第9話 5人岩
<安楽死号>が、闇の中をガタガタとヘッドライトを点灯して坂を登っていた。古ぼけた車体は、キャビンの中まで様々な異音を立てていた。大きな岩を車輪が乗り上げるたびに、車体が捻じれてギシッと音を立てて、乗り越えた後にギシッと音を立てて戻った。
<安楽死号>は、小惑星<ムサシ>表面に穿つ直径15キロのクレーターを内側から登っていた。クレーターの中央には、<ガンシティ>の母体である、旧<ファルコン号>が鎮座していた。クレーターの壁の高さは約500メートルあり、その内側をくねくねと曲がりながら道が続いていた。その<天国への階段>と呼ばれている坂は、<ファルコン号>から小惑星の外殻であるムア(荒野)へ出る唯一の道だった。
「それにしても、僕は驚いたよ」 サンディは興奮丸出しで叫んだ。
彼はキャビンの中、運転席から後ろを振り向いて、教え子のピーターとアンに話しかけた。キャビンの中は酸素で満たされており「気密」だった。だから、サンディは、ヘルメットは被らず…ソフトシェル(船外服)こそ着て船外グローブも付けていたが…、盛大に唾を飛ばしながら生徒2人に話しかけた。
「やっぱり、現地現物現物だよ。僕が<ムサシ>に来る判断は正解だった。だって、あれだよ。英雄ショーマの兄妹が、君たちのお爺さんなんだよ! こんなの誰も知らない!」
すると、<安楽死号>のコンソールのスピーカーから
「そこの能天気兄ちゃんに言いな、ちゃんと前見て操縦しないと、崖から落ちて死ぬぞ」と、ジェイクが通信してきた。
、スティーブンのローバー(探索車)に乗って、<安楽死号>の後ろを付いてきていた。
「良いから、先生前見ようよ。前」 とピーターは教師を諭した。
ピーターとアンは、ヘルメットを被り、船外グルーブもキッチリ付けて、ソフトシェル(船外服)を「気密」状態で着ていた。それは彼らの母親のローラが<安楽死号>を一目見て、「この棺桶に乗るつもりなら、気密で行きな」と言ったからだった。
アンは、サンディが大声で喋ることで飛んできた唾がヘルメットに付着すると、嫌そうに指でなびって、<安楽死号>のシートに指を擦り付けた。
「ロマンだよ」とサンディは、前に向き直って言った。
<安楽死号>は、<天国への階段>の坂を登りきると、クレーターの尾根に出た。尾根のてっぺんには道標が立っていた。左に向かう道には、ゴロゴロとした巨大な岩を縫うように道が続いており、<5人岩>の表記があった。
出発前にローラが<安楽死号>を見たときに、ローラは片方の眉をピクリと持ち上げて、まだ青年の教師に声をかけた。
「先生、その棺桶(探索車)で行くつもりで?」
サンディは、良い男だったから、もう明確にバカにされても気分を害さなかった。
「えぇ、ちょっとグズで言うことを聞かないこともあるんですけど。付きあってみると可愛いヤツでして」 言い笑顔で答えた。
それからローラは、スティーブンが出かけようとしていたところを捕まえた。彼は、彼女とローバーに乗って、ウキウキとよろしくデートに行こうとしていたところだった。
そして、結局のところ、<安楽死号>は、スティーブンのローバーと一緒に、<天国への階段>から<5人岩>までのつづれ織りを乗り越えるまで、一緒に行くことになったという訳だった。
作者の神沢です。
書きかけのものがあったのでアップしました。
本作、改めて別作品として投稿致しています。
設定を詰めていたら、別作品となってしまいました。
タイトルは、「スペースオペラ・デイビス一家【シナリオ】」です。
よろしくお願いします。
ガンシティ 神沢 篤毅 @kaminami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ガンシティの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます