第9話僕はか弱い三歳児
数ヶ月後の今日、僕は三歳になっていた。
この世界の平民階級は季節の変わり目などを基準にして年を数えるらしい
ルート兄さんも六歳になっている。
そして現在は午前七時で快晴の空の下。
僕は春の朝の日差しを全身に浴びながら家の庭で黄昏ている
「エル父さん、何で空は青いのかな?」
「マーリンそれは、私がルートやマーリンの剣の練習が捗る様に、この天気の日を選んだからだ」
「違うよエル父さん。僕が聞いたのはね、今日に限って空が快晴である理由じゃないよ。根本的に空が青い理由だよ。」
「マーリン諦めた方が早いと思うよ、どんなに頑張ってもエル父さんは折れないからね」
ルート兄さんは僕を諭すように話しかけてくる。
そのルート兄さんは半袖で半ズボンの動きやすく破れにくそうな服装で、その上から簡素な皮防具を装備している。もちろん片手に木剣を装備。
僕も以下同文。木剣はまだ持っていないけどね。
エル父さんは防具はしていない。
僕が諦めたことをエル父さんは確認し
「では始めよう、まずはいつも通り数分走って体を温めるところから。
マーリンは初めてでペースがわからないだろうから私がマーリンの後ろについて走り、ペースを指示する。
ルートはいつも通り自分のペースで走るといい。」
それを合図にルート兄さんは慣れたように家の庭を走り始めた。
平民の家の庭と侮ることなかれ。シェーラ母さんは教育者、エル父さんがどんな仕事をしてるかは知らないけどいつも仕事帰りには大量にお金が詰まった袋を持って帰ってくる。
つまりこの家族はお金持ちだ。
しかも田舎で土地の価値が低く、両親は教育熱心。
結論から言って庭はかなり広い。
数人で運動するのには不自由しないくらいに広いんだ。
「さあマーリンも」
いつのまにか僕の後ろに回っていたエル父さんは静かにそう言った。動詞がないけどちゃんと走りなさいと言われたのは理解できる。
ここまで来て粘る方がめんどくさいので素直に走り出す事にした。
最初は様子見でトコトコ走っていたけど、エル父さんが徐々に後ろから圧力をかけてくる。
「無言でもっといける」と言われているのがよくわかり僕は少しだはペースを上げた。でもまだまだいけると圧力をかけられる。
そんなやりとりを数回やり現在は
「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ」
とちょうど体に負担がかかり過ぎず、長時間走れるペースで走らされている。
ちょっと休もうとしてペースを下げると後ろのエル父さんがつんつんと僕の背中を指で突いてきて
「あと少しだから頑張りなさい。その方が楽だ」
と言ってくるんだ。多分下手にペースを落とすよりこのままのペースで走りきった方が疲れないと言う意味だと思うんだけど辛いものは辛い。しかしそれを言っても仕方がないのでペースを維持することにした。
ちなみにではあるけど、多分魂?には、体を常に循環している魔力とは別に魔力が溜まっている。
スキルを使って調べたところ、魂は魔力を生産していてそこから体に魂を流しているんだけど、生産量の方が多いと魂の容量限界まで余剰分の魔力が溜まっていくようになっているっぽい。
その魔力を体の循環に注入していくと身体能力が上がることが実験してみてわかった。その分魔力が消費されるスピードが普通の循環で消費されるスピードよりもかなり早く、そしてコントロール難度もあがる。
だけど僕はなぜか魂の魔力生産量と蓄積量が多いので消費スピードが上がっても問題ない。
コントロールの方は全く問題なく、あの空間での練習の成果を感じたね。
だから少しだけ走っている時に魔力を回して身体能力を上げたら、後ろのエル父さんはすぐに僕に余裕ができたことに気づいてペースを上げさしてきた。
そのあと後ろからもっとあげれるんじゃないか?という疑いの眼差しが飛んでくるようになったけど、無言でこれが限界だよとアピールし続けた。
走り終わった後もエル父さんからの疑いの視線は晴れず、自分の行動の軽率さを恨んだ。
