第19話父親の苦悩
僕は今伐採した木に縄を巻いている。
なんでこんなことをしてるのかは僕には理由がわからない。
ジャヤの大将に巻けと言われたから巻いている。
トムはようやく魂が戻ってきたようで、ずっと「どうしよどうしよ」と言いながら作業をしている。
全部の木に縄を巻き終わるとジャヤの大将は小さな笛を懐から取り出し、目一杯に吹き鳴らした。
piiirriiiiiririiiiririiriirrrrirriirriiiiiiirrrrrrriii//iiiiriiiiiiiii!!!!
うるさい!
耳がジンジンする!
こーいう事は事前に教えておいてほしい。
トムはしっかり耳を塞いでいるので知っていたんだろう。
僕がジャヤの大将を見ると
「これは習わしみたいなもんだから気にすんな」
「なんの習わし?」
「ん?そりゃもちろん木こりの習わしだぜ?」
「だから僕は木こりにならないっていってるでしょ」
ジャヤの大将はなはははは!と笑ってごまかしている
笛がなってからしばらくすると鳥の鳴き声が聞こえてきた。
gagagagagagagaagagagaaa
化け物だろうか?
するとジャヤの大将はもう一度笛を吹く
それを頼りにしてか僕たちの上空にかなり大きな鳥が現れた。
成人男性二人分くらいだろうか?かなりでかい。
ジャヤの大将はその鳥を確認すると全身に荒い身体強化をかけ伐採された木を持ち上げて、鳥の方に投げた
鳥は上手いこと体をずらし木の縄を巻いてる部分を足で掴む。
そして村の方角に飛んで行った。
(身体強化の精度がわかったの魔力の音がうるさかったからで、見えてるわけじゃないよ)
「ありゃ俺のダチのガラガラ鳥のガガだ!
もちろん魔物とかじゃねーただただデカいだけの鳥でどこの地方にでもいる。
基本あいつらは人里に近づかねーから駆除の対象にもならない。
時々こーやって手伝ってもらってるんだ」
僕は惚けた顔でさっきまで鳥がいたあたりを見ていた。
知識としてエル父さんから教えられている。
動きがそこまで素早くないので食料に困ったら探してみると良い鳥ということで教えられた。
かなり美味いらしい。
しばらくジャヤの大将は友達のガガの事を僕に説明してから
「もうすぐ戻ってくると思うから、さっきのをあと数回やってから山を降りるぞ。
伐採した木はトムトムマーリンで一本持っておらさせるからな覚悟しとけよ。」
ジャヤの大将は言った通り何回かさっきの一連の作業を繰り返し、三本の木しか残っていない。
ジャヤの大将は僕とトムに木を丸々一本持たせて(一番細くて軽いやつ)自分は二本(普通にデカい)担いで山を降りていく。
伐採した木を周りの木に当てないように華麗に降りていくジャヤの大将、すごい。
僕たちはえっちらおっちら、あーだこーだ言いながら降りていく。
この国の成人した人たちは個人差はあるものの皆身体強化は使えるようになっている。
北領同盟王国はもともとの土地は痩せている。
それ故に民が一人一人強くたくましくなり土地開発をしていかなければ生きていけなかった歴史を持つ。
今ではかなり改善されて食料も自国でまかなえるようになった。
だけど理念は変わらず引き継がれている。
身体強化まで教育するヒューマンの国は北領同盟王国以外にはない。理由はいろいろあるが省略。
そんなわけでどーにか村のはずれにある空き地(ガキンチョ対戦があった場所)についた。
そこにはジャヤの大将の友達ガガが待ちくたびれたようにして待っていた。
ガガの横には運んでもらった木が積み上がっている。
ジャヤの大将は担いでいる木をそこに置くと僕たちを見て親指でその場所を指した。
多分そこにおけということだと思う。
僕たちがそこに向かって歩いていくと同時にジャヤの大将とガガが乱闘を始めた。
僕は驚いてトムを見たが、トムに驚いた反応はなく慣れた様子で積み上がってる木に座り観戦を始めた。
僕はどうしたらいいかわからなかったのでトムと同じように観戦することにした。
ジャヤの大将とガガの闘いは日が完全に沈むと同時に終わった。
観戦していて気づいたが、ジャヤの大将とガガはプロレスをしていた。
