第11話理想の兄でいたい

さて今僕は村の広場で合計十人の子供一緒に鬼ごっこをすることになっている。


「よしマーリン何かいい案はあるか?」


僕が鬼ごっこをすることになった元凶であるお調子者のガキンチョ大将ことトムが聞いてくる。


その顔は、もう考えついてんだろ?と僕に言っていた。

実際もうルールの案自体はあるんだけど、トムの言葉に素直に従う気にならないだけだ。


「三歳児の僕にルールを考えさてるんだから少しは待ちなよ。短期なリーダーは嫌われるよトム」


それを聞いてトムは僕を少し小突くと


「どーせお前のことだからもうできてんだろーが、さっさと言っちまえ。バカ」

「そのバカの三歳児に考えさせてるのはトムだろ」 


「なんだとこいつ」

「なにか言い返せるのトム?」


もう分かったと思うが僕とトムは相性が悪い。

トムの強引さと僕の性格は事あるごとに反発し合うのだ。あと少しで喧嘩突入というところで


「トム、頼んでるのは君でしょ。ならそれ相応の態度ってものがあるはずだよね。

マーリンもトムを煽らないで、話がややこしくなるから。」


マエルが仲裁に入った。

マエルはつめたい感じの女の子で頭はとてもいい。

語学などは流石に僕とルート兄さんが上だけど、それ以外のものは全部ルート兄さんよりも少し下か上ぐらいをいっている。

語学の方もヒューマン三大国家言語をかなり話せるぐらいの実力がある才女。

僕にも勉強を教えてくれたり、言葉の練習に付き合ってもらったりと交流はある方だ。

ついでに顔は整っている方だと思う。

酒場の看板娘のサーレと村での女子ランキング一位を争われているくらい(本人は知らない。サーレは知ってる)

ランキングの製作者は男だけの秘密。

女性ランキングはシェーラ母さんが圧勝のナンバーワン


髪は肩くらいまでの少し青が入った黒。

目は大きく髪と同じ色している。

印象としては可愛いよりも美人といった感じ。

まぁまだ六歳の子供なので美人になるだろうくらいしかはっきり言えないが。


「わかったよ、ごめんマエル。ルールは一応考えたから話すよ。」


僕は素直に謝罪する。

マエルはシェーラ母さんとすごく仲がいい。

マエルがシェーラ母さんに憧れてることと、シェーラ母さんの方も優秀な教え子ということでとても気にかけている事。自分に憧れてくれる女の子として大変可愛がっている。

下手に逆らえばシェーラ母さんに話が伝わってしまうのでそれは避けたい。


「ありがとうマーリン」


マエルはそういって僕の頭を撫でてくる。

後はトムも引き下がっていい感じに収まるかと思えば


「おいちょっと待て!

なに勝手に話まとめてんだ!

