第3話 カラビ・ヤウ多様体生命による流体金属インターフェイスを利用した超弦『干渉』理論

「少しは落ち着いたか」

「えっ」


お前が言う?


まぁそう言ってしまって問題ないんだろうけど…おそらく通じないと思うのでぐっと堪える。


「う…うん」

「なにが起きた?」

「さすがにそれはこっちのセリフだわ」

「なにについてだ?」


ホラやっぱり通じなかった。


「いや…だったらいいよ。」

「そうはいかない。思った事があるなら言うべきだ」


言ったそばから女はまたトラウマメモを始めようとしている。


「それだよ!そのメモの仕方が気持ち悪くて怖いんだよ!」

「そうなのか?ではどうやればいい?」

「こうはできないの?」


これも伝わるかわからなかったが、人間の一般的なメモの仕方をやってみせる。


「それでは自ら書いた字が見えないが?」

「えっ?そうなの?」


いやいや、そんなわけないと思ってメモを覗き込んでみると


「あー、宇宙語…?」

「そんなものはないが?」

「…なんでもいいや…」


すんごい細かい意味不明な文字の羅列…これならまぁしょうがないか。


「はぁ…」

「何か困りごとか?」


ぼくを気遣ってくれるかのような言葉を投げかけてくれるので、おそらく悪い奴じゃないんだろう。だが、姿勢が相変わらずのトラウマメモなのでやっぱり怖い。


「いや…逆だよ。おかげで落ち着けたよ。ちょっとだけど…。」

「そうか」


少なくとも彼女が危害を加えたくてここに来た訳ではないことを気付かせてくれたのは事実だ。


「なに目的でここに来たの?」

「この惑星の生命体が危険であるかどうかを判断し、危険であれば排除、安全であれば共存の道を模索する事を目的とした干渉である。」


「ふーん?ありきたりだな。じゃあどうしてウチに来たの。」

「この惑星の生命体が危険であるかどうかを判断し、危険であれば排除、安全であれば共存の道を模索する事を目的とした干渉である。」


「待て待て、同じこと二回聞く訳ないじゃん。まぁわかりづらかったんだろうけど。この惑星に来た理由は分かったよ。今聞いてるのはぼくの家に来た理由。」


「ふむ」


わかりやすい納得をしながらもみあげをいじる彼女。


「なるほど。貴様を選んだのは貴様がサンプリング対象だったからだ。」

「サンプリング?」

「我々の基準で最も価値のあると思われる個人、最も価値のない個人、中間の3人をサンプリングした。」

「なるほどね。それで中間のぼくを。ハハ。面と向かって中間、何の特徴もないと言われるのは堪えるな。」


「れえれれれ」


「ドゥでゲデ」


またパニックを起こしたのか。ぼくもトラウマスパークを思い出して一瞬取り乱しそうになったが、何とか耐えた。

今回は彼女のトラウマパニックも一瞬だったお陰もあるか。


「大丈夫?どうかした?」


「それはこちらのセリフだ。なぜ中間と思った」


えっ


「じゃあ…この星で一番価値あるのって…」

「れえれれれ「違うのかよ」




えっ、ぼくがこの星で一番価値ないの?


「心配するな。あくまで我々の主観だから。」

「慰めにならんわ」

「慰め…?」

「慰めじゃないんかい」

「我々は貴様らの世界の言葉でいうところのカラビヤウ多様体生命だからな。そういう忖度じみた表現技法を積極的に再現しようとはしない。」


何のこと言ってるのか全くわからない。ただ、なぜぼくが最も価値がないと判定されたのかは気になる。


「貴様が毎日行っている自慰行為だ。毎日9回も子種を撒き散らしているな。あれは本来子孫繁栄の為の行為だというのに、貴様は意味もなく毎日行っているではないか。いや、意味がなければまだ良いが、いつ死んでもおかしくない程度には体を酷使している。そんな命の使い方が貴様らの種において果たして意味があるのか。果てしなく無さそうだったので我々は貴様を最も価値のない存在と認定した。貴様と一緒に滞在して意味を感じれば評価も改めよう。」


うん。仰る通り。

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