「ケンタ」と「みゆり」・解決編

ROUTE14 ケンタが消えちゃった!

「みゆりちゃん!」


 ケンタが、大喜びで駆け寄っていく。みゆりの足元にまとわりつく。でもみゆりには、ケンタの姿がわからない。


 がいる。そう感じるけど、何も見えない。


 いつまで経っても自分の名前を呼んでくれないみゆりを、ケンタは動きを止めて不思議そうに見上げる。


 みゆりちゃん。みゆりちゃん。誰かが自分を呼んでる気がするのに、何も聞こえない。


青川あおかわみゆりさん、初めまして。俺は、甲斐かい健亮けんすけといいます」


 初対面の女子小学生に、甲斐は丁寧に挨拶をした。


 続けて、みゆりにはとても信じられないようなことを口にした。


「俺、きみが捜してるケンタを連れてきたんだ。ケンタはすぐそこにいるよ。見えないだろうけど、確かにいる。きみになでてもらえるのを、ずっと待ってるよ」


「……ケンタ? いるんなら、なんで見えないの?」


 じわじわと、みゆりの目とおでこが熱くなってくる。


「ケンタ、幽霊なの? 死んじゃったの? そんなのやだよ……」


『幽霊では、ない』


 黒鶴くろづる――みゆりの目には黒いもやに見える精霊が、甲斐のそばに浮かんでいる。


『ケンタの体は、ここではない場所でずっとみゆりが来るのを待っている。ケンタはまだ生きている。だから、泣いてるひまなんかないぞ』


「生きてるの? ほんとに? じゃあ、今どこにいるの?」


 そのとき。ケージの中の、今までぴくりとも動かなかったものが、急に動いた。


 かすかに脈動する、小さな体。「セレ」という名の、ただの個体だったもの。


 その小さな目が、ゆっくりと開いた。


 同時に、甲斐が小さく悲痛な声を上げた。


 そこにいたはずの「ケンタ」が、甲斐の視界から、すうっと消え失せてしまったのだ。



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


つぎは

⇒ROUTE15 「セレ」と「ケンタ」のみちすじ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897258484

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