第一章 復讐の幕は開かれた


駆の言葉に、奈未は、駆に強く抱きついた。その肩が小刻みに震えている。


「おんぼろだけど、俺のアパートに来ませんか?」


優しい駆の声に、奈未は小さく頷いた。


アパートに着き、奈未をソファーに座らせると、駆は、キッチンへと向かう。


「コーヒー、飲みますか?」


「うん。頂くわ。」


駆は、やかんに水を入れるとガスコンロにかけ、火をつける。棚から、白いコーヒーカップを取ると、インスタントコーヒーを入れる。


コーヒーを入れ、ソファーのある部屋へ運ぶと、駆は、奈未の隣に、腰を下ろした。


「ミルクと砂糖は、セルフサービスです。」


軽くウインクをして、そう言った駆に、奈未は、クスッと笑う。


「ありがとう。」


奈未は、カップを一つ手に取ると、一口、口に含む。


「部屋、綺麗にしてるのね。」


「物があまりないから、そう見えるんですよ。掃除も楽ですよ。部屋、狭いから。」


クスリと、笑って駆は、そう言った。


二部屋に、キッチンと風呂、トイレ付き。独り暮らしには、丁度良い広さかもしれない。


薄いブルーのカーテンに、白いソファー。衣装ケースとガラスのテーブル。あとは、本棚があるぐらいだ。


「ここ家賃、いくらなの?」


「4万ちょっとです。何しろ、古いんで。」


「でも、偉いわね。一人で、ちゃんと、やってるし。

……一人で、寂しくないの?」


奈未に問われ、駆は、カップをテーブルに置き、ソファーに、深く背をつけた。


「もう5年も独り暮らしをしているので、慣れました。

独りの方が楽ですよ。」


口元に笑みを浮かべ話す駆を見つめ、奈未は、軽く息をつく。


「そっか…私も住みたいな。」


ポツリと呟いた奈未に、駆は、口を閉ざした。奈未は、慌てたように、笑った。


「ごめんごめん。冗談だから。」


駆は、フッと笑うと、こう言った。


「俺は、独りの方が好きなんです。」


「う、うん。そうだよね。」


奈未は、テーブルにカップを置くと、立ち上がった。


「私、帰るね。駆くんと話してたら、元気になった。」


背を向け、部屋を出ようとした奈未を後ろから、優しく抱き締めると、駆は、耳元で、こう言った。


「独りの方が好きだけど、奈未さん一人、守れる自信はあると言ったよね?俺の前だけでも、素直になりなよ。強がらなくて、いいから。」


「駆くん……!!」


駆の言葉に、奈未の瞳から、涙が溢れ、次々と、零れ落ちた。

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