第17話

 久々の休日に、僕はアニマをつれて市場に買い物に行った。食料の買い出しが表向きの目的だが、本当はアニマにどうしても街の様子が見てみたいとせがまれたのだ。エリカも誘ってみたけど、やはり彼女は家で留守番をすることになった。

 初めて街に行くということで、アニマは朝からそわそわしていた。何度も服を着替え、この服装はおかしくないか、ちゃんと似合っているかと僕やエリカに訊ねて回った。もちろん、僕は服の善し悪しなどよくわからないので苦笑いと生返事を繰り返していた。アニマは僕の態度にふくれながらも、結局は僕がプレゼントした服を着て行くことに落ちついた。

 楽しみで仕方がないというようなアニマの気持ちを汲んで、僕たちは予定よりも早く出発することにした。

「昼食は外で済ませてくるから」

 と僕はエリカに言った。

「いいなー。あたしもおいしいものが食べたい」

 それなら一緒に来ればいいじゃないか、と言いそうになったが、僕は言葉を飲み込んだ。

「おみやげ買ってくるからね。何がいいかしら?」

 僕に代わってアニマが優しい声で言葉をつないだ。

「ケーキがいい。苺ののったやつね」

「苺は季節外れだろ」

 僕はため息をついて言った。

「じゃあほかのでいいよ。ケーキがいいな」

「わかった。じゃあいい子にして待ってなよ」

「うん。それじゃあゆっくり愉しんできてね」

 そう言ってエリカは笑顔で見送ってくれた。

 出掛けるにはもってこいの天候だった。空は雲ひとつなく晴れ渡り、やさしい風が艶やかな草花の匂いを世界中の人たちに惜しみなく、分けへだてなく運んでいるように思えた。

 坂道を下ったところでアニマは足を止め、道の脇に目を向けた。そこには大きな池が豊かで澄んだ水をたたえていた。かつて古い屋敷があった場所――僕とアニマが初めて出会った場所だ。

 アニマは何も言わずにしばらくの間その池のほうを見つめていた。僕は黙ってそんな彼女の様子を眺めていた。様々な思い出と、形を取らない感情が浮かび上がってきた。

 この場所から、すべてが始まったんだ…。僕はそんなことを思った。

 しばらくしてアニマは何かに気づいたように振り返ると、そのまま足元の地面に目を向けた。少し緊張した面持ちで地面を見つめ、やがてしゃがみこんで地面に手のひらを押し当てた。

「どうかしたの?」

 僕はアニマに訊ねた。

「ここに…何かが宿ってる…」

 アニマは張り詰めた口調でそう答えた。

 その言葉で、僕はあの光景を思い出した。燃え盛る炎。焼け焦げ、もだえ苦しむ人。強烈な臭い。

 僕がアニマにそのときのことを話そうか迷っていると、アニマは独り言のようにつぶやき始めた。

「強い感情……? 苦しみ……悲しみ……いえ、違うわ。もっと純粋で、もっと根源的な、想い……」

 しばらくの間アニマはそうやって考え込んでいた。やがて僕はいたたまれなくなり、彼女の肩にそっと手を置いた。アニマはそこで我に返り、僕のほうを見た。僕は何も言わずに彼女の手を取ると、足早にその場を離れた。


 少し歩いたところで、見覚えのある顔に出会った。農夫のムシカリだった。ムシカリは収穫した葉野菜を手押し車に積んでいるところだったが、僕に気づくと手を止めてこちらに歩いてきた。

「久しぶりだね。ずっと以前に妹を探していた人だよね? そちらの女性は妹さん…ではないみたいだね」

「はじめまして。アニマといいます」

 アニマは笑顔で挨拶をした。先程の緊迫した雰囲気は消え、すっかりいつものアニマに戻っていた。

「アニマさん…か。変わった名前だね」

 そう言ってムシカリは厭味のない笑みを浮かべた。控えめで、それでいてある種の輝きを備えた笑みだ。ムシカリはきっと女の人にもてるに違いないと僕は思った。

「今日は二人でお出掛けかな?」

「はい。天気がいいので街までお買い物に」

 アニマも負けじと上品で清楚な笑みを浮かべて答えた。そういえば、アニマが僕やエリカ以外の人と話すのはこれが初めてのことだった。アニマはまるで淑女のように振る舞っていた。ムシカリが美青年だからか、単に外面がいいのか……たぶん、後者のほうだろう。

