第21話
「たいへんよ! はやく外に出て!」
僕は一瞬戸惑ったが、あまりに緊迫したアニマの様子に急いで外へと飛び出した。
街の方角の空がまるで夕焼けのように赤く染まっていた。もちろん陽はとっくに沈んでいる時間だ。火事だ、と僕は思った。それもかなり大きなものに違いない。
僕はアニマのほうに目を向けた。アニマは緊張した表情で赤く焼けた空を見つめていた。
「嫌な予感がするの…急ぎましょう」
そう言ってアニマはひとりかけだしていった。
「ちょっと待てよ!」
僕がそう言って走っていくアニマを追いかけだしたとき、家からエリカが心配そうに顔をのぞかせた。
「どうしたの?」
そう言ったエリカは、赤々と燃え揺らぐ空を見て驚きの表情を浮かべた。
「エリカ、お前はうちにいるんだ。いいね?」
「…わかった。気をつけてね」
不安そうなエリカを残し、僕は急いでアニマのあとを追った。
坂道を下り、池になった屋敷跡のあたりでアニマが立ち止まっていた。アニマの目の前にはまるで巨大なスプーンでえぐり取られたようにくぼんだ地面が横たわっていた。えぐられた部分は焼け焦げていて、ところどころに火がくすぶっている。
「これは一体…」
僕の言葉には答えず、アニマはえぐられた道を再びかけだした。僕もアニマのあとについて走った。
僕たちは何も言わず全力で走り続け、畑を横切る一本道のところまでやってきた。そしてついに僕たちはその姿をとらえた。作物や路肩の木々を焼き払いながらゆっくりと移動する巨大な炎を目にしたとき、僕は思わず身震いをした。炎、というよりもむしろ燃え盛る巨大な粘土の塊のようなそれは、まるで生き物のようにうごめき形を変えながら街に向かってゆるやかな速度で進行していた。離れた場所にいても、その巨大な炎の塊から吹き付ける熱風でちりちりと肌が痛んだ。
「君たちも来たのか」
声の方を向くとムシカリが戸惑いの表情を浮かべてこちらに近づいてくるのが見えた。
「あれは何なんだ。一体何が起こっているんだ」
そう言ってムシカリは目を細めて赤く燃える物体を見つめていた。
僕たちが見つめる中、その燃え盛る巨大な固まりは急激に形を変えていった。はじめに四本の角が地面に向かってはえてくると、それはやがて四本の足となって巨大な塊を上へと押し上げた。次に前側の二本が人間の手のような形をとり、上体を起こして二本の足で立った。ついにそれは炎に包まれた巨人へと姿を変えた。
「おお…あれは神の怒りそのものじゃ…神が不遜な人間をほろぼさんとしておるのじゃ…」
その様子を見つめていたひとりの年老いた農夫がそうつぶやくと、見物に集まった人たちの中にどよめきが起こった。中には膝をついて祈りをささげる人たちまで現れてきた。
「違う…あれは火の精霊よ…」
アニマは街へと歩みを進めるそれから目をそらさずに小さくつぶやいた。
「火の精霊?」
僕はアニマに訊ねた。
「そう…火の精霊が力の弱まった大地に取り憑いたんだわ…」
「なぜあいつは街に向かっているんだ?」
「きっと大きな力に引き寄せられているのよ。大きな力が集まる場所…火の精霊が向かっているのはきっと地力工場だわ…先回りしなくちゃ!」
そう言うと再びアニマは街に向かって走りだした。僕は不安にかられながらアニマのあとを追いかけた。
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