第5話 次元波動超弦励起縮退半径跳躍重力波超光速論法
「なぁなぁ、さおみちゃん」
「なんだ。」
「ワープとかできるの?」
「可能だ。私もここには空間跳躍のワープでここに来たからな。」
「空間跳躍の…ってことは、他にも色々種類があるの?ワープには」
「空間跳躍の他には論理跳躍と水平跳躍、仮想跳躍などがある。空間跳躍は文字通り空間を膨大なエネルギーで突破し跳躍するのでコストも損害も大きいが、最も枯れた技術なので、安定的に跳躍が可能だ。」
「ふーん。じゃあ月に行ってみたい。」
「目的は?」
「えっ?特にない」
「れえれれれれれ「だめなのかよ」
「だめではないが理解ができない。先程述べたように空間跳躍は膨大なエネルギーで空間を突破する必要がある。ここでそれを行えば地球もタダでは済むまい。最低でも地軸が歪み、地球は1000年近い氷河期に突入しおそらく人類は絶滅する。奇跡的に人類が生き延びても文明は失われるぞ」
「えーっ、安全に月にいけないの?宇宙人なのに」
「空間跳躍を行うまでもないということだ。ロケットを飛ばせばいいだけの話だ。」
「それこそ無理だよ。NASUとかにお願いするのなんてぼく無理だよ」
「少なくとも25年あれば可能だ。」
「えーっ、めんどくさいなぁ。」
さおみちゃんは理解不能と繰り返し言い始めた。
宇宙人ってもっと便利なものかと思ってたな。
「論理跳躍であれば可能だ。難点は月のどこに到着するかはわからないが。」
「なんだ。できるんじゃんか。じゃあ行こうよ。どうせ月のどこがどことかわからないんだからどこでもいいよ。」
「もう一つある。月は人類が生存可能な環境ではないので、到着した瞬間確実に死亡する。それでもかまわないか?」
「えっ?死なないよ。空気ないだけでしょ?息止めておくから大丈夫だよ」
「再確認を行うが、死んでも構わないのだな?」
「死なないからいいよ。てかできるならできるって言ってよはじめから。」
「論理跳躍での移動が可能かを聞かれていなかったからだ。では開始するぞ」
「お、わかった。じゃあ3秒前になったら教えて、思いっきり空気吸うから。」
「では論理跳躍シークエンスを開始する。割り込み処理の追加として、跳躍の3秒前にシークエンスを一時中断し、教経に声掛けを行う。」
お、なんかそれっぽい。でもどっちかというと宇宙人というより映画の航空管制みたいな感じなのか?
まぁ雰囲気出てるしいいか。
「現在位置および、月面付近の座標取得に成功。両座標間差分の量子演算開始…終了。両座標の論理的隣接演算式の作成開始…終了。誤差発生率、2.1%。座標が月面内部になる可能性が排除できるため、許容範囲と確認。演算式の論理収束を開始…しゅ…3秒前のためシークエンスを中断。教経、3秒後に論理跳躍を開始する。シークエンスを再開」
「お、わかった!よーし!」
肺の中に、空気と待ち望んだその時をいっぱいに吸い込み、来たるべき時を待ち構える。
「すぅーーーーーーー …ぉ」
昨日も夜遅くまでえっちなことをしていたせいもあるかもしれない。
急に息を吸いすぎたせいかもしれない。急に苦しくなり、意識はブラックアウトする。
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論理跳躍は我が母星の演算機を以てしても、まだまだたやすくはない。
論理的な物体を星雲レベルで制御しつつ行う必要がある。
つまり、移動する生命体がたった2つであっても、そのあいだ当該星雲に存在する物体すべての座標を把握した上で、移動対象の座標接続を行うのだ。
先の大戦における最も偉大な成果として得られたエーテル演算により、2時間40秒かかっていた星雲演算が10秒に短縮できたとは言っても、まだまだ実用レベルではない。
不確定要素があまりにも大きい。
報告によると、時間軸の異なる宇宙や、次元軸の異なる宇宙への移動を観測した例すらある。
今回の任務が引き金とならなければ、間違いなく許可は下りなかった申請だ。
それだけに、この任務の重要さが知れると言うものだ。
ただ、事はそう単純な話ではない。
枢軸院のテコ入れもあったと聞いている。彼らは論理跳躍の検証モデルを欲しがっていたと聞いている。
彼らはそのモデルに基づいて次の戦争の準備を始める気だ。
戦争屋の連中はクールタイムを1万年と待てないらしい。
たしかに、論理跳躍にかかるコストは演算のみだ。
宙間戦術におけるパラダイムは圧倒的に覆るであろう。
我が国家が宇宙の覇権を狙えるとすれば、そこ以外にあるまい。
それが望まざることであるわけではないが、単純に枢軸院の連中の思惑通りに行くのが面白くないという我ながら論理性とはかけ離れた感情があることに少々笑いがこみ上げる。
まるで地球の人類のような後進的な感情に身を委ね、論理跳躍を再開する。
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