プロレスにそこまで詳しいわけではないが、わざと相手の攻撃を受けたりするものだという印象があるためプロレスみたいと言っている。
両者は互いの攻撃をわざと受けては派手にぶっ飛ぶなどして遊んでいる。
ガガが飛んで帰った後にジャヤの大将に説明を求めると、ちゃんと説明してくれた。
ガガに運ぶのを手伝ってもらったらああやってガガの遊び相手にならないといけないらしい。
前一度やらなかった時は、怒ってせっかく運んだ木を全部山に放り投げて行ってしまったらしい。
「マーリンにもこの笛と同じやつをやるから、運んでほしい時があったら使うといいぜ。」
「絶対使わないよ」
「意外と楽しいもんだぜ。
前トムがガガを呼んだ時は泥んこまみれになって泣いてたがな」
「うるせー!わざわざいう必要ねーだろうがよ!!」
「やっと元気が出たかトム!その調子でどんと一発頼むぜ。観客はいっぱい呼んでやるからよ!」
「誰を呼ぶつもりだよ!!」
「村の予定がないやつ全員だ!息子よ!!」
「鬼か!!」
「親父殿だ!!」
なんだかんだと親子仲はいいらしい
僕はジャヤの大将とトムに家まで送られた。
家族全員それほど心配はしていなかったみたいだ。
絶対に何かがおかしいと思う。僕は六歳でまだまだ子供だ。
その子供が山に行き、日が完全に沈んでからも帰ってこないとなれば心配するものだと思う。
僕の考えが伝わったのかシェーラ母さんは
「ジャヤさんもついていますし、マーリンは自慢の息子ですからね心配はしてませんでしたよ」
エル父さん
「マーリンは私と剣で十分に戦える程強い、そうそう何かあるとは思っていない」
ルート兄さん
「マーリンだからね、心配ではあるけど大丈夫だろうなって思っちゃうんだよ」
ルーリィ
「マーリン兄さんはすごいからきっと大丈夫って思ってました」
家族みんな悪びれる様子は無く、こんなことを言ってくる。僕はなんと言えばいいかわからない気持ちになった。
それを見ていたジャヤの大将はなっははははは!!!と笑いながら僕の背中をバシバシ叩いてくる。マジで痛い。
「なっははははははマーリンは信頼されてるな!!
それはそうとエルヴィンス!シェヘラザード、ルートにルーリィ!これから時間はあるか!?酒場にいこう!」
「……そうだな夕食はまだだが別に構わないだろう。
ルーリィとシェーラは連れていかないが、ルートとマーリンを連れて行こう。」
「そうですね、流石にルーリィは連れて行けませんから。そうなるとわたしかエルが家にいないといけませんしね」
「おう!それで構わねーぜ。マーリンはともかくルートは一回酒場を体験しといたほーがいい歳だしな!」
この世界での飲酒、喫煙は大体十二歳基準になっている。というよりも祝福の儀を受ける歳である十二歳が大体の物事の基準になっている。
ルーリィは行きたそうな顔をしていたけどシェーラ母さんに上手いこと丸め込まれ、家の中に入っていく。
「明日の朝に今日の事を話すから楽しみにしててね」
そう声をかけるとルーリィは嬉しそうに振り返り
「うん!」
可愛らしい笑顔でそう返事をしてくれる。可愛い
ジャヤの大将は僕たち三人とトムに先に酒場に行っているように言い残し何処かに走っていく。
エル父さんはは酒場に向かいながらルート兄さんに話しかける。
「ルート、このままいけばシェーラの推薦で王都の教育施設に十二歳で行くことになるのは前に話したな」
「うん聞いたよ」
「えっ!ルート兄さん王都に行くの?」
「今のところそのつもりだよマーリン」
「大丈夫?絶対ろくな所じゃないよ。シェーラ母さんから聞く話にいいところなんて何もないよ」
「はははそうなんだけどね。でも僕は今以上に成長したいんだ。エル父さんとシェーラ母さんに相談したらやっぱり王都の教育施設に行くのがいいって話になってね。
シェーラ母さんは最後まで心配そうにしてたよ。
後マエルも行く予定だよ」
「いつのまにそんな話になってたの?」
「三ヶ月前くらいだよ」
「(そんな前から決まってたんだ…)」
「話を戻すぞ。
それで王都に行けば必然的に酒場などに行く機会も増えるだろう。今のうちに雰囲気に慣れておき、そこでの振る舞い方を身につけておいておくのも悪くない。
