第5章 宿縁 ~光の力~
エプリカ継承記
第5章 宿縁 ~光の力~
「これで試練は終わりだ。」
「・・・率直に言ってください。この力なら勝てますか?」
青年はしばし考え、やがて誠実に答えた。
「君は、いや君たちは本当にたいしたものだ。・・・だが、‘聖獣’と契約した歴戦の勇士である彼らに勝てる保障など、どこにも無い。」
「・・・・・」
(まして‘あの力’には、・・・いや、あれは‘ありえない’力だったな・・・)
しばしの静寂の後、少年、いや男の子は、納得できない様子で立ち去ろうとしていた。
「・・・ありがとうございました。」
青年は何も言わず、その姿をただ見送るだけであった。
― そして青年、‘光の精霊王’は、知人たちのもとに赴くのであった。―
―‘闇の聖地’に最も近い都市、上空―
「もうすぐ最後の町、ラムールに着きます!」
「ああ。あそこで今日休んだら、・・・いよいよだ。」
「ついに戦うんだね。・・・伝説の八創士と。」
「・・・勝てるかな?」
などと弱気な発言をする人物が、突然周囲の視界から消える。
・・次の瞬間戻ってきた。
ある少女が‘飛行’の魔法の行使をやめ、しばらく後、元の高度に戻るよう再び行使したからに他ならない・・
「そんな弱音は吐かないの!」
「うう、ご、・・ごめん・・・」
(・・いや、それはひどいと思うが・・)
しかしそんな無駄なことを考えるよりは、別なことを考えるようにする。
・・・そうした方がはるかにましだという境地に、最近になってようやく、ラルは達していた。
(ゲインおじさんの館を出てからは順調だったな。)
‘風の聖地’の試練を終えた翌朝、ラルたちはゲインの館を立つことにした。
聖地における試練のおかげで、シュンもまた自分以外も’飛行’の魔法で飛ばせるようになっていた。結果、セツナ、セイカそしてシュンの3人が複数人に飛行魔法をかけられるようになった今、一行は空を飛んでいくこととした。
その際の役割分担は、次の通り。
まず「大人の方は上手く飛ばせません」自身が言うセイカは、自然とキセイを飛ばすことにする。-ちなみにキセイは嫌がったが、実質とそうでない理由もろもろ含め、全員で却下した。-
ついでラルを飛ばすのはセツナとシュンの姉弟どちらでも良かったので、交互に担当することにした。
また、ラルに飛行をかけていないほうが、居合わせた魔物の迎撃を担当する。
さらにセイカ、キセイは今まで通り回復を担当し、ラルは一行が休憩する際の見張り役を一手に引き受けるようにした。
「ふむ。俺はお前たちの全部を知る訳では無く、無責任な発言になるかも知れんが、悪くないと思うぞ。」
「ありがとうございます。」
自分よりも経験豊富であり、父の親友、いや戦友でもあるゲインからの言葉に、ラルは素直に礼を言う。
「・・・それでは、ゲインおじさん、お世話になりました。」
「タリアには挨拶したのか?」
ラルは、普段人と話すときはまっすぐに相手を見る彼にしては珍しく、ちょっと目を背けて言葉を返す。
「えっと、挨拶しようとしたんですが、「あーっと、そういうのは良いから。次来るときはお見舞いでも菓子折りでもなんでもいいから、何か持ってきて。」とあっさり言われました・・・」
「・・・そうか。」
父親として思う所があるのだろう。やや複雑な表情を見せるゲインを、ラルはなかなかまともに見ることができない。
実際、ゲインには隠すではないが、言っていないちょっとしたやり取りもあったのだから。
「で、では。セツナ、頼む!」
「はい!ゲイン様、お世話になりました。」
「お世話になりました。」
「またね~~」
こうして、ラル達一行は空の人となったのである。
「だから・・・また、絶対に会いに来てよね・・・」
どことなく愁いを帯びた、まっすぐな幼馴染の少女の瞳に、ラルは改めて誓う。
「・・・ああ、必ず、ここに戻ってくる。」
さて、ゲインの館からの空の旅は、実際かなり順調であった。
‘飛行’時に空を飛ぶ魔物から襲撃を受けたのは5回、休憩時に襲われたのは2回。
うちそれぞれ2回と1回は結構な数の魔物の群れと戦うことになったが、本来の力の使い方を学んだ姉弟の力はすばらしく、いずれもほぼ完勝であった。
・・・むしろ、ボケるたびにどつかれるキセイの怪我の方が多かっただろうか・・・
とはいえ、目的地に近づくほど魔物は強く、狂暴となり、・・・闇の聖地に原因があることはもはや疑いようがなかった。
(‘代償’と‘行程’? 本当にどんな理由が?)
