第35夜 眺める

小学4年の時、父親の転勤の都合でS県とある町のの学校に転校しました。


登校初日の朝、私は母と一緒に小学校までの道を歩きながら、見慣れない街並みをキョロキョロと観察していました。

その時、古ぼけた民家の二階の窓から、学ランを着た中学生くらいの男の子が外を眺めているのに気が付きました。


転校先の学校では、すぐに友達ができました。

学校が終わって帰ろうとしていると、数人のクラスメイトが一緒に帰ろうと声をかけてくれました。

みんなとおしゃべりをしながら帰っていると、行きに見た学ラン姿の男の子の家に差し掛かりました。

なんとなく二階の窓を見上げると、行きに見た男の子が同じように外を眺めていました。

その家を通り過ぎた後で、一緒に帰っていた子たちに

「あそこの家の男の子、朝も同じように外を眺めてたよ」

と言いました。

「あぁ、学ラン着た子でしょ?」

みんなその男の子のことを知っているようでした。

「有名なの?」

と私が訊くと、一人の子が教えてくれました。

「ここが通学路の子はみんな知ってるよ。私たちが生まれる20年くらい前からいるらしいよ」


一年後にまた父親の転勤で引っ越し、それからあの町には一度も行っていません。

彼のことも忘れかけていました。

では、何故思い出したのかというと、最近彼の姿を見るようになったんです。

私、思うんですけど、彼がいた民家が取り壊されてしまったんじゃないでしょうか。

ある時は歩道橋の上に、ある時は向かいのアパートのベランダに、彼の姿を見るんです。

今でも彼は、じっと何かを眺めているんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る