第13話 ヒーローになる事を断る

「朝か……」


 パチリと目を覚ましたスクエは起き上がりベットから出る。


「今日でこの世界に来て三日目か──なんか実感が湧かないな……」


 起きたての身体を解す様に伸びをしてスクエは部屋を出て居間に向かう──すると既にノーブルメタルを片手に何やら新聞の様なものに目を通しているノラが居た。


「スクエ、おはよう」

「おはよう──また、それ吸っているのかよ?」

「当たり前だ。我々リプレスはノーブルメタルを吸う為に生きていると言っても過言では無い」


 何故かドヤ顔のノラ。


「朝ごはん買ってくる」

「気を付けていけよ──リプレス達の前では奴隷らしく人間三原則を意識して接するんだぞ」

「あぁ」


 スクエは真っ白い服に身を包み外に出ようとするとノラから更に声が掛かる。


「スクエ、後で大事な話がある」

「?」

「まぁ、今は気にせず自分の朝ごはんを買ってくればいい」


 なんとも意味深な感じで会話を止めて再度新聞に顔を向けてノラは読み出す。


──なんだアイツ?


 気にはなったがスクエは自身の空腹に従い昨日も行った所に向かった。


「それにしてもスゲェーな……」


 家を出て空を見上げるスクエの視線の先にはドローン型のイナメントが数多く飛び回っていた。


「日本もいずれはこんな風になるのかな……」


 空を見上げながら歩いているとあっという間に露天に到着した。


「お!? 兄ちゃん今日も来たのか──なんか買っていくかい?」


 スクエに声を掛けたのは昨日の朝に買った店の店員であった。


「うーん、確かに美味かったからな……今日も三本くれ」

「毎度! 兄ちゃん家には一体何人奴隷がいるんだい? ──ウチとしては大助かりだよ」


──その三つ全部俺が食べるんです……なんて言い辛いな……


「三人だ」

「そうか、朝からご飯貰えるなんて良い主人に出会えたんだな」

「ま、まぁな」

「羨ましいぜ……」


 何やら感傷深く呟きながら手早く用意してくれた店員が袋をスクエに渡す。


「お待ち!」


 スクエは金を店員に渡した後に少し遠回りする。


「デケェーよな……そして城カッケェーな」


 昨日も見た、アバエフと言う王が住んでいる城を見ていた。


 その城は洋風な感じであり、真っ白な外観をしていた。


「入って見てぇーけど、危ない奴がいるらしいし近付く気にはならねぇーな」


 少しの間城を見た後は早々に家に帰った。


「ただいまー」

「遅かったな?」

「ちょっと寄り道して色々見回っていた」

「何もなかったか?」

「──俺を子供か何かと勘違いしているのか? ただ、朝飯買いに行っただけで何も起こるかよ……」

「ふふ、私からしたら子供の様なものだろう」


 ニヤリと笑みを浮かべるノラに何も言い返せなくなるスクエ。


──や、やっぱり綺麗だな……


 そのまま、スクエも席に座り朝ごはんを食べ始める。


「それで?」

「ん?」

「何か俺に話す事があるとか家出る前に言って無かったか?」

「あぁ、そうだな」


 スクエの言葉にノラは姿勢を正して真面目な表情でスクエに話を切り出す。


「スクエ、私と一緒に人間達を救わないか?」


 ノラは燃える様な真っ赤な瞳をスクエに対して向けて真剣な声色で聞いて来る。


「……どう言う事だ?」

「人間の現状は話したよな?」

「あぁ」

「そして、昨日は実際に人間達がどんな扱いを受けているかも見たよな?」


 ノラに国を案内して貰った際にスクエはリプレス達に酷い扱いを受けている光景を何度も見ていた。


「実は私自身、今の人間達の境遇を良しと思っては無いんだ」


 ノラの表情に暗い陰りが見える。


「この状況を何とかしたいとずっと思っていた──だが私一人ではどうにもならない……かと言って私の様な人間を助けたいと思うリプレスなんている訳も無い」

「ノラの考え方自体、リプレスでは異端そうだもんな」

「否定はしない……そんなんだから変わり者と噂もされているしな」

「変わり者?」

「あぁ、リプレスの癖に人間を痛め付けたりする所を一度も見た事が無いとな」


──そんなに、リプレス達はしょっ中人間を痛め付けているのかよ……


「と、まぁ私の事は置いといて、仲間になってくれるリプレスなど皆無だからな──かと言って人間達を仲間に入れようとしても、メンタルチップのせいで人間三原則が発動してリプレスに歯向かう事など出来んしな」


 そう言うとスクエの方に目線を向けてニヤリと笑う。


「だから、私は仲間を求めて色々な事を調べたり、行ったり、見たりしててな──偶然奴隷市場が開かれると聞いてスクエを見つけたんだよ。君なら人間三原則が効かないから私が求めるパートナーにピッタリだ!」


 これは運命! と言いたげにニンマリ笑ってスクエに向く。


「どうだ?! ──共にリプレス共と戦い人間を救ってくれるか?」


 答えなど分かり切っていると言いたげに念の為スクエに聞く様な態度でノラは口を開いた。


──確かに、人間達のこの現状は俺も変えたいと思う……けどこんな俺が人間を救える訳がねぇ……パルム一匹でさえ、俺は救えなかったのに──ましてや何人居るかも分からないくらいの人数の人間を、この俺が……


 将来の夢は今でもヒーローである。


 困った人が居たらつい助けたいと思うし、無意識に行動したくなる。


 だが、パルムの事件以降、表立ってヒーローを名乗るを辞めたスクエは、ヒーローの様に人を手助けする事に恐怖を感じる様になった……


 それはスクエが幼い頃に何も考え無いで行動したせいで結果的に愛犬のパルムを死なせてしまったのが原因だろう。


 そんなスクエがノラに今──誘われている事は、正にヒーローそのものが行う行動だ。


 スクエの心の中では人間達を救いたいと叫んでいるが……スクエはその叫びを無理やり抑え込む。


──パルムを殺した俺には無理だ……


「すまん……俺には無理だ……」

「え……?」


 スクエの口から予想外の言葉が発せられてノラは間の抜けた声が漏れた……



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