 ムシカリと別れたあとで、僕はアニマに言った。

「君がそんなに外面がいいとは知らなかったよ」

 アニマはそれを聞いてあきれたような顔で言った。

「何言ってるのよ。あなたに恥をかかせないようにがんばったんじゃないの。あなたが連れてるのが礼儀知らずな女だなんて思われたらあなたが困るでしょう? まったく、本当にあなたって気遣いがわからない残念な人ね」

 そう言ってアニマはこめかみを指で押さえ、困ったような顔をした。僕はそれに対して苦笑いで応えた。


 しばらく行くと、街の全景を一望できる小高い丘の上に着いた。僕には見慣れた風景でも、アニマにとっては驚嘆に足る光景のようだった。アニマは目を輝かせて眼下の景色に見入り、そしてため息をついた。

「すごいわね…。ここに、大勢の人たちが暮らしているのね…」

 アニマは何か神々しいものでも見るような目で街を眺めていた。

 街に着いてからもアニマの興奮は収まらなかった。商店街の通りを歩く大勢の人たちを目で追い、立ち並ぶ店のひとつひとつに目を奪われ、その度に立ち止まった。

「あれは何のお店かしら?」「そっちお店は?」「あちらのお店では何を売っているのかしら?」

 僕はそんな質問のひとつひとつに丁寧に答え、その度にまるで子守をしているような気分におそわれた。とてもデートをしているような気分にはなれなかった。

「ねえ、そろそろお昼だし、何か食べようか?」

 僕は疲れてこう切り出した。

「そうね。そうしましょう」

 アニマは疲れも見せずにそう答えた。


 僕たちは小さなテラスのある食堂で昼食をとった。僕はオムレツを注文し、アニマは白身魚の香草焼きを注文した。

 はじめに水の入ったグラスが運ばれてくると、アニマはそのグラスのふちを指の腹で静かに撫で始めた。するとグラスの中の水がゆっくりと渦をまき始めた。

「アニマさん」

 と僕は声をかけた。

「なあに?」

 とアニマは僕のほうを見て言った。

「そういうことを人前でするのはやめてもらえないかな?」

「どうして?」

「一人前の淑女のすることじゃないからさ」

 アニマは照れ笑いを浮かべてグラスから手を離した。彼女のグラスの中の水はしばらくぐるぐると渦を巻いていたが、やがてもとの穏やかな姿に戻った。

「でもね」としばらくしてアニマは言った。

「わたしはこういうことをしておかないと、自分が何者なのかわからなくなっちゃう気がするのよ。自分がどういう存在で、どうしてここにいるのか。こうすることで、それを確認しているのよ」

「毎日そんなことをしているの?」

「そうよ」

「エリカの前でも?」

「まさか」とアニマは笑って答えた。

「ちゃんと一人になったときにしているわよ。一人で洗い物をしているときとか、お風呂のときとか。人に見られちゃいけないことだってことくらい、わたしにだってわかっているわよ」

 僕はそれに対して苦笑いで応えた。するとアニマは僕の顔をまじまじと見つめて言った。

「あなたはよくそういう笑い方をするわよね。全然魅力的じゃないからやめたほうがいいわよ」

「僕の笑い方だってちゃんと意味があるんだよ」と僕は少し傷ついて答えた。

「僕も君と同じように自分の存在を確認するためにこういう笑い方をするようにしているんだ」

「その笑い方で、どういうことが確認できるの?」

 とアニマは少し僕のほうに身を乗り出して訊ねた。

「僕の抱えている苦悩と葛藤」

 僕もアニマのほうに少し身を乗り出して答えた。

「何に対しての?」

「子供のおもり」

 突然僕の前に置かれていたグラスの水面がはじけ、水滴が僕の顔にかかった。あわてて顔を拭う僕を尻目に、アニマは自分のグラスを静かに口に運び、次いで鋭い眼光で僕をにらみつけた。

