出汁
さあ前回予告した通り、今日は出汁の話をしてやるよ。なんだって?嫌でも聞いてもらうぞ。
疫病の流行で店を閉めてる間も
だいたい休業中に賄い飯だけ食いに来るとは、お前は図太い奴だな。
聞いてやるから先に賄い飯を出せ?良いとも、今日の賄い飯はなんと!関東風の鋤焼きだ。
うちの店は関西風の鋤焼き屋じゃないかって?出汁のことを考えていたら関東風の割り下の鋤焼きもやってみたくなったんだ。
俺の作った割り下は醤油、砂糖、味醂、日本酒を混ぜただけじゃないぞ。しっかり味わって感想を聞かせてくれ。
肉は急な休業で冷凍しといた肉だが、冷凍焼けをしたから客に出すわけにいかなくなった。店の再開前に消費してしまうぞ。
残った冷凍肉持って帰っていいですか?その分給料からさっ引くぞ。あ?パワハラだ?やりにくい世の中になっちまったなあ。まあいいや、半分持って帰ってくれ。
熱くなった鋤鍋に牛脂で油を引き、ネギと肉を置く。そこに割り下を注ぐとジウジウグツグツと音がする。音も食欲を刺激する重要な要素だ。
さあ出汁の話をするぞ。
出汁って言うのは、
お前は家で蟹を食べることはあるかい?ほう、年に2回か、盆と正月だな。
蟹を食べた後に殻が残るだろ。家族で食べたら結構な量だ。
あれをアルミホイルで包んで魚焼きのグリルで焼いてみろ。少し焦げて香ばしい匂いがしたら火傷に気を付けて取り出すんだ。
そして予め昆布の出汁を取った鍋に放り込んで煮込めばちょっとした蟹風味の出汁が取れる。
これで例えばラーメンスープを作るとしよう。残念ながらこれ単体では薄いから魚のアラで取った出汁と混ぜると良い塩梅だ。
その魚のアラだが、スーパーでたまに見かけるだろう?鯛のアラとか鰤のアラとか。あれでアラ炊きを作る前に出汁を取っておくんだ。
ほっけも良いぞ。頭と皮が残るだろ?あれを煮込んだ出汁はかなり濃厚だ。
さっきの蟹風味の出汁と混ぜてラーメンスープを作るとなかなか美味い。浅利を少し入れると更に良しだ。
麺類で言うと蕎麦つゆだな。市販のめんつゆでも良いが、そのままだと日本中どこでも同じ味になってしまう。そこで鰹節を入れて煮込んでみろ、濃くなって味が深くなる。鶏皮を少し入れて煮込むと更に良しだ。入れすぎると脂っこくなるから気を付けろ。
なんだって?そんなに出汁を語っているが、この鋤焼きは市販品を使ってるだろって?
よく分かったな。そうとも、市販の割り下に砂糖、味醂、日本酒をきっちり計量して加えてオリジナリティを出してある。わざわざ最初から作ってられるか。あ?料理人失格だと?
なに言ってんだ、店で出すんだから安定した味を毎日簡単に作れないといけない。家庭料理とわけが違うんだ。もうグルメサイトに関東風鋤焼きも載せちまったからな、このまま始めるぞ。
予約の電話が入ったら関西風か関東風か確認してくれ。
お、さっそく電話がかかってきたぞ。予約なら受けてくれよ。
ひと組目は関西風だな。
次のひと組は関東風はあるか聞いてるって?あると言っとけ。
うん?牛脂はどんなやつかだと?溶けて無くなるようないい加減なやつじゃねえと言っとけ!
ま、割り下は既製品だがな、ってそれは伝えなくて良いぞ。
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