「ラムール城が見えてきました!・・って、え?なに・・?」
今夜の宿となるであろう都市が見えてくるやいなや、一行に’光の線’が襲撃してきた。
― ラムール城下町、門前 ―
「やっと来たね、さあ。」
少年、いや男の子は、魔力を込めた指で宙に5つの五芒星を描き、
「・・・とりあえず様子見からかな?」
五芒星にためた魔力を開放する。
次の瞬間、5つの標的に向かい五本の光の線がそれぞれ疾った。
― 再び都市上空 ―
突然襲ってきた光の線を、自ら‘飛行’している3人は、
「くっ!」「やっ!!」「わわ・・!」
と、とっさに回避しつつ、
「ラル様、すみません!」「キセイ、ゴメン!!」
「! わかった!!」「・・え?」
二人にかけている魔法を即座にカット・オフする。
当然‘重力’と言う法則に従うこととなった二人は、落下の結果として光の線をかわし、
「そして再び‘浮遊’!」「・・・ふう・・」
ラルはどうにか落下速度を落とされて無事に地面に着地し、
「・・・いや、安心してないでーーーーーーー!!?」
・・・キセイはそのまま地面に激突した。少しは緊張感を保てんのか、おい。
何はともあれ5人全員地上に立ち(当然のことのように、キセイはほぼ無傷であった)、‘光’の魔法で一行を突然襲った人物と対峙することとなった。
― 再び城下門前 ―
「うん、まあ、避けるよね。」
(なんか一人だけ、自然落下したような気もするけど・・)
それは正解。
「それじゃあ、もうちょっと強くやってみよう。」
魔力を高めるその姿は、誰がどう見ても、・・・少年にも満たない男の子である。
(・・・またなのか?)
突然攻撃を仕掛けてみたらしい人物の姿を見るや、ラルがこう思ったのも正常である。
何しろ魔法が使える齢5,6歳程度の子供は、これで五人目なのだから。
そしてその子供が、いかなる理由か、強力な魔法を行使しようとしているのもまた明らかであった。
「まず一人目・・」
最初の標的になったのは、― まだ体勢の整っていない ― キセイ。妥当である。
「威力はさっきより強めに、・・いけ!!」
その言葉どおり、先ほどよりも幾分径の太い、そして速い光の線がキセイに迫る!
「わわ・・」キセイの前にとっさに唱えたのか水魔法の防御膜が展開されたが、
「キセイ!!」隣にいたセイカがキセイを突き飛ばした。
次の瞬間、光の線は水の膜をあっけなく貫き抜け、ほんのわずかに威力を弱めて突き飛ばしたセイカの肩をかすめた。
「つっ・・!」
「セイカ!?」
すぐさまキセイが回復をかける。
(・・・?)