 食事をしているあいだ、アニマはひとことも口をきかなかった。僕は彼女に対して謝ったほうがいいだろうかと考えたが、結局何も言わないことにした。自分の半身に気を使ってもしかたない。雨降りと同じで、何もせずにじっとしていればいずれは通り過ぎてしまうだろうと思った。

 案の定、料理を食べ終わるころには彼女の眉間に残っていたしわはきれいにとれ、かわりにつるんとした満足げな笑みが顔を出した。

「おいしかったー。エリカちゃんの料理もおいしいけど、こうして外で食べる料理も違った味わいがあるのね。あなたのはどうだった?」

「おいしかったよ。ここは結構人気の店らしいよ」

「あなたのも一口もらえばよかったわ」

 そう言ってアニマは残念がった。

 食後に運ばれてきたお茶を飲みながら、僕はアニマに訊ねた。

「君は水の精霊なんだよね?」

 アニマは両手で持ったカップを口元でとめ、不思議そうにうなずいた。

「君が水を操るのは何回か見たけど、もっと違ったふうに水を操ることはできないの? 例えば雨を降らせたりとか、海を割ったりとかさ」

 アニマはカップを置き、少し考えてから答えた。

「ほかの水の精霊たちと協力すればできるけど、わたし一人の力ではそんなに大きなことはできないわ。わたしがこうして実体を持つまでは、わたしは水の精霊という大きなシステムの一部だったのよ。わたしたちはシステムとしてひとつの意志を持ち、自然の法則に従ってすべての水を管理していたわ。でもわたしだけの力では水を操る能力に限界があるのよ」

「君が抜けてしまったことで、全体のバランスがくずれるようなことはないのかな?」

「それはきっと大丈夫よ」

 そう言ってアニマはほほ笑んだ。

「システムはとても大きなものだし、どこかが欠けてもほかの精霊たちがうまく補うようになっているのよ。よっぽどのことがない限り、自然のバランスは保たれるってわけ。あなたが働いているところもそうじゃないの? あなたも大勢の人たちと協力してひとつのことをしているんでしょう?」

 僕はしばらく考えてからうなずいた。確かにそうかもしれない。僕がいなくても仕事は進められていくし、現に僕は今日休んでいるけれど、今も働いている人たちはいる。僕ひとりいなくたって、どうにでもなるようにできているのだ。

「ねえ、あなたの働いているところが見てみたいわ」

 しばらくしてアニマが言った。

「いいよ。でも関係者以外は中に入ることはできないから外から見るだけだよ?」

「それでいいわ」

「それじゃあひとまず買い出しを済ませてからにしよう。エリカに頼まれたケーキも買っておかなくちゃ」

「そうね。まずは用事をすませておきましょう」


 それから僕たちは店を出て商店街で買い物をした。食料品や日用品を安く売っている露店街を歩きながら、僕たちはエリカの書いたメモを頼りに買い物をはじめた。洗濯用の石鹸や小麦粉や野菜。アニマが店の人に天使のようなほほ笑みを見せる度に、必ずいくらか安くなったりおまけがついたりした。

「いやぁお嬢さんみたいな美人は見たことないよ。これはおまけだから、うちのカカアに見つからないうちに持って帰んな」

「そんなぁ、悪いですよぉ」

 そう言って申し訳なさそうに恥じらいながらほほ笑むアニマに、僕は計算高く図太い神経と調子に乗って喜色満面の心の内とをはっきりと感じ取っていた。

 買ったものはすべて、当然のように僕が持った。さながらどこかの令嬢とそれに付き従う使用人のようだった。僕はそんな風に感じていたし、通りを歩くアニマに見惚れる人たちの多くもおそらくそんな風に思っていたに違いない。エリカへのおみやげに栗のケーキを買うころには、僕の両手は荷物の重みでしびれきっていた。

