第14話 奴隷を痛ぶるリプレス

「す、すまん──もう一度言ってくれないか?」


 何かの聞き間違えだろうと言う様に、もう一度聞き返すノラに向かってスクエはハッキリと伝える。


「悪いが俺には無理だ。ノラには色々世話になっているが今の話に協力は出来ない」

「な、何故だ!?」


 ノラは会ってからこれまで見た事ない程動揺する。

 そんなノラの姿を見て申し訳無さそうな表情をするスクエ。


「理由は──無い……俺には無理だと思っているだけだ」

「それは嘘だ──理由も無しに断る訳が無い! だって、この街の人間を救えばヒーローになれるんだぞ!?」


 スクエの夢を知らない筈のノラからヒーローと言う単語が出た事にスクエは一瞬だけ反応する。


「俺は……ヒーローなんてなりたく無い──それにリプレスと戦う事になっても勝てる訳が無いだろ?」


──競売中に老紳士に腕を掴まれたが、とんでもない力だった……それにノラにだって腹部を殴られたが反応すら出来なかった……


「た、確かに我々リプレスはスクエ達人間よりも力など強いし人間に出来ない事が出来る……けど……」


 ノラは自分で言葉にして、気付かされた様な顔をする。


「そうだな……我々リプレスに立ち向かうのは、いくら人間三原則の効かないスクエでも危険……だな……」


 賢いノラではあるが、そこまでは気が回らなかったのか改めて考えると一緒に行動する人間側にメリットが無い事に気がつく。


「なら! リプレスに対抗出来る術があれば協力してくれるか?!」


 それでも、尚諦めないノラにスクエは疑問を覚える。


「なぜ、そこまで人間を救いたい?」

「そ、それは──不便だからだ」

「それだけの理由で全リプレスを敵に回すつもりなのか?」

「そうだ」


 間を置かず返事するノラにスクエの心のどこかでチクりと痛みを感じる。


「──仮にリプレスに対抗出来る術があったとしても俺はノラに協力する事は出来ない!」


 そう言うとスクエはノラから逃げる様にして外に出る為に玄関に向かった。


「ま、待つんだ!」


 ノラの言葉を無視してスクエは歩き続け家を出た。


──クソ……


 何に対しての怒りなのかスクエの表情は険しい。


「あーぁー、俺って何したいんだろう……」


 心で思っている事と態度があべこべである事に気が付きつつも、やはりパルムの事を思い出してしまい結局はヒーローの様に振る舞えない。


「パルムは馬鹿な俺を助けようとして自身の身を呈して──そんな俺が誰かを救うだと? ──ッハン! 無理だね……」


 急に怒ったり、落ち込んだりと情緒不安定なスクエは小腹も減った為、出店に出向く。


「腹膨らませて忘れよう……」


 いつもの店に向かう為に歩いていると、出店の前が何やら騒がしかった。


そして他の出店の店員達である人間が誰一人としてその場に居なかった。


「な、なんだ?」


 周りの店が無人な事に疑問を覚えながら騒がしい方に向かい壁越しに顔だけ覗かせる。


「──!?」


 騒がしい理由と人間が居ない理由が直ぐに分かった様だ。


「オラ! オメェ、なんでコレしか稼いでいねぇんだよ?!」

「す、すみませんロメイ様」


 スクエがこの二日間ご飯を買っていた店の店員が地面に膝を付けて土下座をしている。


「謝罪なんてイラねぇーんだよ、金を稼げ!」


 土下座する店員を蹴り付けている者は人間の主人であるリプレスであろう。


「──ッツ……すみません……」


 リプレスの暴行にも耐えて謝り続ける店員。


「……あれが人間三原則の効果か」


 スクエはバレない様に顔だけソーっと出して状況を観察する。


「お前、そろそろ死ぬか?」

「それだけはご勘弁下さい」

「あ? なら必死に稼げよ! お前のせいでノーブルメタルが買えないだろ!!」


──た、助けねぇと!?


 ヒーローを目指すスクエは心の中で叫ぶ──しかしいつも通り身体は動かない。


──ど、どうすればいい!? ノラを呼ぶか?


 人間の味方であるノラであれば恐らくこの場を収めてくれるだろうが、スクエが呼びに行っている間に店員がどうなるか分からない。


「オラ! オラ!」

「イッ……ダイ……」

「イテェーか、オラ!」


 そのリプレスは口を広げて笑っていた。

 先程までとんでも無く怒っていたと言うのに今は実に楽しそうにして人間を蹴り続けている。


「はぁはぁ──死ぬか?! あはははは」


 リプレスに蹴られる度に人間の反応がどんどん薄くなっていく。


 そんな様子を見ていたスクエは……


「や、や、め、アァ……ハ…………」


 リプレスを止めようと声を出そうとするスクエだが言葉を発する事が出来ず額から冷や汗が出る。

 そしてスクエの頭の中ではパルムが死ぬ瞬間が何度もフラッシュバックしている。


──む、無理だ……俺には……


 すると、スクエの肩をポンと誰かが叩く。

 スクエは驚きながらも叩かれた方に顔を向けて確認すると……


「ノラ……」

「私に任せろ」


 綺麗な顔でスクエに微笑むとノラは堂々とリプレスの方に近付く。


「おい、私の前であんまりそういう行為をするのは辞めて貰いたいんだがねぇ……」


 先程の温かい笑顔では無く、今のノラは無表情に、そして汚い物を見たく無いのか目を瞑りながら男に言葉を放つ。


「あん?」


 ノラに声を掛けられてこちらに背を向けていたリプレスが顔だけこちらに向けた。


 男は、荒んだ目をノラに向ける。

 スクエもノラが来た事で冷静になったのか相手のリプレスを良く観察する。


 男のリプレスは身長も小さく身体は小太りであった。

 瞳の色は青く一重でありこの世に常に不満を持っている様に荒んだ目をしており、鼻も潰れているのでは無いかと思える程に低い。


 そんな男がノラに向かって話し掛ける。


「誰だお前? なんか文句あるのかよ?」

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