十数分走り終わった後少しの息を整えるために休憩が挟まれた。
「ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁ、スゥーー、ハァーー」
こちらにきてからはじめてのちゃんとしたランニングはかなり疲れる。
今は後ろからのプレッシャーから解放されて、地面に座る形でゆっくりと確実に呼吸を整えてる最中だ。
でも意外と体自体はあまり疲れておらず、多分今の疲労は気分的な疲れだと思う。
そこにルート兄さんが優しく声をかけてきた
「大丈夫マーリン?、はじめてで疲れたでしょ。
エル父さんも多分いつもより多く休憩時間を取ってくれると思うからしっかり呼吸を整えてね。」
ルート兄さんは少しも息が上がっておらずちょうどいいくらいに体が温まっている様子だ 。
「ルート兄さんはすごいね。
あんなに早く走ってたのに全然疲れてないや。
僕はもう限界、あとは見学にして欲しいくらいだよ」
ルート兄さんは僕の前に歩いてくると水筒を僕に渡しながら
「マーリンもすぐになれるよ。エル父さんはしっかりとペース配分をしてくれるからね。
むしろマーリンはすごいよ
僕の三歳の頃よりマーリンのペースの方がかなり早いんだから。
それに言うほど疲れてはいなさそうだしね。」
ルート兄さんの表情と声には純粋な賞賛しか感じない。
ルート兄さんは外見がエル父さん似で、中身はシェーラ母さんに似ている。
逆に僕は外見がシェーラ母さん似で、中身はエル父さん似と家族から言われてる。
ルート兄さんは僕の呼吸が整ったのを確認すると手を差し出してきた。
「じゃあ、もう少し一緒に頑張ろうねマーリン」
ルート兄さんの純粋さに逆らう気にも慣れず素直にその手を取ることにした。
「うん、もう少し頑張るよルート兄さん」
そして木剣に巻いている緩衝材がわりの布を確認しているエル父さんのところに一緒に歩いて向かった。
エル父さんは近づいてくる僕たちに気がつくと確認作業を終了させて、僕たちの呼吸がちゃんと整っているかを確認してくる。
そして整っていることを確認してから僕の持っている水筒と交換するようにして僕に木剣を渡してきた。
木剣は僕の体に合う長さと重さに調整されているようだ。
ちなみにルート兄さんは腰ずっと木剣をさしていたのでそれを抜いて、具合を確かめている。
エル父さんは僕に木剣を渡すと僕を見て
「今日は私が確認はしたが、次回からは自分で予め点検しておき、持ってくるようにしなさい」
「了解エル父さん」
エル父さんは僕の返事を聞いて
「ではルートは今まで通り素振りをしてから型の確認をし、そのあと私との打ち合いをする。
マーリンには剣の持ち方構え方を教える。そのあとは素振りをすること。わかったか?」
「「わかった」」
ルート兄さんとある程度距離をとってからエル父さんは僕に指示を出してきた。
「マーリン 剣を持ってみてくれ」
自分なりに剣を持ってということだろう。
そういえば剣(木剣)を握るのは初めてだ。あそこじゃ素手で練習してたからちょっと新鮮な気分だ。
あの練習は本当に意味があったのかな?未だに謎である。
とりあえず木剣の柄を両手で挟む様な形で待ち、両手の平を互いに上下にずらすようにずらして握り、一回軽く振るう。その後手の上下を反対にしてもう一度振る。
一応あの空間で自身の動きの違和感を探す作業には慣れているのでスキルを使わなくてもこれくらいはできる様になった。
振り易かった方でもう一度軽く振って感覚を再確認しエル父さんの方は見る。
するとエル父さんはうんと頷いてから短く
「構えて」
と指示を出してきた。
握り方はこれでいいって事だろうなと考えながら、素手で練習していた時と同じ位置くらいに剣を持ち上げて、違和感が無い位置に微調整をする。
「振ってみてくれ」
構え方もこれでいいのだろう
木剣をあの白い空間で練習してた時と同じ様に額の上くらいに持ち上げてから微調整をして軽く振る。違和感があればまた調整を繰り返し、納得してからもう一度エル父さんを見た。
「マーリンは自分で練習をしてたのか?
