第4話 ムサシ公立第一高校 終業式 帰り道 2020/11/21
ピーターとアンは、ムサシ公立第一高校の1学期終業式が終わった後、<新市街>を歩いていた。身長170cmのピーターのひょろっとした姿のとなりに、二つ縛りのアンが寄り添うように歩いている。2人は揃いのジャケットに、アンはチェック柄のスカート、ピーターは同じ柄のズボンを着ている。学校指定のボストンバッグを肩に背負って、手に持ったソフトクリームを舐めながら歩いていた。
天気の設定は初夏の晴れで、日差しが強くて、気温がそれほどでもない、ちょうど良い天気だった。丁度、クチナシの花が咲き始めた頃で、緩やかな風が良い香りを運んできた。
2人が歩いている商店街は、アーケードになっていて、道行く両側に、八百屋、魚屋、肉屋、年配向けの服屋、金物屋、事務用品屋、本屋などが並んでいる。丁度夕食の買い出しの時間だから、マイバッグを下げたお客が結構出ていて賑わっている。
肉屋の前で客の呼び込みをしているおばさんが、2人に声をかけた。
「ピーターとアンじゃないか。しばらくぶりだね。終業式の帰りかい?」
「「こんちわ~」」
肉屋のおばさんは、若い2人を少し眩しそうに見ながら、微笑みかける。
「お腹減ってんだろ、これ持ってお行き」
「「おばさん、ありがと~!」」
2人は、揚げたてのコロッケを1つずつもらうと、歩き出す。
ピーターが、コロッケを齧る。外がカリッとしていて、中がふんわりと柔らかい。
「うまッ!」
ピーターが、後ろを振り返って手を振って肉屋のおばさんに叫ぶ。
「おばちゃん、やっぱうまいわ~。俺の中では一番よ、このコロッケ」
「当たり前だろ、誰が作ってると思ってるんだい!」
肉屋のおばさんは、ニコニコしながら手を振り返してくる。
商店街を歩く客から笑い声がもれる。
「どれ、そんなに美味しいなら買ってみようか」
商店街の客が、肉屋の前に集まりだす。
「揚げ物とソフトクリーム一緒に食べたら、お腹壊すよ」
アンが、ピーターをジト目で見ながら、注意する。
「けど、この組み合わせがうまい。やめられないんよ」
ピーターは、うんうんと頷きながら、ソフトクリームを舐める」
「小さな頃から、何回やっても懲りないんだから、もう!」
アンが、頬っぺたを膨らます。
ピーターが午前中の終業式の話題を振った。
「それにしても、先生って生き物は、長話しないと死んじゃうのかも知れんな」
アンは、みえみえの話題転換に軽くため息をつきながら応じる。
「マグロみたいに、泳いでないと死んじゃうみたいな?」
「そうそう、そんな感じ」
第一高校の在籍生は、1年から3年で217人居る。終業式は体育館で行われ、生徒と先生達の熱で、汗ばむほど暑かった。
生徒は立ちっぱなしで話を聞かされ、貧血で倒れる女子生徒もいた。
人工重力の無駄遣い、ここに極まりといった感じだった。
校長先生は難しい表情を浮かべながら、嬉々として何処かで聞いたような長話をした。その後、夏休みのスケジュールが説明されて、その後、生活指導課の先生が長々としゃべり、とどめで今日の今後の予定が説明された。
やっとのことで教室に戻った先生と生徒は、共にぐったりしているという、誰も幸せになれない光景が、今年も繰り返されたのだった。
「けど、結果として補習も避けられたし予定どおりだ」
「…そうだね」
アンが浮かない表情をする。
「ポジティブ、ポジティブ。補習するよりマシやろ?」
ピーターは、手にもっていたアイスをアンに差し出すと、アンはペロリとソフトクリームを舐めた。
「バニラも美味しいね」
「そうだろ、ミックス食べてるようじゃ、まだお子ちゃまっすよ」
ピーターがニヤニヤしながら、アンに喧嘩を売った。
「なにそれ、全然わからない。全世界のミックス愛好家に謝れ!」
アンは、ピーターの喧嘩を買って大声で文句を言いながら、ミックスのソフトクリームを、ピーターに差し出した。
ピーターが、ソフトクリームをペロリと舐めた。
「ごめん。うまいっす。チョコとバニラのハーモニーが堪らないっす」
「でしょ~!」
2人は顔を見合わせて、声を出して笑った。
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