第16話ガキンチョ逃走

あれから時が過ぎ早くも僕ことマーリンは六歳になった。


この二年間もずっと剣の練習と魔法術の練習を続けている。

剣の練習では最近やっとエル父さんとの打ち合いで、エル父さんに苦戦勝させることができるようになった

そう苦戦勝させることができるようになった!

大事なことなので!とても重要なことなので!三回言っておこう。

エル父さんに苦戦勝させることが出来るようになった!!!



まぁ剣の練習ではかなり実物の剣や対人戦にも慣れてきたのだけど、体が思うように成長しない。

エル父さんやシェーラ母さん、ルート兄さんはかなりスタイルがいいから僕もそれなりに大きくなるはずなんだけど周りの子供と比べると成長が遅い。

最近ではルーリィに追いつかれるかもしれないと思うようになってきた。

まだまだ差はあるけど、そんな予感がしてならない。



そんな理由がありどうしても体格差で不利な状況を作られてやられてしまう僕。

技量は僕が上なんだけどそこは如何ともしづらいものがある。

ルート兄さんとはかなりいい勝負になっていたんだけど、最近さらに身長差が広がってきたことで若干ではあるが不利になってきている。

それにルート兄さんはかなり剣の腕が上がっていて、エル父さんに聞いてみたらルート兄さんの剣の才能はエル父さん以上あるとのことだった。

技量で押すにも、ほぼ毎日打ち合っているからどうしようもない部分がある。

そんな感じで剣の練習を続けているからスキルフル活用身体強化(面倒いからフル強化)は欠かせない。

今では寝ている時以外はいつもフル強化している。

フル強化維持のコツを少しだけ掴んできたから数年後には寝ている時も維持できるようになると思う。



そういえばルーリィも三歳になるとほぼ同時にシェーラ母さんから棒術を教えられるようになった。

エル父さんが剣術を教えるものだと僕とルート兄さんは勝手に思っていたんだけど違ったみたいだ。

シェーラ母さんの棒術は防御と受け流し、カウンターが主で自ら攻撃することはあまりない、護身術のようなものだった。

カウンターで狙うところが全て容赦ない箇所で僕とルート兄さんは震え上がっていたけどね。

目、喉 、鼻 耳 鳩尾、股間、その他諸々の急所もしくは感覚器官である。

どこで棒術を覚えたのかを聞いてみると


「王都の教育施設では色々ありましたから、こういうことも自然に覚えていきましたよ。」


と感情の読めない声音で教えてくれた。

「(王都の教育施設って前から思ってたけどそんなにヤバいところなのかな?)」

この話をする時のシェーラ母さんは一瞬別人に見える



六歳になり言語の方も粗方覚えることができた。

ルート兄さんより二年遅れだけどかなり頑張った方だと自分では思っている。

ルーリィも北領同盟王国、現エルフ、ゲオルグ正教法皇国を話せる様になってきた。

言葉ってこの歳でこんなに覚えれるものだっけ?とも最近考えるようになったがこんなものだろうと思うことにした。

ファンタジーだし考えても無駄だ。



魔法術の練習は、あの蝶の一件の日に中級以上のやり方、考え方、扱う上での注意事項などを教えてもらい免許皆伝のような状態になった。

シェーラ母さん曰く


「魔法術を教えていく上で大切なのは心構えと、入門魔法術に入るまでの基礎中の基礎だけです。

そこからは自分の努力で鍛え上げていくものなんですよ魔法術というものは。

マーリン貴方には魔法術の才能があります。

ここから貴方がどんな魔法術使いになっていくのかわたしはとても楽しみにしていますよ。

それと新しく魔法術を編み出したらわたしに見せてくださいね。」


とのことだったので今僕は一人で思いついた事を試していっている。

成果としてわかったのが、僕は攻撃的な魔法術が苦手だということだった。

いくら練習してみてもイマイチなものにしかならなかった。

シェーラ母さんに相談してみると


「魔法術には人によって向き不向きがあることは前に話しましたね。

