第一章 復讐の幕は開かれた


 店の片付けが終わったのは、もう夜の7時を過ぎていた。店のカウンターの席に腰を下ろした駆に、暖かいお茶を入れた湯飲みを置き、奈未も隣に座った。


「お疲れさま。折角の休み、台無しにしてしまったわね。ごめんなさい。」


駆は、お茶の入った湯飲みを手に取り、軽く笑った。


「大丈夫ですよ。どうせ、家に帰って寝るだけだから。いい運動に、なりました。」


その言葉に、奈未も、クスッと笑った。


「夕飯、うちで食べていかない?」


「そうしたいけど、家で、ゆっくり食べます。汗をかいて、シャワーも浴びたいので。」


「そう。今日は、ありがとう。」


「いいえ。おじさんに、よろしく。俺、店の方から出ますから。」


湯飲みをテーブルに置き、駆は、立ち上がると、店の扉へ向かう。

それを止め、奈未は、立ち上がった。


「駆くん……お礼がしたいの。」


「お礼だなんて。そんなの目的でしたわけじゃありませんから。」


優しく微笑み、そう言った駆に、奈未は、首を振る。


「それじゃ、私の気が済まないの。駆くんが迷惑じゃないなら、受け取って欲しいの。ねぇ…ちょっと、しゃがんでくれる?」


そう言われ、首を傾げたが駆は、黙って、腰を屈めた。その駆の唇に、奈未は、そっと唇を重ねた。

静かに、唇を離した奈未は、少し俯き、呟いた。


「ごめんなさい。迷惑だったかしら?」


そう言った奈未に、駆は、フッと笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。とても、素敵な、お礼でした。」


スッと立ち上がった駆に、奈未は嬉しそうに、微笑む。


「駆くんは、モテるでしょうね。イケメンだし、優しいし。」


「残念ですけど、モテません。イケメンでも、ありませんしね。俺の自慢は、背が高いところだけです。」


軽くウインクをして、そう言った駆を奈未は、クスッと笑った。


「身長、何センチ?」


「そうですね……5メートルぐらいかな?」


「えっ?!」


驚いて見つめる奈未に、駆は、クスクスと笑った。


「うっそ。185センチです。」


「フフフ。駆くん、面白い。」


声を立て笑う奈未に、駆は、優しく笑みを浮かべた。


「奈未さんは、笑った顔の方が素敵です。」


「えっ………?」


頬を染めた奈未の髪を優しく撫でると、駆は、扉を開けた。


「じゃあ。また、ラーメン食べに来ます。」


「うん。気をつけて、帰ってね。またね。」


外に出た駆を見送ると、奈未は、店の中に入って行った。

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