「シュン、攻撃!!」
「! 風の精霊よ、僕の声を聞け!」
セイカが負傷したと見るや、セツナが指示し、シュンが反撃の風の魔法を放つ。
その瞬間わずか、しかしその威力は先に悪魔と化しつつある狂魔術師を倒したそれに近い。
「なかなか、・・・だけど!!」
標的の子供が跳んだと思った次の瞬間には、シュンの魔法の有効攻撃圏内から外れたところに出現していた。
驚嘆すべき速さである。しかも、
「これならどうかな?」
避けた空中で、再び5つの五芒星を描き反撃してきたのだ。
「・・え?」
とんでもない素早さと状況判断力である。それに追いつける者など、・・・いや、一人いた。
「威力が弱い! 大気の精霊よ、力を貸して!!」
詠唱一発。セツナが強力な防御魔法が発動し、一行を襲う光の線をことごとく防いだ。
(・・・ふうん・・)
(なんてレベルの魔法の応酬だ・・)
眼前で繰り広げられる弱冠5,6歳にしか見えない子供たちによって繰り広げられる戦いに戦慄するラルにも、当然ながら本格的な攻撃が来る。
それも尋常なものではなく、
「・・では、あなたにはこれで。」
そうつぶやくと少年は初めて、魔法の詠唱以外の構えを取った。それはまるで、
(左手を右側、右手を後方?・・まさか!!?)
何がそうさせたのか、ラルはとっさに、
「光の槍よ!」
ブゥン! ギンッ!!
・・・・・・・
・・静寂が走った。
そこにあるのは長さ10mほどにも伸びた‘光の槍’を持つ少年と、それをとっさに剣で防いだラルの姿。
「・・・よくわかりましたね?」
「動作が大きかったのと、“以前に似たようなもの”を見ていたからな。」
「なるほど。」
納得したように‘光の槍’を消す少年。
「・・・しかしまさか、‘物質具現化’すら使えるとは・・・」
「さすがにすぐには出せなかったです、が!?」
突然、地に伏せる少年。直後、青色の円盤(ソーサー)がまさに彼のいたところを通過する。
「なんだ!?」
「ぁ~、さすがに外したか。」
「ちょっと、セツナ!!」
「・・・・・」
声の方向を見ると、セツナが残念そうな表情で立っている姿が見えた。
「・・・今のはセツナか?」
「見よう見まねでしたけどね。」
あっけらかんとした表情で話すセツナに、立ち上がった少年が厳しい視線を向け、
「・・・まさか僕と同じくらいで、‘コレ’のできる子供がいたとはね・・」
「ちょっと自信持ちすぎなんじゃない?」
(どちらの言い分もわからないではない。・・が、非常識だ・・・)
まったく驚かせてくれる子供たちである。
「・・・そのようだね。」
「あ、そうそう」
認めざるを得ないと言った表情の少年の言葉をセツナがさえぎり、こともなげに言い放った。
「・・・‘アレ’、戻りもあるから。」
「!」
とっさに振り返り光の防御壁を張る少年。
ギィン!! 「クッ!!」
不意をつかれた形となった少年だが、それでもなんとか“戻ってきたソーサー”を防いだ。
・・・しかし、さすがに隙ができる。今が攻撃を仕掛ける絶好のチャンスなのだが、
「おー、さすが。」
セツナは感心したように拍手をするだけだ。その様子を弟のシュンは戸惑いの、ラルは懸念-いやむしろ納得-の視線でそれぞれ見る。
「何故、攻撃しない?」
「・・・それはこっちのセリフ。何で、私たちを試すわけ?」
そのセツナの言葉に一同は驚き-あるいは真意を伺う-表情で、少年のほうを見る。
「・・・さすがに、ばれちゃったか。」
あきらめたように少年は力を抜き、ラルたち一行のほうに改めて向きなおした。
「・・・試すような形ですみません。僕は‘リュウセイ’と言います。‘北の闇’の原因を探すものです。」
少年の言葉は、珍しくラルの予想範囲内の言葉であった。
「リュウセイと言ったか。・・どうして俺たちの事を知っている。」
「・・・‘光の精霊王’に聞きました。」
「やはり、な。」
これも予想された答えだ。
あれだけの光の魔法が使え、さらに‘物質具現化’ができるとなれば、‘光の精霊王の試練’を突破してきたと考えるのがごく自然である。
その際、自分たちのことを精霊王と呼ばれる存在が伝えていてもおかしくはないであろう。
「それで自分たちがかの英雄‘八創士’と渡り合えるか試したわけか。」
「・・・悪いとは思ったのですが。」
苦笑するリュウセイ。しかし、その歳でそのしぐさはどうだろう? どうでもいいことだが。
「それで、俺たちは君のテストに合格か?」
「はい、ラル様とセツナ、シュンと呼ばれていた子達は文句なく合格です。」
「子って、・・・あんたも同じくらいの歳だと思うんだけど!?」
そんなセツナの言葉はスルーし、
「ですが、・・・あっちにいる二人の子にはちょっと納得できません。」
(・・・ん?)
