第4話 ドナドナ 2020/12/04
僕は、教室に向かう廊下を歩いていた。
僕の足音の後ろから、副委員長の軽い足音がついて来る。
僕の予感は当たって、やっぱりトラブルだった。
僕と一緒に草むしりをするはずだった3人の男子が、教室に居座って、掃除の邪魔をしているらしい。
僕が歩く廊下の左側は、グランドに面した窓で、下を見るとクラスメイトが、花壇の手入れをしている。 …いいなぁ。
廊下の右側は、同学年の教室が並んでいて、仲良さそげな賑やかな話し声や、掃除のために机や椅子を動かす音がしている。
…いいなぁ。
ささやかな現実逃避をしていると、副委員長が声を掛けてきた。
「委員長って逃げないよね〜」
「エッ?、逃げて良いの?」
いけない。素が出てしまった。
「ダメ〜、けどゴメンね。巻き込んじゃって。1人じゃ、どうにもならなくて。先生も見つからないし」 副委員長は、困ったようにニコッと笑った。
笑顔があざとい…。いや、眩しいです。
「…今、なんか良くないこと考えたでしょ」
怖っ。どうして急に眼光が鋭くなったの? 危うく命を落とすところだった。
人の心が読めるの? …恐ろしい娘…。
とりあえず、話を戻そう。
「どうしてそう思うの?」
「だって、委員長になる前に風邪でお休みして学校に出てきたら、委員長になってたでしょ? あの時も、普通だったし。普通、嫌がったり、なんか文句言うじゃない?」
「あぁ、あのときね…。けど、あの段階じゃどうしようもないし」
皆、全員役割決まっていて、僕が代わってって頼んでも、委員長なんて誰もやりたくないと思うし。
本当は人前で話すの本当に苦手だけど、皆の前に立つと地味に足震えちゃったりするんだけど、本当はそこら辺の道端に転がっている石みたいに目立ちたくないけど。
僕は、大きく深呼吸をすると、言った。
「本当は、今ももの凄く嫌なんだ。何で、僕が注意しに行かなきゃいけないのかなとか。もう、さっきから、頭の中をドナドナの歌がぐるぐるしてる。あ~る晴れたひ~る下がり~」
副委員長が、クスっと笑ってくれて良かった。
「けど、それでも」と僕は言った。
「どうせやらなきゃいけないなら、先に延ばすより、今が良い」
すると、要らんオジイが割り込んできた。
「良く言った。さすが、儂の孫だな。やはり、獅子の子は、狼だな」
もう、突っ込んでやんない。
「我が一族は、武士(もののふ)の末裔。かつての戦の時代には、いつも先陣の一番槍だった。イチにも、武士(もののふ)の血が引き継がれているとみえる」
「ウチのご先祖様、お百姓さんだよね! 菊っちゃん、お菓子屋さんだよね!
そもそも僕、さっきから情けないことしか言ってないよね! 今の文脈で、喧嘩弱いの判るよね!」
僕は、ゼイゼイと息を吐きながら、菊っちゃんに訴える。
「それにさぁ、菊っちゃん、少し不思議な存在なんだからさぁ! ここは便利な道具を出す場面じゃないの! チャラららっらぁら~んとか言ってさぁ」
「ワシは、そんなネコ型ロボットみたいなことはせん!」
「ダメじゃん、役に立たないじゃん! 不思議要素ゼロじゃん!」
「獅子は、谷底に子供を蹴落とす」
「谷底に蹴落としたら死ぬから。それから獅子の子供は狼じゃないから! 狼は他所の家の子だから! 地味に疑いがわくから!」
「貴様に、物凄い良く効く呪文を教えてやろう。そして、喧嘩の仕方を教えてやる」
「僕の言ってることガン無視したね。それに言ってること、もう悪徳商法の語りになってるから。それに、今からじゃ喧嘩の仕方教えてもらっても間に合わないから!」
「要るのか要らんのか?、ワシはどっちでも良いぞ」
僕は、自分が置かれている状況に思いを馳せる。
「… … …」
乗るしかない、悪徳商法に。
賭けるしかない、怪しい呪文に。
「よろしく…お願いします」
僕は、我に返った。周りを見回す。
あぁ、うっかり興奮してしまった。周りに人が居なくて良かったよ~。
うっかり、うっかり。
「えっと、委員長、さっきから誰と話しているの?」
僕の後ろから声がかけられた。
修正 2020/12/05
修正 2021/02/17
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