レシピ
「まずはスマホでレシピを検索して、材料も分量もその通りに作るわ」
彼女は料理を作る過程を話し始めた。
「そして美味しいって言ってくれたレシピの味付けはあなたの好みの味なわけだから、その投稿者の他のレシピも試すの」
確かに、味付けというのは同じ人が作る料理なら基本の部分は同じだろう。
「でもね、どんなに美味しいものが出来上がっても、それは私の味じゃ無いの。そのレシピの投稿者さんの味になるのよ」
「確かにそうだね」
例えばもっと広範囲な話をすると、めんつゆや出汁醤油、これはストレートタイプをそのまま使っても、濃縮タイプを書かれている配分通りに薄めて使っても、どこの家庭でも同じ味付けになってしまう。自分の味では無い。
日本中の家庭の味が同じになって良いわけがない。
「そしてだいたいの味加減がわかったら他の人のレシピを、あなた好みの味付けにアレンジして作ってるのよ」
それは嬉しい話だ。有り難い、うん、実に有り難いと思う。
でも感謝の気持ちは持つとしても、それは難しいことだ。現に彼女の料理は味が不安定で、まだまだ明らかに僕の好みの味付けではないなと思うこともある。今日の晩飯もそうだ。今食べているのは少し醤油辛い。
せっかく作ってくれた料理に文句を言う、これは夫婦円満の対局にある行動だ。でも例えば、もう少し醤油控え目が良いよと言うことで彼女の料理がより良くなるならば、向上心を刺激するためにも敢えて言うべきだろう。向上心を無くすと何事も上達しないから。
「アレンジするときは、ちゃんと味見してるの?」
恐る恐る聞いてみた。
「もちろんよ!だからあなた好みの味付けになってるでしょ?」
味覚には個人差があるから、彼女には僕の好みの味付けになっていると思えるんだろう。だとするとうまく指摘するのは難しいかも知れない。先ずは料理に慣れることを優先してもらうほうが良いかも知れない。
「先ずはあれこれと手を加えるよりも、あの投稿者さんのレシピを使って、その通りの料理のほうが美味しいと思うんだけど…」
暫し沈黙が流れた。僕は言い方を間違えたのかも知れない。
すると彼女は僕の前にある食べかけの料理がまだ残っている食器を取り上げて、全てキッチンに下げてから言った。
「そんなにあの投稿者さんの味が良いんだったら、そこの家の子になりなさい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます