D坂の自殺事件
はやとちリミックス
D坂の自殺事件
僕が
その当時、僕は
しかし梅雨が始まったあたりから、僕は電車に乗っている間に「自殺したい」と考えるようになった。僕はそれまで、そのような自殺衝動が湧いたことはなかった。何かの精神障害を発症しているのかもしれないと疑ったが、原因はわからなかった。
そして7月のある晴れた朝に、僕は自殺衝動を抑えることができなくなり、電車に乗っている間に「D坂駅で降りたら、そのままホームで次の電車が来るのを待って、それに飛び込んで自殺しよう」と考えた。
電車がD坂駅に到着して扉が開くと、僕はホームへ降りて次の電車が来るのを待った。ところが急に目眩がして、僕の隣に立っていた男性にぶつかりながら、その場に倒れてしまった。
「もしもし、大丈夫ですか?」と男性は僕に声を掛けた。「ずいぶん顔色が悪いみたいですけれど」
「自殺したいんです!」と僕は叫んだ。「でも、本当は死にたくないんです!」
「……どういう意味ですか?」
「すみません……。なぜだか、すごく自殺したくなって……」
「落ち着いてください。いったい何があったんですか? よろしければお話を聞かせてください」と彼は言った。「……おっと、駅員がこちらへ来ますね。面倒なことになりそうです。……とりあえず私の事務所へ行きましょうか」
「どうされましたか?」と駅員は僕たちに訊いた。
「何でもないです。友人が貧血で倒れてしまっただけですよ」と彼は答えた。「もう大丈夫ですから。ご迷惑をお掛けしてすみません」
駅員も僕たちの相手をするのが面倒だったのだろうか「気を付けてくださいよ」とだけ言って、すぐに去っていった。男性は「それでは、行きましょうか」と言って僕の腕を自分の首の後ろに回して、支持搬送をするように階段を上った。それから改札口を通って出口まで歩いているうちに、僕の自殺衝動は治まってきた。
「もう1人で歩けます。ありがとうございます」と僕は言った。
「それはよかった」と男性は言って、僕の腕を解いた。
「すみませんでした」
「いいえ、いいんですよ。あそこに私の事務所があります」と彼は言って、出口から見えるアーケード商店街を指差した。「無理はしないでください。ゆっくり歩きましょう」
男性の事務所は他の商店と同様に、ひっそりとアーケードに並んでいた。事務所に入ると、彼はすぐにエアコンを運転して、僕をソファへ座らせた。
「冷しコーヒーでいいですか?」と男性はライダース・ジャケットを脱いで、大切そうにハンガーに掛けながら僕に訊いた。
「はい」と僕は答えた。あらためて彼の容姿をよく見ると、ツンツンの頭髪にガリガリの身体、そしてビリビリのTシャツとボロボロのジーンズ、ピカピカのラバー・ソールという、パンク・ファッションをしていた。
男性は隣の部屋から冷しコーヒーを入れたタンブラーを2つ持ってきて「どうぞ、飲んでください」と言いながらテーブルの上に置いた。
「すみません、ストローがなくて」と男性は言って冷しコーヒーを啜った。
「いいえ……ありがとうございます」
「そうだ、私の名刺です」と彼は言いながら、ジーンズのヒップ・ポケットから角が折れたカードを取り出して僕に渡した。
「ロットン探偵事務所、玉砂利……アナキさん」
「4月にこの街へ引っ越してきました。職業は私立探偵です」と彼は言った。「最近ずっと雨が降っていたけれど、今日は久しぶりに天気が良いから、お気に入りのライダース・ジャケットを着て出掛けようとしていたんです。まあ、特に目的地は決めていなかったので、どこへ行こうかとホームで電車が来るのを待ちながら考えていたら、突然あなたが倒れてきたんですよ」
「本当に、すみませんでした」
「ところで、あなたのお名前は?」
「
「詰草さん、お仕事は……」と彼は言いながら右手首の腕時計を見た。「いちど職場に連絡した方がいいですね。もうすぐ始業時間になるでしょう?」