もちろんまだ酒を飲む事は許可しないが、それでも学べることは多くある。」
「うんわかったよ」
そうしているうちに酒場についた。
酒場はものすごい熱気があり、入るのすらためらってしまうくらいだ。
ここは辺境の街なのにこんなに人が集まるものなのかとエル父さんを見れば、少し訝しんだ顔をしている。
やっぱり普通はこんなに熱気はないんだ。
「ルート、マーリンこの熱気は王都並だ。
これはこれで都合がいい。
トムは一体何にそんなに怯えてるかは知らないがもう少し背筋を伸ばしておいたほうがいい。
逆に目立つものだからな。」
そう言ってエル父さんは自然な雰囲気で酒場に入っていく。
残された僕たち三人も顔を見あって堂々と酒場に入っていく。
中は外から感じた熱量をはるかに超える熱量で僕たち三人は一瞬固まってしまった。
そんな僕たちは目立ってしまったのか周りの数人に注目されてしまう。
奥ではエル父さんがカウンターに座って僕たちを手招きしている。
僕たちはすぐに気を取り直してエル父さんのいる奥の方に向かっていく。そうすると集まっていた視線は消えた。
「どうだ?王都に行く前に入っておいて良かっただろう。」
ルート兄さんはまだ雰囲気に馴染めないのかただ頷くだけだ。そういう僕も全然雰囲気に慣れる事はできておらず周りをキョロキョロしてしまう。
トムはこれからのことを考えているのか固まっている
「サーマさんすまないが私には軽いものを、この三人にはミルクをお願いできますか?」
「はーい!かしこまりましたって!まぁ珍しいねエルヴィンスさんが酒場に来るなんて!
それにそこの三人ははじめてでしょ!
少し時間がかかるけど少し待ってね!」
「ええ構いません」
サーマさん、サーレの母親だ。父親のモックさんは奥の調理場で忙しなく動き回っているのが見える。
サーマさんは赤毛に焦げ茶色のバッチリとした目、明るい感じの綺麗な人だ。サーレはサーマさんに似ている。
そのサーレはお客さんの対応でてんやわんやになりながらも頑張って働いている。
「.おう!集まってるか野郎ども!」
そこにジャヤの大将が登場
酒場がさらに盛り上がっていく。
ジャヤの大将は酒場にいる人たちに一人ずつ挨拶をしていき、だんだん僕たちの方つまり奥、いやトムのところにやってくる。
トムは覚悟を決めたのかもう慌てたりはしておらず、ただただ時が来るのを待っていた。
そのトムの様子にエル父さんとルート兄さんは訳がわからないといった感じの顔をしている。
まぁ理由を知らなかったら仕方ないと思う。
そうしてジャヤの大将は僕たちのところに来て
「おう悪いなエルヴィンス!理由も言わずに来てもらってよ!」
「いやこの村では珍しい熱気だからな、十分に楽しませてもらっている。」
「なははは確かにな!こんなに人が溢れかえるのなんかこの村じゃ収穫祭の時くらいだしな!」
ジャヤの大将はエル父さん少し話した後、トムの方を見た。トムもジャヤの大将を見ている。
「覚悟は決まったか?トム」
「決まってるぜ親父」
「始め方は任せるぜ」
「わかった」
トムは戦士の顔になっていた。実際に戦士なんか見たことないからそう感じるってだけなんだけどね。
ジャヤの大将は面白そうにトムを見ている。
エル父さんとルート兄さんは事の成り行きを見守るつもりらしく、何も言わない。
トムは深呼吸をしてから
「サーレ!!少し話がある!!」
熱気で溢れている酒場でも全体に響く程大きな声でトムは叫んだ。
もちろん酒場にいる全ての人がトムに注目する。
そして呼ばれた本人であるサーレは少し戸惑いながらもすぐに行動を再開した。
「どうしたのトム?注文?」
「いやちげー。」
「ならどうしたの?」
トムは頭をボリボリかいてから、サーレをまっすぐに見て
「ずっと前からサーレが好きだ。絶対に幸せにする。
俺と結婚しよう!」
トムは今まで見たことがないような真剣な表情でそう言い切った。
酒場は沈黙が支配している。
みんなが突然の告白に驚きどうしたらいいのかわからないみたいだ。
僕とジャヤの大将も変な茶々は入れずに見守ることにしている。
だが酒場の厨房から突然飛び出てくる人がいた。
サーレの父親のモックさんだ。
「トムーー!!テメー!!!!!
