第6話お別れ

ぼくは魔理がいるはずの空間に飛んで叫んだ。


「はぁはぁ………、魔理ーーー!!!魔理ーー!!!

大丈夫かーーーい!!!今迎えにきたよーー!!!」


あたりを見回しながら必死に叫んぶ。

でも返事は返ってこないし、この空間から魔理の気配を全然感じられない。神様のぼくが感じられないってことは………


「魔理ーーーーーーーー!!!!魔理ーーーー!!!

頼むから返事をしておくれよーーーーーーー!!!」


悪い結果の想像ばかりしてしまい、どんどん涙が流れてくる


「マリーーー!!!!!ヒッグ…マ まリーーーーーーーーーー!!!!」


「隙あり!!!」


パッコン!


「あいた!! ってえええあえええなになに!?

って…魔理ってあえええええ!???」


頭に衝撃を受けて振り返るとそこにはしてやったりという顔の魔理がいて、満面の笑みで話しかけてきた。


「やあ、久しぶり神くん!!

いきなり空間が歪んだと思ったら神くんが現れて大声で叫び出すから驚いたよ!!

僕まだ呼んでないのに来てどうしたの??そんなに僕に会いたかった?

それはそれで嬉しいけどね!!」


ぼくはパニックになりながら


「あええと、どうやって現れたの魔理。いきなり現れてびっくりしたよ。ってそうじゃなくて無事かい魔理!」


「うん大丈夫だよ それより聞いてよ!

やっとまともに⦅スキル》と⦅ジョブ》を使いこなせる様になったんだ!!!!

最初はどうしたらいいか途方にくれたけどね!!

この天才。そう僕こと!飛紙魔理にかかればこんな問題なんのそのってね!」


魔理は最後に会った時よりテンション高めで喋りかけてくる。

久しぶりに人と話す人によくあるあれかなとも思ったけど、それにしてもテンションが高過ぎる様に感じる。

ちょっとだけ様子おかしいと思い。


「魔理ちょっとごめんね」

バチン!


思いっきり額めがけて、死なない程度に加減しながらデコピンを食らわした。

魔理はいきなりのぼくの行動に反応が遅れて僕のデコピンを避けきれず直撃して気絶する。

ぼくは魔理が倒れる前に魔理の体を支えてゆっくりと地面に寝かして、


「信じられないよまったく。

あまりに膨大な時間の中で一応精神は無事なこともそうだけど、ぼくのデコピンに反応しただけじゃなくて避けようとするとはね。想定されてれば避けられてたかもしれない反応速度と行動の速さだったよ。」


ぼくは魔理の魂と精神の状態を確かめながらそう呟いた。


「まぁでも、ぼくが戦うつもりでやったらまだイチコロだけどね〜!。

とっ!!いけないいけない、口は災いの元って人の間では言うからね。

何がきっかけになるかわからないからね、あの子の場合。というかあの子は本当に人じゃないね!!

もう半分くらい神の領域に足突っ込んでるよ!!

本気の神様二人に対して戦いを成立させるとか本っ当に異常だよ!!!!」



ぼくは昔のトラウマをあーだこーだ言いながら魔理の精神と魂を調べ終わった。


「精神の方は過度のストレスと痛み 、魔力の細密操作による摩耗に、何だろうこれ?精神を空間に溶かして元に戻すを繰り返した様な跡があるね。

なにをやってるのかな魔理は??

あとは感覚を拡散しすぎたことによる異常なくらい速いスピードでの感覚器官の擦り減らしぐらいかな。

このせいで時間の感覚が麻痺し、ストレスを感じる感覚が動かなくなったのかな?

まぁそのおかげで決定的な傷が魂に出来ずに済んだことを思えば不幸中の幸いだね。

予想した以上に危ない事をしてたんだね魔理は、ここにいるのが本当に奇跡さ」


神くんは納得した様に呟いてから、


「でもテンションが異様に高くなっている魔理は面白かったね。……ぷふくふふ、後でからかおう」


ひとしきり笑ってから


「魂の方はまだ常識の範囲かな〜〜

え〜っと、魂がかなり鍛えられてるね〜〜

多分魔力操作、それも集中と放出の練習をしたのかな?