僕は驚いて自分の腕時計を見ると、もうすぐ8時30分を指そうとするところだった。僕は慌てて職場に電話を掛けて、体調不良で欠勤することを上司に伝えた。
「だいぶ顔色が良くなってきましたね。それでは何があったのか、お話を聞かせてください。まあ、いちおう探偵ですので、単純な好奇心があるというか……お力になれることがあるのではないかと思いまして」と玉砂利さんは言って冷しコーヒーを啜った。「ああ、その前に冷しコーヒーのおかわりですね」
僕のタンブラーには溶け続ける氷しか残っていなかった。
僕は玉砂利さんにそれまでの経緯——D坂にある銀行に勤務していること、職場へはD坂メトロを利用して通勤していること、そして梅雨が始まったあたりから毎朝、電車に乗っている間に自殺衝動に駆られるようになったこと——を説明した。
「それで、今朝はその自殺衝動を抑えることができなくなってしまったんです」
「ふうむ。なかなか興味深いお話ですね」と玉砂利さんは言った。
「やっぱり、僕は何かの精神障害を発症しているんでしょうか?」
「私は医者ではありませんからね。そうかもしれないし、そうではないかもしれません」と彼は言った。「しかし、これは私の推測ですが、詰草さんが『電車に乗る』ということに謎がありそうですね。どうでしょう? 明日、私と一緒に通勤することはできますか?」
「明日ですか? 僕は問題ありません。早くこの謎を解かないと……本当に自殺してしまいそうですから」
「ありがとうございます。……ああ、すみません。『通勤』と言いましたけれど、明日もお仕事は休んでください。詰草さんにも調査に協力していただくことになりますので。『通勤』とは言えなくなりますが、いいですか?」と彼は言って微笑んだ。
「ええ、大丈夫です。よろしくお願いします」と僕も微笑んで言った。
「詰草さんは、いつもどの駅から乗車しているんですか?」
「
「それでは明日、7時15分頃に黄金仮面駅で待ち合わせましょう」
玉砂利さんはそう言った後で「もう一度、通勤経路について詳しく教えてくれませんか?」と僕にいくつか質問して、その日は解散することになった。ロットン探偵事務所を出る際に、僕は彼にこの調査の料金について尋ねた。
「ああ、今回は結構ですよ。私が詰草さんのお話を聞きたくて事務所にお呼びしたので。それに、明日は詰草さんにも調査に協力していただきますし」と玉砂利さんは答えた。「まあ、本当のことを言うと、詰草さんのお話を聞いていたら、探偵としてこの謎を解いてみたくなったんですよ」
「でも、そんなの悪いですよ」
「ふうむ。それではこの謎が解けたら、何かおいしいものを食べましょう」と彼は言って微笑んだ。
「わかりました。ありがとうございます」と僕は言って、その日はアパートへ帰って休むことにした。
翌日の朝、僕が黄金仮面駅へ行くと玉砂利さんは既に来ていて、きっぷうりばに掲示してあるD坂メトロの路線図を眺めていた。
「おはようございます」と僕は玉砂利さんに声を掛けた。
「おはようございます」と彼は僕の方を振り向いて言った。「今日は午後から天気が悪くなるみたいですね。雨が降るとライダース・ジャケットを着れないから、梅雨って嫌いなんですよ」
「すみません。お待たせして」
「いいえ、私もさっき来たところです」と彼は言った。「詰草さんは毎朝この改札口を通って……D坂メトロ
「はい」
玉砂利さんは「それではいつもと同じ電車の、同じ車両に乗りましょう」と言って、D坂駅までの乗車券を購入してから改札口を通った。僕は定期券を使って改札口を通り、いつも乗車している位置へ彼を案内した。
「電車に乗っている間、私は詰草さんの近くにいますが、他人のフリをしてください」と玉砂利さんは言った。「『自殺したい』と思ったらすぐに声を掛けてください。詰草さんの安全を優先して、調査します」
「わかりました」
「その自殺衝動、というのですかね。いったいどのようなものでしょう? 始まり方と終わり方は?」
「うまく説明できないんですけれど……本当に、ふと『自殺したい』と思うんです」
「ふうむ」
「衝動はだんだん強くなって、5分ほど経つとだんだん弱くなります。始まりから終わりまで、10分間くらいですかね」
「ふうむ……おっと、電車が来るみたいです」と彼は言って、右手首の腕時計を見た。「遅延は発生していませんね。それでは乗りましょうか」
電車に乗っている間、玉砂利さんは黙って僕たちの周囲の様子を観察しているみたいだった。僕は彼の調査を邪魔してはいけないと思い、できるだけいつもと同じように、扉の近くに立って窓の外をぼんやり眺めることにした。そして電車が
「玉砂利さん、自殺したいです」と僕は玉砂利さんに声を掛けた。
「ふうむ。次はD坂駅ですね」と彼は言って、何かを確認するように僕たちが乗っていた車両を見回した。「それでは、詰草さんがいつも通勤しているように降りましょう」
僕たちはD坂駅で電車を降りて、玉砂利さんは僕をホームにあるベンチへ座らせた。
「大丈夫ですか? 自殺衝動が治まるまで休んでください」と玉砂利さんは言って、僕たちが降車した位置まで歩いて戻った。「いつもはここで電車を降りた後、昨日の朝、私と一緒に上った階段から、改札口を通って出口へ向かう。そうですね?」
「はい」
玉砂利さんは僕の自殺衝動がだんだん弱くなっているのを確認してから、ホームを歩いて調査した。彼はホームを一周して僕が座っているベンチへ戻ると、右手首の腕時計を見て「自殺衝動は治まりましたか?」と僕に訊いた。
「はい、もう大丈夫です」
「試してみたいことがあります。次に来る電車に乗って、D坂駅の先へ行ってみましょう。いいですか?」と玉砂利さんは言って微笑んだ。
「わかりました」
途中の
「玉砂利さん、また自殺したいです」と僕は玉砂利さんに声を掛けた。
「ふうむ。次は終点の覆面舞踏者駅ですね。降りましょう」
僕たちは覆面舞踏者駅で電車を降りて、玉砂利さんは僕をホームにあるベンチへ座らせた。
「謎の解き方はわかりました」と玉砂利さんは言った。
「本当ですか?」
「自殺衝動が治まったら事務所へ戻りましょう。確認したいことがあります」と彼は言いながら、バックパックからデジタル・オーディオ・プレイヤーを取り出した。「おそらく、私の推理で間違いないと思います」
「いったい、どういう推理なんですか?」
「まあ、これで音楽でも聴いて落ち着いてください」と彼は言って、僕にデジタル・オーディオ・プレイヤーを渡した。「とりあえず、詰草さんが生きて戻らなければなりませんからね。事務所に入るまで、絶対にイヤフォンを外さないようにしてください。いいですか?」
僕は頷いてイヤフォンを装着した。デジタル・オーディオ・プレイヤーで再生されていたのはパンク・ロックで、聴いて落ち着くような音楽ではなかった。
僕たちがロットン探偵事務所へ戻ったのは11時頃だった。玉砂利さんは昨日と同じように僕をソファへ座らせて、冷しコーヒーを入れたタンブラーをテーブルの上に2つ置いた。彼が笑いながら自分の両耳を指差している意味に気が付いて、僕はイヤフォンを外した。
「どうぞ、飲んでください」と玉砂利さんは言って冷しコーヒーを啜った。
「この音楽はいったい……」と僕は言いながら、彼にデジタル・オーディオ・プレイヤーを返した。「よくわからないけれど、とても素晴らしいと思いました」
「そうでしょう。音楽は……パンク・ロックは素晴らしいものです」と彼は言って嬉しそうに笑った。「『パンクでなければ生きていけない。ロックでなければ生きる資格がない』。はっはっは」
玉砂利さんは冷しコーヒーを飲み終えると、氷を噛み砕きながら「私は確認したいことがありますので、隣の部屋で作業します」と言った。
「わかりました。僕は何をすればいいですか?」
「詰草さんは音楽でも聴いて休んでください」と玉砂利さんは言って、デジタル・オーディオ・プレイヤーをテーブルの上に置いた。「これでパンク・ロックを。何かあったら呼んでください」