俺はまだ納得してねーぞ!」


そんな流れをトムはぶち壊していく。

マエルは僕を撫でるのをやめてトムと僕の間に立ち


「じゃあどうすれば納得するのかしら?」


そんなマエルの言葉に、トムは何も考えてなかったらしく、数秒間抜けな顔をしてから


「あぇあーっと 、そう!マーリンが俺に謝ったら納得するぜ」


マエルは呆れたような顔をしながら


「なぜマーリンがトムに謝らなければいけないのかしら?」

「ああ?そんなの俺を煽ってきたからにきまってんだろ!マエル お前がそう言ったんだぞ!」


「ええ言ったわ。話がややこしくなるからトムを煽らないでってね。

でもそれはトムを煽らないでってことではなくて、話をややこしくはしないでって意味で言ったの。

マーリンがトムにああいう風に言い返してしまうのは仕方がないと私は思っているわ。」


マエルはそう毅然とした態度でそう言い切った。

トムはそれになにも言い返せない。

もし僕や違う人が言ったら絶対に言い返しているけどね。



僕とトムの七番と六番にそこまでの違いはないが、一番から五番目は話が違ってくる。ルート兄さんを例外とすれば完全なる実力の順位になっているからだ。

ボヘムは自警団に混じって毎日訓練しており大人にも引けを取らないくらいの実力になっていて、トムは一回コテンパンにされている。

来年十二歳になり、神の祝福の儀を受けると王国兵士試験を受けると言っていた。

詳しいことはまた説明する機会があると思うので省略


サーレについては少し特殊で、サーレ自身は普通の女の子である。

サーレから何かをすることはできないが、何かをされた時の反撃がやばい。

トムがサーレをわざとこかした時は村中の成人男性(エル父さんは除く)がトムをボコボコにしていた。

もちろんトムは大泣きだ。

このことは今でも村の子供間で話のネタになっている


ルート兄さんにも年下ということで喧嘩を売っていたことがあるけど、戦いになっていなかった。

見ているこっちが悲しくなるくらいの有様だったね。


マエルにも年下と女ということで勝負を挑んでいたが、マエルの育て親の祖父祖母は元A級冒険者で護身術をしっかり教えられている。

軽くのされていたね。

将来魔法術師になるならある程度の体術は必須だと教えられてるらしい。

マエルの家庭は祖父母との三人暮らしである。

祖父祖母はよくうちの両親に


「マエルはいい魔法術師になる。わしらにもしものことがあったらどうか少しの間面倒を見てやってくれ」


と話している。

両親曰くマエルには実際かなりの素質があるらしい。

なんでそんなことが平民にわかるのだろうか?

本当にうちの両親はただの平民なのかな?


ゲンについてはいきなり殴りかかるという奇襲作戦を実行していた。

もう上にはゲンしか勝てる可能性のある者がいないという事で必死だったんだと思う。

その結果一発拳が顔面にヒットしたが、ゲン少しふらつくだけで倒れはせず。

無言の反撃。トムは一発KOされた。

そのあとゲンはトムを担いでトムの家に運んで、トムの両親に状況の理由の説明をあったこと、あったままに話したという。

この一連のゲンの行動が村の子供達でカッコいいと評判になり、今でもかなりの人気があるエピソードだ。


まぁそんなこんなでトムは上の五人には絶対勝てないことが証明されてしまっている。

もちろん僕は、そもそも戦いをしない。三歳児ですから。


そういう背景がありトムとマエルのにらみ合いはトムの負けに終わった。


「わかったよ。俺が悪かった。

マーリンすまねーが、案を聞かせてくれるか?」


そんなこんなでやっと鬼ごっこが始まろうとしている



ルールを説明


1

範囲は村の中だけ。建物の中は反則。


2

鬼役は二人。二人が逃げている人を二人を捕まえるまで鬼役の交代はなし 。

捕まった人はもう一人が捕まるまで長老の家の薪割り

女子は薬師のばあちゃんの手伝いで薬草をすり潰す。

既に二人には了承をもらっている


3

鬼役は逃げている人を見つけたらその人の名前を呼ぶ。

見たかった人は右手で両肩両膝を一回ずつ叩くまでその場を動けない。それを守らなかったら強制的に捕まったことになる。子供は割と素直なので意外と有効。


4

二人捕まったら、捕まった人は広場の中心に向かい、

そこで 僕たち、私たちが鬼 と宣言し鬼ごっこを再開する


だいたいこんな感じで賛成を得ることができた。

最初の鬼はマエルと僕。

トムがよくルールが理解できないとか言って僕を最初の鬼にしやがった。

まぁ多少わかりづらい所があるのは認めるのでそこまで不満はない。

マエルは三歳児の僕が鬼役をするならと立候補してくれた。

マエルはつめたい感じの女の子ではあるが基本的に優しい。

本人に言ったことはもちろんないけどね。



鬼役以外の子供が逃げて行った後、十秒数えマエルが


「マーリンはあまり走れないと思うから見つけた人の名前を叫んで。

そこを私が捕まえるから。

それまでは歩いて探しましょう」

「ううん大丈夫だよ。身体強化使えばかなり走れるようになるから」


マエルが驚いた顔をしていた。

そんなおかしなことを言っただろうか?


