第ニ章 悲しき依頼者
赤いマニュキュアをつけた手をテーブルに置き、女は少し俯き加減に、何処ともなく、ぼんやりと一定の場所を見つめている。その女の横顔を紳士は、どこか懐かしい感じで見つめていた。
『似ている……一瞬、あの人かと思った。いや…あの人は、もう……いないんだ。』
心の中で、そう呟き、紳士は、女に言う。
「話を聞きましょうか。」
紳士に言われ、女は、顔を上げ、じっと見つめる。その視線に、ドキリとなる。
「私を………殺してくれませんか?」
「えっ…………?」
聞き間違いかと紳士は、声を上げた。
「今………何て?」
女は、真っ直ぐに紳士を見つめ、もう一度、言った。
「私を殺して欲しいんです。」
ボーイが持ってきた飲み物をテーブルに置く、それを手に取り、紳士は、一気に飲み干す。
「自殺の手伝いかね?死にたければ、勝手に死ねばいい。……くだらない!」
吐き捨てるように言った紳士に、女は、少し強めに言った。
「それが出来ないから、お願いをしているんです!これは、正式な依頼ですよ?報酬も、お支払いします。」
嘘や冗談で、女が言っているのではないことは、彼女の目を見れば分かる。しかし………。
グラスの中、カランと音を立てた氷を見つめ、女は、話す。
「とにかく、話だけでも、聞いてもらえますか?話を聞いた後に、依頼を受けるかどうか、決めて下さって結構です。…………お願い。」
スッと、女の瞳から流れた一筋の涙に、紳士は、息を飲む。そして、軽く息をついた。
「……いいでしょう。お伺い致します。」
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