ちょっとした違和感を感じた。光の精霊王は自分たち全員のことを説明したわけではないのだろうか?
それとも名前とかは詳しく聞いておらず、先の戦い・・まあテストだが、の会話から名前を知ったのだろうか?
だが詳しく突き止めることでもないので、この違和感は無視することにする。
「・・あの二人、キセイとセイカはかなりの回復が使える。貴重な戦力だ。」
「 その通り。彼らは決して弱くはない。」
「!!」
「自分が現時点でちょっと優れているからと言って、他の有能な人物を無碍にするのはいただけないな。」
突然聞こえた声の先には、
・・さも当然のように、一人の英雄が立っていた・・
「・・八創士、‘天のスライ’・・」
「!! あの人が・・・」
「おや?新顔もいるようだね。では、改めてこんにちは。」
‘天のスライ’が左手に持った弓のほうに首をかしげて余裕の笑みを見せる。もちろんそこに隙などみられない。
ラルたち全員が生きながらにして‘伝説’と呼ばれる人物を前に緊張して身構えると、
「・・・そんなに気構えなくてもいい。今日は案内に来ただけだ。」
「案内?」
「ああ。」
彼女は持っている弓で東の方角を指し示し、
「ここからちょうど東に飛んで行くと渦が見える。見えたら右手、南の方角の地上を見るといい。」
「そこにぽっかりと開いている穴。そこが君たちの言う‘北の闇’だ。」
「・・・本当に案内だけなんですね。」
「君たちなら必要ないかとも思ったんだが、‘渦’の方も結構な魔力があるからね。」
「それを信用しろと言うのですか?」
疑いを持った発言をしたリュウセイは、次の瞬間身体が固まったかと思った。
表情一変、怒りのはらんだ視線でスライに睨まれたからだ。
「う、あ・・・」
「・・・馬鹿にするな。実態がどうかはともかく、私とて‘伝説’と呼ばれる人物。そんなつまらない嘘はつかない。」
「!!」
決して大きくない声。だが彼女の殺気だった気迫は、少なくともこの空間を支配していた。
(やはり、とんでもないな・・・)
やがて怒りも徐々に収まり、一行 ― 特にリュウセイ ― の緊張が解ける。
‘天のスライ’は振り返って立ち去ろうとしていた。
「では確かに伝えたぞ。」
「待ってください!」
留めるラルの声にスライは歩を止めた。
「・・・ラル、君も私を疑うのか?」
「いえ、何故わざわざこの情報を伝えに?」
彼女は首だけを向け、少し楽しそうにこう返した。
「なに、魔物との戦いで疲れきった者たちと戦うのも面白くないと思ってね。」
「!」
「ではまた明日。子供たちも今日はぐっすりとおやすみ。」
‘天のスライ’の周りの空間が歪んだかと思うと、瞬きした後にはその姿は消えていた。
後にはただ無言の、ラルたち6人が残っただけだった・・・
「あれが‘伝説の八創士’・・」
「くそっ!!」
憤ったラルが地面を思い切り殴りつける。
「なにが面白くだ!この瞬間にも凶暴化した魔物に殺される人がいるかもしれないのに!!」
「「「・・・・・・・」」」
「じゃあ、」
沈黙を破ったのはセイカだった。
「このまま‘北の闇’に行きますか?みんな戦えないわけではないですし。」
「・・・いや、」
憤る感情を抑えて、ラルは冷静に判断する。
「予定通り、今日は町で休む。充分に体力を回復してから、・・明日、決着をつけよう・・」
うなずく一行。ただ一人、
「・・・あの、さっきはすみませんでした!」
