第20話兆し

やあ久しぶり、マーリンだよ。八歳になりました。

そして一週間後には九歳になるよ

ルート兄さんは今十一歳。一週間後には十二歳になる



一週間後に十二歳になるルート兄さんは明日にはエル父さんと共に、この村から北西にある都市フルーベンスに向かい祝福の儀を受けることになっているらしい。

今ルート兄さんはソワソワして落ち着かないみたいで一ヶ月前から非常に熱心に剣の練習をしている。

今のルート兄さんは技量は僕より下で総合はちょい上。

エル父さんにはまだ敵わない様だけど勝負にはなっている。



マエルもルート兄さんと一緒にフルーベンスに行くことになっていて、こちらは割りかし落ち着いていた。

マエルは半年ほど前、丁度夏の終わりくらいにシェーラ母さんから免許皆伝を言い渡されたから。ルート兄さんより二ヶ月ほど前に合格している。

最初は祝福の儀を受けたらそのまま冒険者になるつもりだったらしいが、シェーラ母さんの説得により王都の教育施設に行くことになった。

マエルは今まで通り魔法術の練習などをやりながら生活している。

たまにお互いに魔法術の意見交換をしたりとかなり会う機会が多い。



ルーリィも五歳になった。

言葉の方も順調に覚えているし、ルーリィは兄の贔屓目なしにしても頭がいい。

魔力コントロールも身体強化の練習を始めている。

言葉数はエル父さんに似て少なめだが、思慮の深い優しさがあり、そこはシェーラ母さんに似ている。



僕はといえば身長が全然伸びない。

今はルーリィよりも高いくらいでそこまでの差はない。

そのせいで剣の練習ではどうしても不利になってくる

ルート兄さんに少し前までかなりやられていたけど、最近ようやく、木剣が手に馴染んできた。

そのおかげで動きの不自然さがかなり消え、技量を全てではないが、大半を発揮することができる様になり勝敗が僕に傾いてきたいたんだ。

だけどそのことがエル父さんにバレて、エル父さんとの打ち合いの苛烈さが増した。

エル父さんは技量の差を認めながら上手くフィジカルの差を使ってその差を埋めてくるので自然と苛烈になってくる。

それに対応するためのフル強化はかなり慣れてきて、今では寝ている時でも持続できることが偶にある様になってきた。



そんな今の僕の一日はこんな感じ

朝 日の出少し前に起き、簡単に身支度をして庭に出る

そこで剣の練習。最近ルーリィとも手合わせする様になったけど、まだまだルーリィの動きはぎこちない。

終わり次第体を洗い朝食。

食べ終わると斧など木こりの道具を持って家を出て、昼過ぎまで木を切ると家に帰る。

夕方から色々と勉強をして過ごす。

教育施設に行ってやることもあれば家でやることもある。夕方の剣の練習や魔法術の練習は僕はやらなくて良いいが一緒にやるようにしていた。

その後夕食を食べて風呂に入り、家族と喋ってから寝る。

ここ一年はこれが日常になっていた。

木こりを続けている理由は後ほど。



というわけで今日も朝の剣の練習が終わった僕は、道具類一式を持って大森林の中に入っていく。

ついでにではあるがトムも一緒だ。

トムはよく僕についてきて木を切っているんだ。

僕はスキルを使って腐っているかどうかがわかるので切る木は全て腐っている木か病にかかっている木、たまに歳をとりすぎた木だけを切っている。

トムはまちまち。

今日もいつもと同じ様に木を一つ一つ調べて行っているのだがなかなか見つからない。


「おう!どうだマーリン!見つかったか?」

「そんなに大きな声で聞かなくても聞こえるよトム」


「お前がずっとそうやってるから聞いたんだよバカ。

それにここら辺は二年前くらいからずっとお前が切りまくってるからな、お前が対象にする木なんてもうありゃしねーよ。」

「バカとはなんだバカとは。絶対トムの方がバカだろ。」