あれは属性のことだけではなく、攻撃的 防御的 などにも当てはまる話なのですよ。

向き不向きといっても絶対にあるわけでも、不向きなものが全く使えないこともないのですが、そこは個人差ですね。

マーリンの場合、攻撃的な魔法術はほぼできないと言っても過言では無いと思います。使えて入門魔法術の応用くらいでしょうね。

そのかわり属性はほぼ全てかなりレベルで適正がありますし、攻撃的でない魔法術はとても才能があります。

だからそこまで落ち込まないでねマーリン。

大丈夫ですよ。確かに攻撃的な魔法の方が男の子的にはかっこいいのかもしれませんが、攻撃的なもの以外も十分にかっこいいですよ。

ああぁそんな泣きそうな顔にならないでマーリン」


その日は久し振りにシェーラ母さんに慰められた。

今では開き直りかなり多彩に魔法術を使えるようになっている。ちなみに精霊とは契約も友達にもなれていない



ルート兄さんやマエルも一年ほど前に前段階を合格して今はひたすら入門魔法術の呪文を覚えて、色々な方法で発動させている。

この段階に入ってから若干ルート兄さんよりマエルの方が上達が早くなってきている。

魔法術の才能はマエルの方があるみたい。

シェーラ母さんが言っていた。



ルーリィも魔力コントロールの練習を始め、最近魔力を認識できるようになってきたみたい。

初めて魔力を感じることができた時は僕とルート兄さんのところに嬉しそうに報告しにきてくれた。

かわいい妹でほっこりする。

シェーラ母さんは


「ルーリィの魔力の認識の仕方はわたしによく似ていますね。

それに魔力を認識できるようになるのもかなり早いですからきっとわたしと同タイプの魔法術使いになるでしょう。

ルートはエルにタイプが似ていますから剣を軸にした魔法術の使い方で定着していくでしょうね。

マエルについてはかなり攻撃的な魔法術使いになると思いますよ。」


僕はどんな風になるか言ってくれなかったので聞いてみると


「マーリンはどんな風になるか全然予想できません。

ふふふだから本当に楽しみにしているんですよわたしは」


と言われた。前にもエル父さんから同じようなことを言われたのを思い出した。



剣と魔法術に関してはこんな感じになっている。

そして現在は、昼食を食べ終わり兄妹三人で村に買い物に出かけている。

配置は横並びで右から僕 ルーリィ ルート兄さんで手を繋いで歩いている。

ちなみに僕の身長はどちらかというとルーリィに近い身長をしている。


「マーリン兄さん?」


ルーリィが身長のことを考えていた僕に気づいて話しかけてきた。

ルーリィの性格は優しく人の感情の機微に敏感でそこはシェーラ母さんに似ているけど、少し口下手なところがある。そんなところはエル父さんに似てるね。

今ももっと具体的に聞こうか迷った顔をしている。


「ううん何にもないよルーリィ。」



僕がそう答えるとルーリィは少し疑問が残った顔をしているが納得はしてくれたみたいだ。

そんなやりとりを見ていたルート兄さんが今少し笑っている。

きっと僕が何を考えていたかわかっているんだろう。


「あはは マーリンそんな顔で見てこなくても何も言わないから大丈夫だよ。

ほら今日は買うものが色々あるからね早く行こう」


そう言ってルート兄さんは少しだけ足を早めて話を打ち切った。

ルート兄さんは昔の性格のまま成長している。

まさに理想の王子様スタイルだ。

今では近隣の村でも噂されるほどの美少年になっている。

もちろんこの村でも子供大人問わず大人気だが、特に女性人気が凄まじい。



村の子供のヒエラルキーランキングもだいぶ変化した


ボヘムは十二歳で無事王国兵士試験に無事合格し、今は訓練兵としてここから遠く離れた訓練所で訓練にあけくれているらしい。


サーレは今年十二歳になり子供ヒエラルキーからは除外された。今村の中でサーレにプロポーズする男が大量発生している。

そして現在のヒエラルキーランキングは


一番ルート兄さん九歳 圧倒的カリスマ

二番マエル九歳 女の子らしくなってきたと近隣の村の男子もここ最近騒いでる