肉体がない魂の状態でやったら、肉体がある場合とは比べものにならない速度で魔力が流れ出すから危険なのに、実際かなりの回数魔力回路が破れてるね。

傷跡で酷いことになってるよ。傷跡も消して歪んでる所とかも直しておこうかな。

肉体があっても死んじゃうかもしれない事なんだけどね、知らなかったとはいえとんでもない事をするよ。

⦅魔力眼》や⦅鑑定眼》選んだ子達でも普通今まで魔力というものに触れてきてないから、身体や魂はどう魔力を認識していいかわからなくて当分は魔力を認識できるはずがないんだけどねー。」


神くんは眠っている魔理の頭を撫でながら


「まさかぼくとのおしゃべりがこんなところで光る事になるとはね、予想外だったよ。

魂は魔力を生産する器官でもあり、無意識のうちから魂は魔力で自身を覆ってるのさ。

だから肉体を離れてからも形を維持できる。

ぼくが君たちの声を聞けたのは、精神とともに魂がゆれて、空気に含まれている微小の魔力が振動し、それを音として聞いていたからさ。


君は気づかないうちに魔力を操る練習をぼくとしてたってことだね。

その事に気付いて感覚と理論で魔力を認識するにいたったのかな??

どちらかだけだとこの空間に流れる微弱な魔力と魂を覆ってる薄い魔力をコントロールできるほどに認識できるとは思えないからね。

あちらの世界は魔力がかなり濃くあるから生活してるだけで認識できるようになるんだけさ。

色々と繋がりにつながって今に至るというわけだね。ここまでくると偶然じゃなくて必然の域だよ。」


全ての作業を終えてから一息ついく。


「……魔理はそろそろ目覚めるだろうね。

そしたらお別れだね。

嬉しいのやら寂しいのやら。

ぼくにこんな思いをさせたのは君がはじめてさ」


ぼくは独り言のつもりでそんな事を言っていた。









僕が目覚めた同時に聞こえたその言葉に


「それはいいことをしたね僕は」


と返した。

神くんは僕が目を覚ました事を確認すると


「うん!魔理のおかげでいっぱい思い出ができたよ!」


明るく元気な笑顔でそう言ってきた。

久しぶりに見る神くんの笑顔にほっこりとしながら


「僕の方こそありがと、さっきまでの違和感も消えて心の方も落ち着いたよ。神くんがしてくれたんでしょ?」


神くんは呆れた様に


「本当に魔理は何をやってるんだい?

消えてないのが不思議なくらいの事をこれでもかってくらいやってさ!」


僕は心の底から出てくる笑いを堪えたりせずにそのまま吐き出す。


「あはははは、やっぱり僕がやってた事ってちょっと危なかったかなって途中で薄々そう思ったんだけどさ、神くん驚かしたくてがんばってみたんだよ。

でさ!僕の不意打ち驚いた?」


神くんは思い出した様に


「そりゃ驚いたさ!

この空間に来てすぐにこの空間の気配をさぐったんだよ。それに反応しなかったから、魔理消えちゃったんだと思って慌ててたら後ろからの不意討ちだよ!?

心臓が止まるかと思ったね!!。」


神くんのその反応が嬉しくて


「ははは良かった、⦅把握》と⦅同調》とよくわからない何かの合わせ技でね空間に同調したんだ!

姿は消せないけど気配は消せるんだよ!」

「そのよくわからないのは魔力だよ。

やっぱり何かはよくわかってなかったんだね魔理は」


「ははは、やっぱりあれが魔力だったんだ。そうかもとは思ってたんだけどね、確信がなかったんだよ。

最初に魔力を認識できたのはたまたまで、そこから完全に認識できるまでは苦労したよ。そしたら神くんと遊んだ時のことを思い出してね、それでどうにかコントロールできるようになったんだ」

「あーやっぱりぼくで遊んでたんだね!