深々と頭を下げるのは、― 先ほど実力を試した人物 ―リュウセイ。
外見年齢以上の実力と思考能力を持つと思われる子供だけに、素直に謝る姿は単純に好感が持てた。
(この子も、悪い子ではないよな。)
ラルはあまり気にしないように告げようとするが、その前にそれを行動で示す人物がいた。
「いいよ。キセイがだらしないのは事実だし。」
「・・って、何で浮いてるの、ボク?」
確かにキセイは、決して比喩ではなく、いつの間にか宙に浮いていた。
「「・・・ハァ・・・」」
頭に手をやりため息をつくセイカとシュン。
前者は思考で、後者は姉弟特有の感覚で、おそらく次の行動を予想したのだろう。・・すなわち、
「・・・なんかいやな予感がするんですけど・・」
かなりの上空。
張本人と思われる少女、セツナは会心の笑みを浮かべ一言。
「たぶん正解。魔法停止!・・ポチッとな。」
「えええええええ!!!」
当然落ちる、と。
「今よリュウセイ!打っちゃって!!」
「・・えっ?」
「もう、私に合わせて!」
セツナの手には小さな’風球’。反射的にリュウセイも‘光球’をつくる。
「ゴー!、ファイヤー!!」
迷いなく風球を放つセツナに、つられてリュウセイも光球を打ち込んでしまう。
「・・ぁ。」
見事なタイミング。
「なんで~~~~~!!??」
同時に命中したキセイははるか彼方まで飛ばされ、・・星になった。
「・・・ヤレヤレ。」
もはやそれが義務であるかのように、セイカはキセイの飛ばされた方角に飛んでいく。
ここで‘方向’ではなく‘方角’と言うあたりに、飛距離の長さをわかっていただけるだろう。
「ん~、やっぱりリュウセイはノリがいい!そんな気がしたのよね~。」
「・・それだけのためにキセイ飛ばすなよ・・」
ラルは呆れてしまった。
「・・乗せられてやってしまいましたが、彼、大丈夫でしょうか?」
「「「エッ?」」」
何を言われたのかすぐにはわからず、思わずまじまじとリュウセイを見てしまうラルたち3人。
「な、何かおかしなこと言いましたか?」
「・・・いや、」
よくよく考えてみると、
(というか、考えるまでもなくこれが普通の判断だな。)
しかしその普通は、セツナの次の行動にかき消されてしまう。
すなわち、リュウセイに正面から歩み寄り、その肩にポンッと手をやり、頷きながらこう言うことで。
「・・・大丈夫、キセイだから・・・」
「・・・・・・」
二人にとってはなんとなく至極妥当な、そして新参の一人にとってはまったく意味不明な言葉にしばし沈黙。
「・・・いや、突然だったから結構強く打ったんだけど、さっきの光球。」
「うん、いい一撃だった。」
彼の頭の中はもはや疑問符だらけなのであろう、論点がずれている。
「・・格好の遊び相手だよね・・」
とシュンが小声でラルに伝えたときは、ちょっとだけ不憫に思った。
やがてセイカに抱えられて戻ったキセイが、力尽きる前につぶやいた一言。
「・・・頼むから、ダブル攻撃は無しにして。なんかいつもと違うのが見えた・・・」
本人にとってはたまらないのだろうが、かなりずれたコメントに一同爆笑。
そしてリュウセイもまた、わだかまりなく笑っていた。
セツナの計算ずくなのか自然なのか(たぶん天然)なやり方によって、新たな仲間としてリュウセイもまた共に戦うようになる。
‘北の英雄’と‘聖女’を両親に持つ大陸屈指の剣士‘ラル’
‘大気の試練’を越えた驚異的な風と大気の魔法の使い手‘セツナ’