三番ゲン十一歳 寡黙でハードボイルド、憧れてる子供が多い。

四番僕ことマーリン六歳 色々ありこの順位

五番ルーリィ三歳 可憐な容姿と可愛い性格という理由が半分 、残り半分は僕とルート兄さんが構いまくってるから

六番トム十歳 前と変わらずの六番目 色々ありこの順位に収まる

七番ジェリー十歳 トムの相棒的なポジションに収まりこの順位



ランキングはこんな感じで定着している。

つまり今ここには一番四番五番が一緒に歩いている状態であり、かなり注目されている。

ルート兄さんはもう慣れてしまったようで少し苦笑いするくらいでいつもと変わらない様子。

ルーリィは視線が気になるのか恥ずかしそうにしている。

僕についてはまぁ少し違ってくる



「おーい嬢ちゃーん。マーリン嬢ーちゃん。薬草のことでのー確認したいことがあるんじゃがね〜

少しいいかい〜〜?」

「「ップふ」」


…………。薬屋のばあちゃんだ。

最近村のお年寄りから女の子と思われる事が多くなってきた。

僕は身長のことだけではなくこの事も気にしている。

髪を短く切ったらもう少し男子に見えると思うんだけど、家族全員に似合っているのにもったいないと止められて切るに切れない。

そしてルーリィとルート兄さんが今少しだけ笑った。

あとで問い詰めてやると決めてから、薬屋のばあちゃんにこたえる。


「こんにちは薬屋のばあちゃん。

あと僕は男子だからね。嬢ちゃんじゃないからね。

薬草なら前頼んだ通りに買い取ってもらったけどその事?」

「ありゃまた間違えちまったかい?

マーリンの坊ちゃんは見た目が女の子にしか見えなくてね。つい嬢ちゃんって呼んじまうんだよすまないね。

それで話ってのはその事でね。

マーリンの坊ちゃんはどうやってあの薬草を選んだんだい?えらく品質の良い薬草ばっかじゃったから気になっての〜」



僕は魔法術の練習時間に自由になってからやる事がなくなり、その時間でできることを色々試してみている。

薬草もお小遣い稼ぎに薬屋のばあちゃんに買い取ってもらうように頼んでこの前やってみた事だ。

《把握》と《同調》を使って薬草に魔力を流してまた《把握》を使うと大体のことはわかるようになる。

あとは異常のない元気そうなものを選んだ。


「あ〜その事でね。それは出来るだけ元気そうな薬草を選んでみたんだよ。」

「ほ〜そりゃすごいの〜。マーリンの坊ちゃんはいい目利きをしとる。あれだけいい薬草なら今度から事前にあたしに断りを入れる必要はないからの。気が向いたらまた薬草を売りに来とくれ。

要件はそれだけじゃ。邪魔して悪かったの。」

「うん気が向いたらまた売りに行くよ。」


そう言って薬屋のばあちゃんは帰っていった。

僕は手を振りばあちゃんを見送ってから


「ねぇルート兄さん、ルーリィさっき笑ったよね。」

「気のせいじゃないかなマーリン」

「笑ってないよマーリンねぇ…じゃなくて兄さん」

「ル〜〜リィ〜?姉さんって言おうとしなかった〜〜今?」

「あははルーリィ、いくらマーリンがお姉ちゃんみたいでも間違えたらダメだよ」


「ルート兄さんもやっぱりそう思ってたんだ!

やっぱり誤解される原因の長い髪は切ることにするよ。」


「ああもったいないよマーリン兄さん綺麗な髪なのに」


「そうだよマーリン。切ったらシェーラ母さんがとっても悲しむよ。シェーラ母さんはマーリンの髪をいじるのが大好きなんだから。」


シェーラ母さんはここ一年ほど気が向いたら僕のところに来て髪型をいじってくる様になった。

今日はルーリィとお揃いでハーフアップ?と言うやつにされている。

そんなやりとりを村の中道の真ん中で小一時間ほど続けて、結局髪は切らないという方向です話がまとまった。



ルート兄さんとルーリィは使命を全うしたというような顔で満足そうに買い物をしている。

僕はもうどうにでもなれという顔で買い物をしている。

………なぜこんなことになってしまったのか

…………責任者は何処か?よっちゃんかな?