 すべての買い物を終えた僕たちは、僕の働く地力工場へと向かった。アニマはなにもかもが楽しいらしく常に笑みを浮かべていた。けれども露店街を抜けて工場を目にしたとたん、彼女の表情は険しいものに変わった。

「何なの…これは…。なんでこんなものがあるのよ……」

 そこにあるのは普段と変わらない工場だったけれど、アニマはまるで地獄の入り口を見るような目つきでそれを睨みつけていた。

「どうしたの? 何かおかしなところでもあるの?」

「なにかおかしなところですって? なにもかもおかしいわよ。あなたはこれを見て何も感じないの?」

 僕は小さく頷いた。

「本当に?」

 アニマの言葉に僕はまた小さく頷いた。

 アニマは怒りに燃えるまなざしを僕に、そして工場に向けた。

「なぜこんなに不自然なものがあるのよ…。この異様なエネルギーの集まり…人間はどうしてこんなものを造ったの……」

 アニマは独り言のようにつぶやいた。

 僕は彼女に訊ねた。

「この工場では大地の力を人間が利用可能なエネルギーに転換しているんだ。そのためにここには大地から抽出したエネルギーが集まっているんだよ。それがエネルギーの集まりの正体だと思うんだけど、それが何か問題なのかな?」

 アニマはため息をつき、怒りを帯びた口調で言った。

「大地の力は大地全体に均等に分けられているのよ。ここにエネルギーを集めるってことはどこかから取ってくるってことでしょ? そうなるとエネルギーのバランスがくずれてしまう。それは世界の均衡を壊すことなのよ。それは絶対にしてはいけないことなの。この工場は、世界の成り立ちに反しているのよ」

 アニマの言うことは理解できた。けれども僕にはどうすることもできない問題だった。

 その時、アニマは突然工場の門へと駆け出した。僕はあわてて荷物を放ると彼女を追いかけていって腕をつかみ、引き留めた。

「どうしようっていうんだよ!?」

「決まってるでしょう! 今すぐこの工場を止めるのよ!」

「無茶言うなよ! 一体どれだけの人がここで働いてると思ってるんだ。そんなことできるわけないだろう!」

「放してよ! できなくてもやらなきゃいけないことなのよ!」


 僕はなんとかアニマをなだめ、工場をあとにした。商店街を過ぎ、街を一望できる丘の上まで歩いてきたけれど、そのあいだアニマは一言も口をきかなかった。僕のほうもそんなアニマにかける言葉を見つけられず、ただ黙々と歩いた。

 家に続く一本道の脇で、ムシカリが腰を下ろして休んでいた。僕たちに気がつくとゆっくりと腰を上げて大きく手を振った。

「今帰りかい? 買い物は楽しめたかな?」

 僕はその言葉になんとか笑顔で応えたが、誰かとまともに話ができるような気分ではなかった。アニマはムシカリに会ってからも無言のままで、顔にははっきりと不機嫌な色が浮かんでいた。

 ムシカリはそれに気づかないのか、あるいは険悪なムードを察してか、穏やかな風の中で深呼吸をしたあとで広大な農園地帯を見渡しながら言った。

「僕はここから見える景色が好きなんだ」

 しばらくしてムシカリが言った。

「この景色を見ていると、自然がどれほど雄大で美しいかを思い知らされるんだよ。僕たち農夫は自然とともに暮らしている。自然の恵みをわけてもらって生きている。だからこそ、この自然が作り出す景色の美しさに強く胸を打たれるんだ」