同じく‘風の試練’を乗り越えたセツナの実の弟‘シュン’
‘光の試練’を乗り越えた高度な光魔法を使いこなす‘リュウセイ’
高度な回復魔法を使いこなす‘セイカ’
回復、攻撃、さらに光魔法も使える‘キセイ’
― こうして、決戦に向かう6人が揃ったのである ―
― 翌日、朝 ―
「渦が見えるあたりから南っと。・・ところで遠くに見える山って形、変じゃないですか?」
先頭を飛ぶセツナが示す先に山脈が見えるのだが、確かにそれを構成する山の一つに不自然なえぐれが見えた。
遠方のここから見て十分わかるくらいのえぐれなので、実際の大きさは相当なものだろう。
「・・・あれが、‘八創士’が‘伝説’と称される大きな理由だ。」
「どういうことです?」
「戦ったんだよ、今から十数年前に。この地を滅ぼすと言った邪神と、あの山脈で・・・」
「え?それじゃあ、あれが、」
「ああ。・・そのときの戦いのあまりの凄まじさに、周囲がああなってしまった。今では‘邪神の傷跡’と言う人も多いな。」
「はえ~」
「歴史にありがちな誇張と評価する人物も多いが、・・俺は全く疑ってない・・」
「まあ、そのうちの一人にあんな力見せられたらそうですね。」
「かなりやばかったからね、あの時は・・」
「僕は実際戦ってないけど、同じ意見。」
「・・本当かどうかは置いとくとしても、とてつもない力だというのは間違いないですし・・」
「・・・今更ですが油断は禁物、ですね。」
「そういうことだ。気を引き締めていくぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
(・・ああ、そういう風に伝わっているんだ・・)
(・・・まあ、間違いという訳でもないし、別にいっか。)
感慨深げにそう思う者がいた。
― 数刻後 ―
「・・さて、どうやらあそこが目的地のようだが・・」
「・・・結構な数ですね・・」
‘八創士’スライの言葉の通り目的地である‘北の闇’らしきものを見つけたラル一行。
しかし、先行するセツナとシュン姉弟の前にはとんでもない数の魔物がひしめいていた。
ちなみに、リュウセイも飛行の魔法は使えたが、姉弟ほどではないのでラルを飛ばすことにし、姉弟が先行して戦闘を受け持つこととした。
その師弟が見渡す限り魔物だらけ。全く予想していないではなかったが、それを明らかに上回っていた。
「・・負けることはないでしょうが、ちょっと疲れますね。」
「ああ。・・どうするかな。」
思案しようとした時、異変が生じた。
「「「「「「!!!」」」」」」
「セツナ!!」「くっ、間に合わない!!」
・・それは一瞬の出来事だった。
ラル、リュウセイ、セイカ、キセイは逃れたものの、
先行する形となっていたセツナとシュンは、あらかじめ用意されていたらしい広範囲に展開された結界に捕らわれてしまったのだ。
そしてその中央には、
「・・・あまり、女性を待たせるのは良くないと思うぞ?」
「・・・私、まだ子供だから良くわかんないんです。」
「・・こういう時だけ子供づらされてもな。」
その結界の中で、無数の魔物の先に、
‘八創士「天のスライ」’が待ち構えていた。
「全員捕らえるつもりだったが、発動するのが少し早かったか。・・・まあ、いい。」
スライは矢を番え、言い放つ。
「まずはお前たちから倒させてもらおうか。」
「・・・そう簡単には負けません。」
「ほう? ・・・ハッ!」