「うるせーバカ。最初のあの日に目的も忘れて木を切ってたやつが何言ってんだ。その事次の日に思い出して家族に笑われたんだろーが。」


「また古い話を持ち出して〜。そういうちまちましたこと言ってるとサーレに嫌われるよ。

最近やっとトムからプロポーズして付き合う段階にたどり着けたのに。」

「俺のサーレはそんなことで俺を嫌わねーよ。」


「確かにそうだね。トムは絶対サーレには頭が上がらないだろうから言い合いにすらならないもんね。

あと"俺のサーレ"って言ってたことモックさんに言っとくよ」


「おいそれはやめろマーリン!シャレにならないだろーが!」

「きっとモックさんそれを聞いたら包丁持ってトムのところに"お話し"しに行くと思うんだ僕。」

「馬鹿野郎!そんなもんで済むかよ!!

サーレの親父さんが聞いたらウーパ(地球でいう牛 地域により様々、北領同盟王国は強靭で頑丈)の解体用包丁持っての話し合いだ!!!

んでモックさんはウーパを笑いながら解体して俺に話しかけてくるんだよ。「お前もこうなりたいのか」って!!!」


「それじゃ言うことがあるよねトム」

「すまなかったマーリン許してください。」

「許そう」


トムは祝福の儀でジョブは《木こり》スキルは特に珍しいものはなく村の暴れん坊と言った構成だった。

《腕力上昇、負けず嫌い、斧使い》こんな感じ。

《負けず嫌い》は負けを認めず挑み続けることで良い成長をしていくというもの。

その後ジャヤの親父から思いっきり《木こり》として鍛えられているらしい。

そしてトム自身で色々と用意してサーレには再びプロポーズ。サーレは喜んでプロポーズを受けたのだが、モックさんが大反対。


「祝福の儀を受けたと言ってもまだまだ子供だ!!

いきなり結婚は許さない!!!

それに俺のエンジェルとこんなに早く離れるなんて絶対に嫌だ!!!」


と言い続けたらしく、サーマさんがどれだけ説得しても折れず、結局まずはお付き合いという形から始まることになったんだとか。

トムがサーレを十分に養っていけると証明するまで認めないとはモックさんの言葉である。


「まぁトムの言う通りここら辺はかなり念入りにやってきたからもうないだろうね。

とすると一段階深く行くしかないかな?」


「やっとその気になったかよマーリン。前から俺が行こうって言っても全然頷かねーしよ待ちくたびれたぜ」


「トム一人で行けばいいんだよ」


「だからお前はマーリンなんだよ。俺一人だとお前の魔法術を受けられないから一日で持って帰れる量が減るだろ。」


「トムも一応身体強化使える様だし大丈夫だよ。

それに僕はいつまでも木こりの真似事してるつもりはないからね。

あと僕の名前を悪口みたく使わないでもらえるかな」


「気づいたか。だがそれだとだめなんだ。

俺は少しでも早くサーレと結婚したいんだよ。」


「お熱いね。まぁ理由はよくわかるよ。

鉄は熱いうちに打てって言うのと同じ様に、サーレと仲が良いうちに結婚まで行っておきたいんだよね。

わかるよ。よーくわかる。」 


「おいそれじゃ俺とサーレの仲が冷めていくみたいだろーが」


「急ぐ理由に少しはあるだろ?」


「………ある。」


「トムはサーレと付き合い始めてからかなり丸くなったね。よく僕にジェリーが相談してくる様になったよ。

トムが構ってくれないってさ。モテモテだね。」


「ジェリーのやつマーリンに何言ってやがる。」


「まぁそれはいいとして、奥に行くのは今は避けたいんだよ」

「親父は今の俺たちなら問題ないっていってたじゃねーか。」


「四日前に帰ってきたエル父さんがね、その日の勉強の時に中天帝国について話してくれたんだ。(おやつ+勉強の時間はシェーラ母さんの願いで一週間に二回ほど僕とルート兄さんは参加することになっている。ルーリィは毎日)」 