 自然、という言葉に僕は思わずびくっとした。よりによって今このタイミングでそう来るかと思った。

「…こんなの、全然自然じゃないわ」

 アニマが怒りに満ちた口調で言った。午前中の淑女の雰囲気はどこにもなく、不機嫌さをあらわにした口調だった。ムシカリは一瞬面食らったような表情を浮かべてアニマを見、次いで僕を見た。喧嘩でもしたのかいといった表情で。僕はそれに対して首をすくめて応えた。彼は気づいてはいなかったのだ。

「どうしてそう思うの?」

 落ち着きを取り戻したムシカリが、穏やかな口調でアニマに訊ねた。

「だってこの景色は人間が作り出した物だもの。畑も、池も、あの柵も。人間が自分たちの都合のいいように作り出した物だわ」

 普段だったら、僕はアニマに注意をうながしただろう。でもその時は何も言わなかった。どちらかというと、僕はその時アニマの好きなようにさせてやりたかった。アニマの考えにも一理あるのだし、周りに気を配るよりもアニマの思うところをすべて吐き出してもらいたかったのだ。

 ムシカリは少し考えてから言った。

「確かに、君の言う通りかもしれないね。この景色は人間が作ったものだ。…でも、それでいいじゃないか。人間と自然を分けて考える必要なんてあるのかな? 鳥が種子を運ぶように、蜂が花粉を運ぶように、人間が土を耕して種を植え水をやったとしたっても、それがはたして自然に反していると言えるのだろうか?」

「程度の問題よ。人間は鳥や蜂よりももっと大きな力を持っているわ。それこそ自然に牙をむくことのできるほどの力をね」

「人間にそんな力はないよ。いやむしろ自然はそれほど非力ではない」

「だったらあの工場は何なの?」

「あの工場?」

「地力工場よ」

「…ああ、あれか」

 ムシカリは静かにため息をついて言った。工場の話になると、僕は途端に居心地の悪さを感じた。僕は工場の関係者だからだ。

「あの工場については僕たちも頭を抱えているんだ。地力工場ができてからというもの、この辺りの農作物の出来がどんどん悪くなっている。年々採れる量も減ってきているんだ。農家の間ではあの工場のせいだって言っているけど、確かなことはわからない。地力のおかげで生活が楽になったのは事実だ。農耕機にしたって、今では地力を使うものがほとんどだ。けれど、土地が痩せていっているのも事実なんだ」

「だったらなぜ地力を使うのをやめないの? なぜ工場に訴えないの?」

「工場を止めてくれって言うのかい? 彼らは彼らの理論で動いている。訴えたって聞き入れてもらえる見込みなんてないよ。第一僕たちは日々の生活に追われていてそんなことをする余裕のある人なんて一人もいないんだよ」

「そう言って何もしないだけでしょ? しなくてはいけないことをしないのはただ臆病なだけよ」

「アニマ!」

 僕は堪え切れずに口を開いた。アニマは口を閉ざしそっぽを向いた。僕はムシカリのほうを見た。ムシカリは怒っている様子はなく、たださみしそうに目の前の景色を眺めていた。

 居心地の悪い沈黙がしばらく続いたあとで、ムシカリが静かに言った。

「君は理想を語る前に少し現実に目を向けたほうがいいと思うよ。現実の、生活というものに」

「つまりあなたは理想よりも現実のほうが大切だというのね?」

 アニマはいらだちを抑えた口調で言った。

 少し考えたあとで、ムシカリが言った。

「その問いは空と大地のどちらが大切かという質問と同じくらい、意味のないものだよ」


 別れ際、アニマはさっさと家に向かって歩きだしてしまったが、僕は立ち止まりムシカリに丁寧に謝った。

「僕のほうこそ悪かったよ。本当はあんなに言うこともなかったんだ。彼女の言うことは正しい。正しいからこそ、僕はいらだったんだと思う」

 そう言ってムシカリは申し訳なさそうな顔をした。

「もしよかったらまた話をしようよ。彼女にもそう伝えてくれないか」

 僕はそれに対して不器用な笑顔で応え、アニマを追って家へと歩いた。

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