第23夜 そういうお客様

私は学生時代、レストランでアルバイトをしていました。

そのレストランでは、案内した覚えがないのに座っているお客様がたまにいました。

店長が霊感の強い人で、そういうお客様がいると

「お冷持って行っちゃダメだよ。近くを通る時も顔を見てはいけないよ」

と教えてくれていました。

そういうお客様が見える人と見えない人がいて、私ははっきりと普通の人みたいに見える方だったので、店長から教えてもらえて助かっていました。


さて、今回はそのアルバイトで1番怖かった体験をお話ししたいと思います。

その夜は異様にお客様が多く、店員全員が慌ただしく働いていました。

「すみませーん」

と呼ばれ、私は注文を取りに窓際の席に向かいました。

そのお客様は女性で、お一人で来られているようでした。

パーマのかかった茶髪に濃いメイクをしていて、派手な紫色のタートルネックのセーターを着ていました。

「ご注文をお伺いします」

と私が言うと、店長が走ってきました。

「申し訳ございませんが、おかえり頂けますでしょうか?」

店長は女性に深々と頭を下げましたが、女性は店長を無視してメニューを見ていました。

もしかして出禁の方なのかな?と思い、私も店長の真似をして頭を下げました。

すると、

「チッ」

と舌打ちをして、女性は席を立ちました。

店長に小声で

「絶対に去っていく姿を見るな。僕が良いって言うまで絶対頭を上げるなよ」

と言われ、私は訳がわかりませんでしたが、店長の言う通りにしました。

「もういいぞ」

と言われて顔を上げると、店内に女性の姿はもうありませんでした。

店長に

「あの人、何かあったんですか?」

と聞くと、

「生きている人間じゃなかったよ」

と言われました。

普通の人にしか見えなかったので、私はとても驚きました。

「気付かなかった?あの人、こんな真夏にセーター着てたでしょ?あと、お冷置かれてないよね。たぶん僕と君にしか見えてないよ」

そう店長に言われ、私は震え上がりました。

それからは来店されるお客様の様子に人一倍気をつけるようになりました。

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