「マーリンはもう身体強化が使えるの?」

「まぁね。一応シェーラ母さんからも大丈夫って言われてるから問題ないと思うよ」


「そうなんだ。 シェーラさんに大丈夫と言われてるなら間違いないのね。」


マエルの顔が少し曇ったように見える。

さっきからどうしたんだろう?


「マエルどうかしたの?」

「いいえ何にもないの、少し考え事をしていただけ。

このことルートも知ってるの?」


質問の意味がよくわからなかったけど、別に隠すことでもないのでさらっと答える。


「うん知ってるよ。それで今日はシェーラ母さんに魔力コントロールの練習を見てもらってるみたい」

「なるほどね、それで今日は二人が一緒じゃなかったのね。」


マエルは少し考えこむ様にしてから僕の方を見た。


「なら二人とも走って探して、さっさと捕まえましょう。

それと私はシェーラさんに急用ができたから鬼役を交代したら鬼ごっこから抜けるわ。」



そこからは一瞬で、ものの一分ほどで二人を捕まえてマエルはシェーラ母さんのところに走っていった。

ちなみに捕まったのはトムと農家の長男ジェリー七歳である


マエルが抜けてからも鬼ごっこは続いていき昼食の時間に終わった。

僕は結局一回も捕まらなかったよ。

トムが執拗に僕を狙った来たけど最後まで逃げ切ることに成功した。

この日僕に始めて異名がついた。

【逃げのマーリン 】

不本意です。



鬼ごっこが終わるまで二時間ほど前


「はぁー、ふぅー、はぁー、ふぅー」


身体中の魔力をただ正確に循環させていき、少しずつ循環速度を速くしていく。

これにより体全体で消費される魔力が増える。

今の状態でも少しは身体能力が上がるがあまりに効果が薄いし、消費速度を速めるだけだといずれ循環する魔力が足りなくなる。

この状態で魔力を流し込んでいくことでようやく身体強化と言われる状態が完成。


「ルート、今のところうまく循環していますよ。

その状態を十分維持してくださいね。」

「……………」


返事をしたいけどするほどの余裕がない。

僕に余裕がない事もシェーラ母さんは分かっているんだろう。僕を微笑ましそうに見ている事からすぐにわかる。

身体強化の大切なことは循環速度の調整。

滑らかに滞らず、緩やかに循環量を増やすこと。

そしてその維持に神経を使いすぎないこと。

あくまで身体強化は戦いの補助目的で使う技術だからね。



十分後


「十分維持完了ね、身体強化自体はもうできるようになりましたね。後は慣れていくことで持続時間も次第に増えていくと思いますよ」


シェーラ母さんはえらいえらいと頭を撫でてくる。

シェーラ母さんは頭を撫でるのが好きで、エル父さんは突くのが好きだ。


「はぁはぁはぁっはーーー。理想 はどれくらい?」

「最終的な理想としては魔力生産と魔力消費が均等になるぐらいの身体強化を生きている間ずっとですね。

でもそこまでいける人はごくごく少数でしょうから、三十分ほど出来たら問題ないと思います。私で大体連続だと二十時間程度ですからね」


「二 二十時間か、まだまだ道は長いんだね僕は。」

「六歳で十分程維持できるならとても凄い方ですよ。大陸全体で見ても百人もきっといないと思いますから」


「じゃあマーリンは本当にとんでもないんだね。

本当に自慢の弟だよ。

でもね後数年、せめてマーリンが十二歳になるまでは絶対にカッコいいお兄ちゃんのままでいるんだ。」




僕はマーリンよりも才能がない、それもかなり。

マーリンが産まれてきた時の事を、当時僕は三歳だったけど今でもよく覚えてる。

シェーラ母さんの腕にいるマーリンからは、溢れ出てくるような神の祝福が宿っていたんだ。


神の祝福とはその書いて字のごとく神からの贈り物。

それがどのような影響を与えるかは人それぞれとされているけど、大体が強力なジョブやスキルを持って産まれてくることが多い。


マーリンが生まれてくる一年前は世界各地で祝福の子が生まれ、世界が揺れた。