神様で遊ぶとか普通許されないからね〜〜本当」


「だって神くんすごくいい反応するから、ついついやっちゃたんだよね。はははははは」

「笑い事じゃないからね本当に、須佐之男命とかなら一瞬で消されてるんだよ」


「それはわかってるんだけどね神くん本当に面白いんだよ」

「それを言うなら魔理のさっきのハイテンションぶりも最っ高に面白かったさ!

なんだったかな確か

「(この天才、そう僕こと!飛紙魔理にかかればこんな問題なんのそのってね!)」

だったかい?面白かったからあの時みたいな感じでもう一回言ってみてよ!」


「テンション高過ぎだろ僕!なんて恥ずかしい事を言ってるんだよ。しかも神くんに聞かれてるとかとんだ羞恥プレイだ」


そこからは互いに相手の面白かったところの言い合いになり、それが落ち着くと僕と神くんは他愛もない話をした。

お互いに話を途切れさせないようにこの時間が少しでも長く続くようにして。








それから何時間経ったかはわからないくらい喋り続けたけど、それでもやっぱり終わりは来るもので、互いに話し尽くし楽しい時間が終わった。


「……………,。」

「………………。」


沈黙を破ったのは僕の方からだった


「じゃあそろそろいってくるよ」

「そうだね…。うん。そろそろ行かないとあっちの神様が困っちゃうね。もうすでに困らせちゃってるんだけどさ、魔理は他の子達の一年くらい後に転生することになると思うよ。」


「あれ?確かある程度の時間なら問題ないんじゃなかったっけ?」

「そうさ、あ・る・て・い・ど・ならね!

魔理の場合はそんな言葉の範疇じゃ収まらないのさ!

時間感覚があやふやなぼくたち神様が長いなーって思うくらいだよ!!いくらなんでも長すぎさ!!!」


「あははははは….、そんなにここにいたんだ僕…」

「まぁ魔理が無事だったしもういいのさ、終わった事だしね。

あっちの神様にはもう事情説明の手紙は送っておいたから大丈夫だよ。

僕とかなり交流がある神様でね、よろしく言っておいたよ。

……………………………最後に聞いておきたいことはないかい?」


神くんは複雑そうな表情で聞いてきた


「ううんないよ。神くんが何を考えているかはわかるけどさ、気にすることじゃないよ。

友達である条件はね、何も隠し事をしない関係とかじゃないと僕は思うんだ。」


僕は神くんにゆるく握った拳を突き出して


「互いに気を使うことなく楽しい時間を一緒に作っていける関係が友達だと思うんだよね」


神くんは「はははははは」と高らかにスッキリしたように笑い、僕より小さな拳を僕の拳に付き合わせて


「そうだね 魔理の言うとおりさ!

あははははははははは、本当に魔理の言う通りだよ!」


神くんはそう明るく言い切り


「これから君をあちらの神様のところに送るよ!

そこで君はどんな人たちの元に転生するか決めることになると思う。

あちらの神様の言うことにちゃんと素直に従うんだよ。

わかったかい?」

「わかりました!神くん先生!」


「オッケー!では君の人生が面白いものであることを!ぼくは君をここから祝福しながら見守っているよ!」

「じゃあね神くん、また会えたらまた会おうね」

「うん、また会えたらまた会おうね魔理……」







そして正真正銘の最後の魂がここから消えた。

別にはじめてのことじゃない。

何回も繰り返してきたことさ。

それでも特別なひと時だった。


「ふふふあはははははははは、こんなに長く誰かと話したのは初めてだったよ」


ぼくはもうここにはいない、はじめての人の友達に向かって叫ぶ。


「ぼくにはこれから君がどう生きていくかはわからないけどね。

それでもわかることがあるよ!

君の人生は面白い!!!」

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