第31夜 トンボ

小さい頃、毎年夏休みに祖父母の家に泊まりに行っていました。

いつも客間に泊まらせてもらうのですが、その客間の天井にはシミがたくさんありました。

シミはトンボのような形をしていて、私は弟と

「トンボが1匹、トンボが2匹……」

と数えて遊んでいました。


私が小学3年、弟が小学1年のことです。

その年の夏休みも家族で祖父母の家に泊まりに行き、客間で寝ていました。


夜中に叫ぶように泣く声で私は目を覚ましました。

眠い目を擦りながら見ると、弟が母親に抱かれて泣き叫んでいました。

母は

「怖い夢を見たみたい」

と言って、弟を連れて客間を出て行きました。


翌朝、先に起きて居間にいた弟に、昨夜どんな夢を見たのか尋ねました。

「夢じゃないよ……」

弟は暗い顔をして俯きました。

「客間で寝てたら上から話し声がして、天井を見たら、上半分だけの顔がたくさん浮かんでた」

「本当に?見間違いじゃなくて?」

「あのシミ、トンボじゃなかったんだ。上の羽根は目、下の羽根はほっぺた、胴体は鼻のあとだよ」

その年以降、私たち姉弟は客間に泊まれなくなりました。

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