第30夜 チャポン

私は解体屋の仕事をしています。


その現場は山の中腹にあり、いつから建っているのかわからないようなボロボロの古民家でした。

解体作業は順調に進み、家がほとんど崩されると、家の裏の茂みにコンクリートの蓋をされた井戸が見つかりました。

依頼主に訊くと、埋め立ててくださいと言われたので、私たちは井戸の解体にも着手しました。


4人がかりで重いコンクリートの蓋をずらし、現場のリーダーが井戸の中を覗き込みました。


チャポン


水の音がしたと思うと、リーダーは井戸から飛び退きました。

「どうしたんですか?」

と私が訊くと、

「何でもない。作業を進めよう」

と言いました。

しかし呼吸は荒く、顔が強張っており、きっと何かを見たんだなと思いました。


私たちはコンクリートの蓋を退かし、井戸の縁に立て掛けました。

すると、蓋の裏が向いている方に立っていた仲間が悲鳴を上げました。

何事かと思い、急いで蓋の裏を見ると、泥の付いた手形がたくさん付いていました。

手の大きさからして、小さな子供のもののようでした。

「何も考えちゃダメだ。作業を続けろ」

リーダーの一言で私たちは無心で作業を続け、早々とその現場を後にしました。


リーダーが井戸を覗いた時、一体何を見たのか、何度訊いても教えてくれませんでした。

不思議なのはあの「チャポン」という音です。

解体する時に分かったんですけど、井戸は枯れていて、水は一滴もなかったんです。

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