少し不自然さがあるもののほぼ完璧と言って間違いないくらい動きが完成されている。」
僕は内心どきりとしたが、表情には出さず
「ううん練習はしてないよ。エル父さんとルート兄さんの練習を参考にしてイメージトレーニングだけはずっとやってたんだ」
八割嘘、二割真実で言い訳をしてみた。
少し、いや大分苦しいかとエル父さんの様子を伺うと、思った通りエル父さんは納得しきれてない顔で僕を見ていた。
そして何を思ったか側に置いてあった木剣を掴み取ると、いきなりそれを僕に向かって振ら下ろした。
「えっ!!うそ!待ってよ!」
僕は少し反応が遅れたものの持っていた木剣を思いっきり持ち上げて受け止める形を作り、木剣同士がぶつかる一瞬前に剣先を立てて、振り下ろされているエル父さんの木剣の動きに合わせて思いっきりぶつけるような形で斜め左下めがけて振りきった。
体をその動作に合わせて右に移動させ、ギリギリエル父さん木剣の軌道を逸らすことに成功したが、それでも木剣は僕の体すれすれを通過して地面に激突している。
三歳児の力で成人男性の剣の軌道を逸らすのには、ただ剣の腹を横から叩くだけじゃ逸らせないと考えて危険な賭けに出て正解だったね。
とはいえ手と腕は痺れてもう思うようには動かない。
エル父さんの木剣も布が幾重にも巻かれているので死ぬことはなかった思うけど、失敗してたら確実に骨が折れてた。
しかしそれだけでは終わらず、エル父さんは木剣の軌道を僕に逸らされたと判断するや、すぐさま次々に攻撃を繰り出してくる。
それらを体捌きだけで避けようと頑張ってみたはいいものの、フェイントをうまく使ってくるエル父さんに僕は次第に追い詰められていき、最終的には僕が木剣で対処しなければいけない状況にされた。
僕が木剣を持てなくなったところでエル父さんは動きを止める。
エル父さんは何かを納得したように頷くと地面にへたり込んでる僕の頭を撫でて
「すまない、どうしてもマーリンの剣の腕を確かめてみたくなった。 今日はもう見学をしながら休んでいなさい」
「はぁはぁ……そ そうなんだ 。もう少し手加減してほしかったかな」
「初撃を綺麗に逸らかれて少しムキになったんだ。許してくれ」
「それでどうだったの僕の腕は」
「その年では考えられない程の腕をしてる。
剣の技能のみで評価するならほぼ間違いなく達人の域に達してにいるが、私の知る様な天才の才能とはまた違うとも感じた。
ただ対人経験と実際を剣を持って動く経験が全くないようにも感じたことから、不自然なことではあるが、イメージのみでのトレーニングと考えればありえるかもしれないとも思う」
「はは……信じてもらえたようで何よりだよ」
「ああ信じよう。ではゆっくり休んでいなさい」
そう言い残しエル父さんは型の確認をしているルート兄さんのところに向かっていく。
「はぁ、本当に何者なのかなエル父さんは、もう将軍とかでも驚かないよ僕は」
そんなことを考えているとエル父さんとルート兄さんの打ち合いが始まっていた。
それはさっきみたいな激しい攻防ではなくて、剣での受け答えの確認のような攻防で、エル父さんがルート兄さんをリードする形で進んでいく。
エル父さんが数度打ち込んではルート兄さんが防いでいっている。
さっきの連撃もルート兄さんが正しく対処できなければ受け止めきれない攻撃だった。
エル父さんは何回かに一度はルート兄さんが反撃できる隙をわざと作っている。「(動きが自然か不自然かはわかるから、不自然と思ったら意図を考えらようにしている)」
そこをちゃんと反撃できるかもエル父さんは確認しているみたいだった。
ちなみに僕との攻防では動きに不自然なところはなく、どうしても隙ができる時は僕よりも圧倒的なフィジカルでカバーして反撃はもちろん立て直す隙も与えてくれなかったよ。
そんなやりとりを数回続けたところでルート兄さんがミスをして打ち合いは終わり、反省会をして朝の練習「(もうこれは鍛錬の領域だ)」が終了した。
そのあとは水道
(村々で個別の水道網があるらしい。仕組みは管をそれぞれの家と地下に作り、地下水を吸い上げる魔道具を置いておくだけ。燃料の魔力は使用者が注ぐ仕組みで大抵の家は水が出てくるところに浄化の魔道具もつけているので水は清潔。
これらの魔道具は昔から改良が進んでおりかなり低価格で手に入るようになっている。この二つ以外の魔道具は比較的かなり高い))
から水はを出して桶にためてから体の汗を流していく。
朝にこれをするのは結構きつい。
でも汗臭いままで家に上がるのはどうかと思うので男三人仲良く体を拭いていく。
エル父さんはかなり体が引き締まっていて、無表情で体を拭いている。
ルート兄さんは痩せているようにも見えるが筋肉がしっかりと体に付いていて、冷たさを堪えるようにして体を拭いていた。
僕はといえば筋肉もほとんどないお子様ボディーです。
だって三歳児だからね僕は、ちなみにガクブルな状態で体を拭いています。春の朝はまだ寒いね。
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