「本当にエルヴィンスさんって何やってる人なんだよ」


「祝福の儀を終えたら教えてくれるらしいよ。

それで中天帝国の話に戻るけどね、そろそろドワーフの国【デ・ディバルド】と中天帝国の間で戦争が起こるだろうってさ。」


「いや本当になんで北領同盟王国、しかも辺境の村人がんなことわかるんだよ。」


「戦争は大規模になっていくほど前準備が色々とあるらしいからそれで判断してるんだって、その前準備の中には魔物とかの討伐も含まれてるんだよ。」 


「なんで戦争の前に魔物なんか討伐すんだ?関係ねーじゃん」


「戦争が始まって警備が緩くなるとそこを狙って活発になるらしいよ。大規模なほど兵力が外に出て行くからね。戦争に勝っても国内ボロボロになって反乱が起きたら元も子もないからだと思うよ。

特に中天帝国はそこら辺敏感にならざる得ないからさ。一回反乱が起きたらどうなるか想像できないくらいの大問題だからね。」


「へ〜〜〜〜。」


「そんなわけで魔物が色々なところに逃げ出してるんだけど、逃げ切った魔物はかなり強い魔物であることが多くて、警戒心も強いから人を襲うことはほぼないんだ。」


「なんでだよ」


「人を殺したら他の人が来ることを学んでるんだよ」


「じゃあ危なくねーじゃん」


「そいつ自体はね。問題はそいつらに住処を追われる微妙な強さの魔物たちで、そいつらは住処追い出されたことで苛立って見境ないからかなり危険らしいよ」


「よくそんなこと知ってんなお前。」


「両親が教育熱心なんだよ。知ってるだろ。」 


「あ〜〜うん。知ってる。」



僕の話を聞いてトムは少し考えてからこう言った


「よしっ!んじゃ森林の奥に行こうぜ!」


「話聞いてたの?」


「聞いてたけどよ、わからないもんはわからないじゃねーか。それにいたらいたですぐに逃げてエルヴィンスさんが村にいる内に伝えといた方がいいだろ?

確かルートとマエルの付き添いでフルーベンスに行くって聞いたぞ。」


「言っていることは正しいんだけどね。

で、本当の理由は?」


「早くサーレと結婚したいからさっさと行きたい。」


「いい旦那になるよトムは。」


「だろ、よくサーレに言われる」


「惚気ないでよ」


「マーリンが振ってきたんだろうがよ。んで行くんだろ?」


「はぁー。わかった、行くよ。

でも強そうな魔物が出たら僕の言うこと聞いてね。

トムは暴走しそうで怖いよ。僕だけ無事に帰ったらサーレに殺されるし」


「ああわかったぜ。それはマーリンの方が適任だ。」


「本当に丸くなったねトム」


「サーレのおかげだ」


「はいはい」



そうして僕たちは今大森林の一段深い所にいるんだけど、ここら辺は村でもジャヤの大将と数人のベテランきこりしか入らないので木が全体的にかなり成長している。そのため先ほどまでいた所よりも倍近く暗い。


「おお〜!!流石にここら辺はあまり手が入ってないな。ここなら結構香木になってる木があるんじゃねーか、なっマーリン。」


「確かにかなりありそうだね。」


「お前香木狙ってるくせに、少しでも腐り始めてたらどんどん切ってくからな。少しは置いとけばいいのによ。」


「こだわりだよ」


「はいはい」



そう言ってトムはいつものように僕から離れすぎない距離まで離れて作業を始める。

僕はスキルを使い伐採する木を探して行く。

そしてすぐに香木に成っている木を見つけた。


「うんかなりいい香りだね。

かなりいい値がつきそうだけどでかいな。」


「なんだマーリンもう見つけたのか。

それにしても馬鹿でかいの選んだな。初めてじゃないかそんなでかいのをマーリンが選ぶの?」.


