第一章 復讐の幕は開かれた


 二杯目のコーヒーを飲みながら、奈未は、少しずつ話をしだした。


「立ち退きの話が出てるの。でも、お父さんは、あの店は、ずっと、あの場所にあって、立ち退かないって。毎日のように、何人か押し掛けてきて、お父さんと言い争ってる。昨夜も、駆くんが帰った後、うちに来て、店の中を荒らされて。お父さんも、怪我しちゃって。」


「おじさんが怪我?!」


眉をひそめた駆に、奈未は、手を振る。


「あっ、お父さんの怪我は、大したことないの。でも、お店の中がめちゃくちゃで。今日は、お店、お休みするって。」


駆は、黙って、奈未の話を聞いていた。奈未は、続けて話をする。


「お店を荒らすだけじゃなく、あることないことを話したり、張り紙したりするものだから、お客さんも減っちゃって。駆くんも知ってるでしょ?お店、ガラガラだったの。あれ、昨日だけじゃないのよ。毎日、あんな状態。私……疲れちゃった。」


深い息をついた奈未の髪を優しく撫でると、駆は、静かに言う。


「一緒に、店に戻ろう。店の片付け、手伝うよ。おじさんのことも、心配だしね。」


「…駆くん、ありがとう。」


涙で濡れて顔で笑う奈未に、駆は、口元に笑みを浮かべた。


「こんな俺を家族だと言ってくれて、嬉しかった。

礼を言うのは、俺の方です。さぁ、行こう。」


二人は、立ち上がると、奈未の店へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る