俺のエンジェルに何言ってんだこのクソガキが!!」
マジギレだ。
調理場から飛び出てきたモックさんはすごい形相でカウンターから出てきてトムに迫ろうとするが、モックさんの足にジャヤの大将が足を引っ掛けて転ばす。それに続いて周りの男連中がモックさんを取り押さえていく。
ここにいる男連中はみんなサーレが大好きだが、無粋な事はせず、サーレに判断を任せるようだ。
それでもモックさんは暴れている。そこにサーマさんが近づいてモックさんの頭を叩く。
パチン!
モックさんは驚きの表情でサーマさんを見るが、サーマさんは人差し指を口の前に置いて静かにしているようにモックさんに伝えた。それでモックさんは大人しくなった。
みんながサーレの返事に注目している。
「結婚してください、じゃなくて。
結婚しよう、ってところがトムらしいね。
でもごめんなさい。」
トムは泣きそうな顔になっているが泣かないように踏ん張っている。
周りの連中も、あちゃーっと葬式の様な雰囲気を醸し出している。ジャヤの大将もそんな感じ。
ただ一人、モックさんだけが宝くじでも当たったかの様にはしゃいでいる。
トムはどうにか気持ちを整えて
「そうか、ちゃんと答えてくれてありがな。」
そう言って酒場の外に出て行こうとするトム。
「トム。プロポーズをするなら時と場所を選んでね。
今回のはジャヤさんの差し金でしょ。
そんな誰かの意思じゃなくて、トムの意思でしてよ。
だから次はちゃんとトムの意思でプロポーズして、待ってるからね」
トムはサーレの方を振り返り戸惑った顔をしたが、意味を理解したのかすぐに笑顔になり
「ああ 、 ああ!もっといい男になってすぐに迎えに来るからよ!!もう少し待っててくれ。」
「うん。でもあまり待たせないでね。」
それを聞いた瞬間周りの連中は、おおー!!!と雄叫びをあげて騒ぎ始めた。ジャヤの大将はとりわけテンションが高く騒ぎまくっている。
モックさんはこの世の終わりの様な表情で泣いている。それをサーマさんが慰めていた。
トムとサーマは酒場の大人連中に騒ぎ立てられながらも楽しそうに騒ぎの中心に入っていく。
ルート兄さんは劇でも見ている様な気分なのか、その光景をぼーっと見ていた。
「すごいねルート兄さん」
「そうだねマーリン。実際にこんな場面を見るのは初めてだけど、素直に幸せになってほしいと思うよ」
「ルート兄さんらしいね」
「そうかな」
「そうだよ」
そう言ってルート兄さんはミルクを片手に幸せそうな光景をただ黙って見ていた。
エル父さんの方を見ると、祝福半分とよくわからない感情半分の視線をトムと触れるに向けていた。
エル父さんが今何を考えているのかなんとなく察しがつく。
「ねえエル父さん」
「どうしたマーリン」
「ルーリィもいつかはあんな風に成長していくんだよね?」
エル父さんの表情が少しだけ変化したのを僕は見逃さなかった。
ルート兄さんもこちらの話が気になるのか視線をエル父さんに向けている。
「………………そうなのだろうな。
こんな風になるかはわからないが、きっとそうなんだろう。だがルーリィはルートやマーリンと同じようにとても聡い子だ。
上にいい見本となる母親や兄弟がいる。
きっと今ままいい方向に成長をしていくだろう。
そのルーリィが決めた男なら間違いはないとも思う。
それにシェーラもいるからな、人物の見極めに問題はない。
私よりも人の本質を見抜くのが得意だからなシェーラは。
……………………ただそうだな。…七日間程私と二人で人里離れたところに行き、剣の稽古をするぐらいならいいかもしれないな。」
僕とルート兄さんはミルクを飲みながらエル父さんの話を聞いていた。
そのため最後の言葉を聞いた時に思わず二人ともミルクを吹き出してしまう。
今の酒場はどんちゃん騒ぎて荒れまくっているためこれくらい今更どうということはないと思うけど一応心の中で謝っておく。
まぁそんな事はいい!それよりも!
「あっはははははは!!確かにそれいいね!!!
そう思わないルート兄さん?!」
「あははははは!!うんとってもいいと思うよマーリン!!」
「なんなら二人とも付いてくるか?」
「「あっはははははは」」
その日の酒場は日が変わっても興奮は収まらず、明け方までどんちゃん騒ぎは続いた。
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