「今日はこの木をやったら終わりそうだよ。」


「まぁ頑張れよ」


「そっちもね」





もう日がかなり傾いてきている。あと数十分もすれば日が沈み出すだろう。

巨木に斧の一撃を加えてからもう六時間以上過ぎている。それだけの時間、フル強化を使っている僕がかかってしまうほど馬鹿でかい木だったが、あと数撃で切り倒すことができる。

僕はかなり疲れたのでその木を背にして休憩を挟んでいる。


「はぁ〜〜流石に疲れた。

流石に魔術で何かしらの強化くらいするべきだったかな?これからずっとこんな木ばかり相手にするならそれも考えていかないとダメだね。」


「おー流石マーリンだな!ちっこいくせに馬鹿みたいに力あるよなぁ。それでいつも俺にかけてくれるみたいな魔法術抜きだろ信じらんねーぜ。」


今僕とトムは一・五倍以上身長の差がある。

トムは年の割にガタイがいいので高校生に見えないこともないくらいでかい。

僕は小学校二年生くらいなので、ちっこいと言われても言い返せない


「トムはもう終わったの?」

「ああ今日は終わりだ。」

「そう、それじゃあちょっと待っててすぐに終わらせるから」


ドォッゴッ!!!!!

ベキベキベキミシミシズザザザザ!!!!!



「魔法術でも使ったのかよマーリン?一言ほしーぜ、そーゆうのは。」


「知ってるだろトム。僕は魔法術は基本使わない主義なんだよ」


「じゃあ勝手に倒れたのか?」


そう言って後ろを二人で確認すると見事に巨木が倒れていた。

そしてその巨木にはかなり強い一撃が入ったことがわかる跡がくっきりとついている。

元々巨木が立っていた所に視線を移すと、横幅が巨木の切り株くらいある真っ黒の塊がいた。

その塊をよく見れば生き物であることがわかる。というよりも熊だ。腕が四本生えている熊。

確か【闇に佇む者】(地域により呼び方多数)と呼ばれるかなり強い方の動物由来の魔物(魔物には由来がある場合とない場合がある)。

割と知名度の高い魔物で、森の奥を縄張りとしていることがほとんどで、かなり賢い。

敵対行動をとらなければ見逃してもらえることも結構ある。

そんな魔物がそこにいた。




「トム絶対に何もしちゃいけ「おうりゃっ!!!」ないよ!?」


トムは僕が言いきるより早くに【闇に佇む者】(面倒いので闇熊で)に向かって自前で用意したのであろう目潰し玉を投げていた。見事に顔面にクリーンヒット、闇熊が苦しみ出した。


「よっしゃ!!今のうちに逃げるぞマーリン」


「何やってんのトム!?馬鹿なの!?」


「あん?何言ってやがる、俺のファインプレーを見てなかったのか?」


「いやファインプレーなんかじゃないんだよ!」


闇熊は一通り苦しむと鼻を動かして"敵"の存在を探し始めた。そしてすぐに見つけると攻撃体制に移行し始めている。

トムはその闇熊に全く気づいていない。


「トムは危ないっ!!!」

「うわっ!!!」

バヒュン!!!!


僕は全力でトムをこちら側に引っ張った。

トムは驚いて僕に文句を言おうとしてたが、後ろで鳴った凄まじい音を聞いて青い顔になっている。

闇熊は手応えがないことに気づくとさらに追撃を加えてこようと体勢を整え出した。



トムはまだ頭が混乱しているみたいで動き出すのにもうしばらく時間がかかるだろう。


「(これは使わないとどうしようもないね。)」


あまり使わない主義とはいえここで使わないほど馬鹿でもない。

僕の心は異常事態の割に平常心を保ててる。

コンディションはちょっと疲れてるけど問題ない。

…それじゃあやっていこうか


『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』

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