王族や貴族の間で祝福の子が生まれるということは、後継ぎ問題や周りの王族貴族との問題が多く発生するということだと、エル父さんが教えてくれた。

今回の祝福の子たちは、そのほとんどが王族貴族の子として生まれた為に大混乱がおきてしまっているらしい。

こんな辺境の村にまでその情報が来るぐらいの騒ぎになっていたんだから本当のことなんだろう。

その子たちが十二歳になる頃に世界の均衡が崩れ始めるかもしれないという様な事をシェーラ母さんとエル父さんが話し合っていたのを覚えている。


新生児が神の祝福を受けて生まれると祝福が淡い光として見えるんだ。

祝福を認識できる期間は祝福の強さに比例すると言われているけど、光が弱い子供の方が良いジョブやスキルを持っていることが多いというデータもあるみたい。


光が見える期間もバラバラで大体の祝福の子は一日から五日らしいが、マーリンは半年感も見えるままだった。

これには祝福の子が生まれたことにもあまり動揺しなかった(あふれ出るような祝福の量にはかなり驚いていた)シェーラ母さんもどうしたらいいかわからないようでおろおろしていたよ。

仕事で半年ぶりに帰ってきたエル父さんは、エル父さんにしてはかなり時間 間抜けな顔になっていた。今まで見たことがない顔だったとシェーラ母さんも言っていた。


それほどの祝福を持っているマーリンだったけど、ジョブはかなり普通だった。

十二歳になるまでにジョブを持っていること自体がありえないことだから十分凄いことなんだけど、かなり普通だった。

スキルもあまり強力とは言い難いものが二つあるだけだったらしい。


このことに村の大人たちは言葉がなかったという。

つまり拍子抜けだったということなんだろうね。

村の大人たちの間では異常な祝福の光ら何かの見間違いということで意見が固まり、次第に忘れていった。

シェーラ母さんとエル父さんはジョブとスキルが普通だったことに逆に興味深そうにしていたけどね。

シェーラ母さんとエル父さん、僕だけがマーリンの祝福の事を今でも覚えている。


それからマーリンは順調に成長していき、とても自慢の弟になった。

弟はとても頭がいい。

僕の二倍以上のスピードで言葉や文字を覚えていく。

弟はとても周りが見えている。

人の雰囲気や感情の機微にとても敏感だ。

でも時々抜けている所がまた面白い。

弟はよく女の子に間違われるぐらい容姿が整っている。

シェーラ母さんに似ていて髪は銀の粉をまぶした様な白色。エル父さんとの見た目の共通点はほぼない。

そしてとても僕のことを慕ってくれている。

僕はそんな弟の期待に応えたくて今まで以上に勉強に力を入れた。


そんな風に過ごしていた今朝、マーリンの始めての剣の練習で僕はもっと頑張らなければいけないことに気がついたんだ。

エル父さんが何の仕事をしているかは僕も知らないけど普通の平民じゃないことはわかっている。

剣の腕は村の自警団の人たちとは比べものにならず、その知識の量は王都の教育施設を首席で卒業したシェーラ母さんと変わらない。

分野によっては圧倒するくらいだ。

そのかわり圧倒される分野もあるみたいだけど。


そんなエル父さんが三歳のマーリンに本腰を入れて、剣を使っていた。

数秒で終わったけど、マーリンは十分に戦えていた。

体ができていれば勝てていたかもしれないと思えるくらいに。

マーリンに特に強力なジョブやスキルがないからと、失望した眼差しでマーリンを見た人たちにこれがマーリンだと言いたくて仕方がなかった。

もちろんマーリンは祝福の事、村人たちの反応ことは何も知らない。

それにシェーラ母さんやエル父さんもそのことについては何も言わないから僕も言わないことにしている。

弟のマーリンの方が優れているのは、祝福とかを無しにしても理解はしているから。

でも僕はマーリンのお兄ちゃんなんだ。

そのお兄ちゃんの意地だけは譲りたくない。

だから僕はせめてマーリンが十二歳の祝福の儀を受けるまで、自慢の弟の自慢のお兄ちゃんでいたいんだ。

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