、唇を噛み締めた。
「……ありがとう、駆くん。本当は、すごく困ってたんだ。大事に使わせてもらうね。」
「うん。」
優しく微笑む駆の側に行くと、そっと、彼の胸に頭をつけ、奈未は呟く。
「…私、ずっと、駆くんのことが好きだった。田舎に行ったら、駆くんに会えなくなる。……寂しい。」
駆は、そっと奈未を抱き寄せ、優しく言った。
「俺も、奈未さんのこと、好きです。また、会えますよ。きっと。」
「うん、会えるよね。そうだよね。」
駆の胸に顔を埋め、奈未は、言う。泣いているのか、声が震えていた。
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