第29夜 呪い壁

大学の同期にAという男がいました。

Aは、いつも左足を引きずって歩いていました。

ある時、Aに

「その左足ってどうしたの?」

と何気なく聞いてみました。

すると、Aは

「お前、怖い話って平気?」

と言って、こんな話をしてくれました。


Aは小学生の頃、いじめられっ子だったそうです。

最初は上履きを隠されたり、机にゴミを入れられたりなど陰湿なものだったらしいのですが、学年が上がるにつれて、いじめはエスカレートしていきました。

5年生になる頃にはいじめは表面化していき、仲間外れはもちろん、殴る・蹴るなどの暴行をされることもあったそうです。


そんなある日、いじめの主犯格のBの財布がなくなったと騒ぎになりました。

急遽持ち物検査が行われ、Bの財布がAのランドセルから出てきました。

Aはハメられたと思いました。

BがわざとAのランドセルに入れたんだと。

Aはやってないと主張したそうですが、担任はAを教卓の前に立たせ、クラスメイト全員に謝罪させました。


Aは、いじめに気付かないどころか、無実の罪で謝罪させる担任を恨みました。

担任に復讐してやりたくなり、ある噂を実行しようと思い立ちました。

その噂とは、町はずれにある廃墟に「呪い壁」と呼ばれる壁があり、そこに赤いペンで名前を書かれた者に不幸が訪れるというものでした。

Aは学校から帰った後、赤いペンを持って、例の廃墟に向かいました。

その廃墟は一面ツタでびっしりと覆われていました。

しかし、何故か玄関のドア付近にだけはツタがなく、鍵も開いていたので、すんなり侵入できました。

「呪い壁」はすぐに見つかりました。

玄関から入って、廊下を抜けた先の奥の部屋に、一面だけたくさんの名前が赤い文字で書かれた壁があったのです。

その異様な光景に恐怖を覚えましたが、Aは壁に恨みを込めて担任の名前を書きました。


次の日学校に行くと、朝礼に担任は来ず、代わりに教頭がやってきました。

担任の家が昨晩火事になり、担任は全身に火傷を負ったと言うのです。

Aは呪いが効いたんだと思いましたが、怖さよりも自分はすごい力を得たのだと喜ぶ気持ちの方が大きかったそうです。

それからその廃墟に通い、いじめてきたやつらの名前を書いていきました。

いじめの主犯格のBは車に跳ねられ、入院。

Bの仲間たちは、謎の高熱で寝込んだり、親が離婚して転校したりと散々な目にあっていきました。


いじめているやつらが次々といなくなり、とうとうAはいじめられなくなりました。

そのため「呪い壁」に名前を書く必要もなくなりましたが、Aはどこか物足りなさを感じていました。

自分をいじめたやつらがひどい目にあっていくのを嬉しく思っていたAは、名前を書くことに快感を覚えるようになっていたのです。


そこで、Aは直接いじめてはいないけれど見て見ぬ振りをしていたやつら、全員の名前を書いてやろうと思いました。

自転車に乗り、廃墟まで行って、壁にたくさん名前を書きました。

殴られているのを見たのに助けてくれなかったやつ、からかわれているのを見て笑っていたやつ、恨みのある名前が壁を埋め尽くしていきました。

「次は誰の名前を書いてやろうかな〜」

なんて言いながら名前を書こうとすると、目の前の壁に赤い色の文字が浮かび上がってきました。


『次はお前だ』


Aは廃墟を飛び出し、自宅を目指して全速力で自転車を漕ぎました。

そして、自宅までもう少しというところでトラックに跳ねられました。


「跳ねられて、アスファルトに叩きつけられる時って、スローモーションみたいに見えるって言うじゃん。あれ、本当なんだよ。だから見ちゃったんだよね、呪いの正体。気持ち悪いからあんまり詳しくは言いたくないけど、人間の形はしてなかったよ」

Aは左足を撫でながら、悲しそうに目を伏せました。

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