1時間ほどして、玉砂利さんは隣の部屋からラップトップを持って出てきた。彼の笑顔を見て、僕はイヤフォンを外して、デジタル・オーディオ・プレイヤーで再生していた音楽を停止した。
「謎は車内放送にあるんですよ」と玉砂利さんは言った。
「どういうことですか?」
「詰草さんはサブリミナル効果というものを知っていますか?」
「映画や広告などの表現方法で、潜在意識に働き掛けるとか……」
「そうです。実は車内放送にサブリミナル・メッセージが含まれているんですよ」と彼は言いながらソファへ座り、ラップトップのディスプレイを僕の方へ向けてテーブルの上に置いた。
「何ですか?」
「これは
玉砂利さんはマウス・ポインタを動かしながら「わかりやすいように色を付けました。この赤色の部分と、その前後の波形を見てください。ぜんぜん違うでしょう?」と僕に説明した。
「たしかに、違いますね」
「詰草さんは、車内放送の全文を覚えていますか?」
「いいえ、はっきりとは覚えていませんけれど……」
「それでは私が今から読み上げますので、聞いてください。詰草さんが実際の車内放送を聞くと、自殺衝動が湧いてしまいますから」と彼は言って、ラップトップのディスプレイを自分の方へ向けた。「私は4月にこの街へ引っ越してきたし、D坂メトロもほとんど利用することがないから知らなかったのですが、D坂メトロは新型ニコラウイルス感染拡大防止の取組みとして、啓発放送を実施していますね」
「啓発放送?」
「はい。今日、私たちが乗った電車では2種類の啓発放送が確認できました。1つは『新型ニコラウイルス感染症対策の一環として、車内換気のため一部の窓を開けて運行しています。また、さらなる換気のため他の車内の窓を開けることができます。感染症拡大防止にみなさまのご理解とご協力をお願いいたします』」と彼はラップトップのディスプレイを見ながら言った。「そしてもう1つは『新型ニコラウイルス感染症拡大のリスクを下げるため、テレワークや時差通勤にご協力をお願いいたします。また手洗い、うがい、アルコール消毒、咳エチケットなど、感染予防対策にご協力をお願いいたします』」
「たしかに、その2つは電車に乗っている間によく耳にしますね」
「2つ目の啓発放送で、何か気が付いたことはありませんか?」
「……いいえ」
「実は波形が違う部分は、2つ目の啓発放送にある『時差通勤』の『じさつ』という箇所なんです」
「どういうことですか?」
「何者かが2つ目の啓発放送のファイルを編集して『じさつ』という箇所だけアタックをクリアにしているんです」と彼は言った。「コンプレッサーという、音を圧縮するというか、音量のばらつきを抑えるエフェクターがあるんですけれど、おそらくそれを使用していますね。この箇所だけコンプレッションが違います」
「そんな馬鹿な……」
「黄金仮面駅から覆面舞踏者駅の間に2つ目の啓発放送があったのは、算盤駅、パノラマ
「……玉砂利さんや他の乗客たちは平気なのに、どうして僕だけ自殺衝動が湧くんですか?」
「このように波形を見れば、ファイルが編集されていることは誰でもわかります。しかし私のような普通の人には、車内放送にコンプレッションの違う箇所があるなんて、ちょっと聞いただけではわかりません。おそらく詰草さんは耳が良いのでしょう。これは聴覚が優れている人にだけ効果があるサブリミナル・メッセージではないかと推測します」と彼は言った。「先ほど調べましたが、啓発放送は3月から実施されています。つまり、詰草さんは4か月くらいほとんど毎日、同じメッセージを同じ時に、思わず耳にしていることになります。だから自殺衝動が湧きやすくなっているとも考えられます」
「だけど、玉砂利さん……。録音がうまくできていなかったり、ノイズの除去がうまくできていなくて、偶然『じさつ』という箇所の波形がおかしくなっているということは考えられませんか?」
「はっはっは。詰草さん、なかなか鋭いですね」と彼は笑って言った。「詰草さんに見せたのは算盤駅で録音したファイルですが、パノラマ島駅、指環駅、そして登場駅で録音したファイルも確認しました」