そんな感じで買い物を続けていき、今は香木を買いに来ている。

もう少ししたら秋になりお祝い事も増えるからこーいうものも必要になってくる。

トムの実家、木こり大将ことジャヤさんの店だ。


「ジャヤさーんいますかー?」

「おう!なんか用かルート?それにマーリンにルーリィの嬢ちゃん。」


「祝い事の香木が欲しいんだよジャヤの大将」

「あ〜それなんだがよ〜。

今ちっとばかし在庫がなくてよ今日か明日に取りに行くつもりだったんだよ。すまねーなマーリン。」

「珍しいねジャヤの大将が在庫を切らすなんて」


ジャヤの大将は頭をかきながら


「あーまぁなんだ。

うちのトムによここ最近木こりの仕事を教えてんだがそれでよ」

「色々と苦労してるんだね。」

「そーいうこった。

ルートやマーリンの坊主達にもこの前はトムが苦労をかけたな。」

「ジャヤさんが謝ることじゃないですよ。」


「いや子供の責任は親が持つものなんだよルート。それが親の特権ってやつだ。だからあれは俺の責任だ」


そう言ってジャヤの大将はもう一度僕たちに謝罪した。親の責務とは言わない所がまた男らしくてカッコいいジャヤの大将なのである。



この前の事とは、子供ヒエラルキー番付が確定する前に起きた大喧嘩のことで、色々あったというのがこの事。


半年ほど前、ルーリィが二歳だった頃にその事件は起きた。

トムが僕、ルート兄さん マエルに番付の順位を掛けて勝負を挑んできた事が事の始まりになる。

僕、ルート兄さん マエルはそこまで順位にこだわりはなかったから譲ってしまおうとしたんだけど、それじゃあトムが納得しなかった。

村の広場で遊んでた所に隣村のガキ大将トット十一歳と共に現れ、日付と時刻を宣言してきた。

ゲンの名前が出てこなかったのは、トムがゲンに憧れているからだ。

隣り村のガキ大将トットがトムに協力したのは村の女子人気がルート兄さんに取られてしまったからというなんとも哀れな理由であり同情できなくもない。



ここまでは何も問題じゃない。

この二人をボコってしまえば終わる話だから。

二人には悪いが僕たち三人が普通の同世代の子供に負けるとは考えにくい。

だが問題はここからだった。

トムとトットは勝負には好きなだけ仲間を連れてきていい事、なんてルールを勝手に決めやがった。

隣村のガキんちょは全てトットの手下である事をトムは村の子供達に言いふらし、自分の味方になるように説得をしていたらしい。

その甲斐あって僕たちの味方はゼロ。

あっちの人数は二十人くらいになった。

僕の村からあちらの人員になったのは数人で、それ以外はゲンと共に見届け人という中立の立場だ。

正直羨ましい。



そして勝負の日になり、僕達は逃げたと思われるのが嫌だったし、ルーリィに可愛く頑張ってと応援されてしまったので村の外れにある空き地に向かった。



そこにはトム トット ジェリー その他諸々と、少し離れたところでゲン達中立組みが待っていた。

トムは僕達がきた事を確認すると、長々と喋り出し、その次にトットが喋り出した。

最後にゲンが手短に素手以外の攻撃は禁止、必要以上の暴力も禁止。破られたらゲン達が止めに入る事を宣言した。

この時のゲンの姿はあまりにかっこよく子供達から

【ハードボイルドゲン】と異名がつけられるきっかけになった。



勝負は相手側が圧倒的な人数ではあるものの、こちらの三人は少数精鋭であり、個人での力量を比べた場合相手側を圧倒しているし、連携もバッチリ。(一緒に練習する機会が多いからね)

素手のみという事で多少苦戦はしたものの僕達が最終的には勝った。



ルート兄さんはその子供とは思えないくらいに鍛えられた戦い方と爽やかな顔から見守っていた女子をメロメロにして【ルート王子】という異名がついた。

ついでにトットは瞬殺されていた。少しだけ気の毒だ


マエルは祖父母から教えられている相手に触れさせずに転ばす護身術で相手のガキんちょ達を泥まみれにしていた。

その後の静かに髪を耳にかけてから、暗い青色の目でクールに転がっているガキんちょ達を見下ろす姿から【孤高の冷血】という異名がついた。

ちなみに転がされていたガキんちょはもれなくマエルのファンになった。


僕はトムに集中的に狙われたが、手刀でボコボコにしてやった。その時に気がついたんだけど、手刀の方が今はまだ実際に剣を使うよりも戦いやすかった。

僕は女の子みたいな見た目と、その見た目からは想像できないくらいの戦いぶりから【女狐・マーリン】という異名で呼ばれるようになった。不本意な異名である



その後の騒ぎに気づいた村の大人達がきたが、ゲンがうまく説明をし、スムーズに解決した。

ヒエラルキー番付はこの一件で決まった。



僕があの時のことを思い出していると


「おーい 親父ー!早く森に行こうぜ!」


奥の方からトムが出てきた。

そしてすぐに僕達のことに気づき、僕を睨んでくる


「おい!なんでマーリンがここにいんだよ」

「トムに会いにきたわけじゃないよ」

「んなことはわかってるよ」

「香木を買いに来たんだよ」


トムはそれを聞くと何やら良からぬことを考えてる顔になる。

僕は今すぐに帰りたい気分になった。

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