第ニ章 悲しき依頼者
女は、紳士から顔を背けると、話を始めた。
「私の名前は、南 優子。10年前、中学生だった私は、一人の女性を殺しました。」
優子の話を聞きながら、紳士は、母親のことを思い出していた。10年前といえば、駆の母親が死んだ頃である。死んだ……いや、殺された頃。確か、母親を刺したのは、中学生だった。まさか………。
瞳を震わせ、紳士は、優子の話を聞いていた。
「その頃の私は、ぐれてた。父は、家庭には帰らず、愛人の所に入り浸り。母も仕事を理由に、家には、ほとんど、いなかった。なにもかも嫌で、学校も行かず、仲間達と街をふらついていた。そんな時、仲のいい親子を見つけたのよ。母親と息子だった。息子は、私と同じ年か少し年下で。仲良く笑いながら歩いているのを見てたら、なんだか、むしゃくしゃして。」
優子の話に、紳士の肩が小刻みに震えだす。まさかという思いが次第に確信へと変わっていく。
「…そんな……そんな、くだらない理由で、人を刺したのか?」
震える声を押さえ、紳士は言う。優子は、悲しく息をつく。
「そうね。くだらない。本当に、くだらない理由。脅すつもりだったのに、まさか、死ぬなんて……!少年法で死刑には、ならなかったけれど。……忘れられないの。あの時のことが……。自分が犯した罪が許せないの!ずっと、死にたいと思っていた。自殺も考えた。だけど、自殺なんて、生易しい死に方、許せないの。……あのサイトを見つけた時、やっと死ねると思った。……殺して……下さい、私を。………殺して!」
テーブルに俯せ、声を上げなく、優子。紳士は、ガタンと激しく席を立つ。その身体がブルブルと震えている。
「………今日は、ここまで。また、日を改めて、お会いしたい。」
そう言って、去ろうとする紳士を優子は、止める。
「待って下さい!」
「止めるなっ!!」
紳士の怒鳴り声に、優子は、ビクッとなる。紳士は、ハットで顔を隠すと、静かに言う。
「……止めるなよ。でないと、俺は………。
ここで、あんたを殺してしまいそうだ。」
「えっ?!」
紳士の言葉に、優子は、驚いた声を上げた。ダッと、その場を走り去る紳士。
これも、運命なのだろうか?
ならば、なんて残酷な運命だろうか。
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