「それで、結果はやっぱり……」
「はい。それと詰草さんはイヤフォンを装着して音楽を聴いていたので耳にしていないはずですが、覆面舞踏者駅からD坂駅までの間に
「本当ですね……。7つとも、波形が違うのは同じ箇所ですね」と僕は言った。「とても偶然とは考えられません……」
僕が沈黙していると、玉砂利さんは隣の部屋から冷しコーヒーのおかわりを持ってきた。
「わかりました……玉砂利さんの推理で間違いないと思います。それで……犯人は? いったいなぜこんなことを?」と僕は玉砂利さんに訊いた。
「D坂メトロの社員か……何者かはわかりませんが、啓発放送の制作に携わった人物でしょうね。心当たりはありませんか?」
「いいえ……まったく……」
「私は愉快犯による無差別殺人……もとい無差別自殺教唆? ではないかと考えています。詰草さんの他にも自殺衝動に駆られるようになった被害者……いや、既に自殺した被害者もいるのかもしれません」
「そんな……」と僕は愕然として言った。「僕はこれからどうすればいいのでしょうか?」
「そうですね、犯人を捜しますか? 私も協力しますよ」と彼は言った。「探偵として、この事件に興味が湧いてきました。犯人を捜すのであれば協力させてください」
「お願いします。協力してください」
「D坂メトロには陰獣線の他に、
「各路線の、各駅で、ですか?」
「ふうむ。やっぱり大変ですね」と彼は言って笑った。「現実的に可能な調査ではないです」
「そうですよね……」と僕も言って笑った。
「それでは……2つ目の啓発放送があったのはD坂駅、黒蜥蜴駅、木馬駅の前後にある6つの駅、そして終点の覆面舞踏者駅の前にある登場駅です」と彼は言った。「何か共通点はありませんか?」
「覆面舞踏者駅は違いますけれど、D坂駅と黒蜥蜴駅、木馬駅は、周辺がオフィス街になっています」と僕は言った。「2つ目の啓発放送の内容も、テレワークや時差通勤に協力をお願いするものですよね」
「ふうむ。また謎が解けました。おそらく、2つ目の啓発放送があるのは朝のラッシュ・アワーだけですね。だから詰草さんの自殺衝動が湧くのは、朝の通勤時だけなんです」と彼は言った。「D坂メトロの全ての駅で調査するのは不可能なので、まずは周辺がオフィス街になっている駅で、ラッシュ・アワーの様子を調査する、というのはどうですか?」
「わかりました」
「それにしても詰草さん、素晴らしい観察力ですね。どうでしょう? 私の助手になりませんか? 他の事件の調査にも協力していただきたいのですが」
「……考えさせてください」
僕は雨が降る前にアパートへ帰って休むことにした。ロットン探偵事務所を出る際に、玉砂利さんは「これをお貸しします」と言って、僕にデジタル・オーディオ・プレイヤーを渡した。
「車内だけでなく、駅構内と地下街でも啓発放送があるみたいです。D坂メトロを利用する際は音楽でも聴いて、サブリミナル・メッセージを耳にしないようにしてください」と玉砂利さんは言って微笑んだ。
「ありがとうございます」と僕は言った。「ひとつ訊きたいんですけれど」
「何でしょう?」
「まさか、このデジタル・オーディオ・プレイヤーに入っている音楽にもサブリミナル・メッセージが含まれているんじゃあないですか?」
「はっはっは」と彼は大きな声で笑った。「安心してください。サブリミナル・メッセージが含まれているものはありませんよ。体制や既成概念へのカウンター・メッセージが含まれているものならありますけれどね。パンクスたちによって表現される宇宙で最も素晴らしい音楽、それがパンク・ロックです」
それから僕は銀行員を辞めて、玉砂利さんの助手としてロットン探偵事務所に勤務することになった。僕は彼の探偵を手伝いながら、この「D坂の自殺事件」の犯人を捜している。
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