スライは何を思ったのか、おもむろに結界のほぼ中心にいる魔物に矢を放つ。
「??」
「雷(いかずち)よ!!」
さらに魔物に矢が刺さる寸前、短い魔法を唱えると、その矢を起点に周囲に激しいイカヅチが発生。
まさに瞬く間に、結界内の魔物を全滅してしまった。
「なっ!?」
「ふむ、ウォーミングアップはこの辺で良いか。」
「・・・相変わらずすごい魔力ですね。」
「さて、この程度で怖気づくようなら相手になどしないが、」
「「・・・・・」」
セツナ、シュンに怖気づく様子は見られない。
むしろ強大な敵を前に、表情を新たに、精神を集中させる。
「どうやら、戦う気は満々のようだな。」
スライは楽しそうに、唇の端を上げた。
「・・ラル様、今のうちに先に進みましょう。」
「・・・それが、いいのかもな。」
「え?」
「・・・・・・」
非情にも聞こえるリュウセイの言葉に、思案しながらもラルは賛同した。
「はい。・・・見る限りこの結界はかなりのものです。仮に破れたとしても、相当な魔力が要ります。」
「・・そして相手はあの‘天のスライ’。しかし目的はあの人を倒すことではないのです。」
「そうしてください!!」
結界内からセツナの声。
「私たちなら大丈夫!シュンと一緒にスライ様を食い止めます!!・・できるわね、シュン?」
「・・やるよ。僕も男だ!」
「・・・わかった。ここは頼んだ!!」
‘北の闇’に進むラルたち4人。
「・・・ふむ、では手っ取り早く片付けさせてもらい、後を追いかけるとするかな?」
‘八創士「天のスライ」’の魔力がさらに高まる。
「・・今度はそう簡単にはいきませんよ・・」
ゴクリと喉を鳴らし、対抗すべく魔力を高めるセツナとシュンの姉弟。
「・・・始めるとしようか。」
「あれが‘北の闇’の入り口だな。」
「そのようです。・・僕が道を開きます。」
リュウセイが右手でいくつかの五芒星を切る。
「ハッ!」
仕上げとばかり右手から放たれた幾本の光の線は、的確に魔物の胸を貫通し、あっという間に十数体の魔物を消滅させる。
これが飛行の魔法と併用して行っているのだから、やはりリュウセイの実力は非常に高いといえよう。
「それでは飛び込みます!」
ラルたち4人は吸い込まれるように最終目的地である‘北の闇’の中に入った。
「・・ここが‘北の闇’か・・」
「はい。・・とんでもない魔力ですね・・・」
「この先に‘闇の八創士’がいるんだね。」
「はっ!!」
突如短い気迫の声。
皆が何事かと見たところでは、セイカが倒したのだろうか、魔物の消滅する様子があった。
(ん?何か違和感があるが・・・?)
セイカが額の汗をぬぐって、切り出す。
「みなさん、目的地に着いたからといって油断しないでください。いつまた魔物に奇襲されるかもしれませんよ?」
「う、ごめん・・・」
「「・・・・・」」
すぐに謝ったキセイに対し、なぜか判然としない様子で黙り込んでしまうラルとリュウセイ。
(・・気が少々抜けていたかも知れないのは否定しないが、)
(・・・魔物の気配にまったく気づかないなんて。)
しかし、返事のない二人にさらに詰め寄るセイカ。
「・・・。わかってくれたんですか?ラルにリュウセイ?」
「あ、ああ、すまない」
「あ、うん、ごめん・・」
釈然としないながらも、結局謝ってしまう男二人。
・・・どんな歳でも、女性は強い瞬間がある・・・・・
満足したようにセイカがこう告げた。
「そういうわけで、私とキセイがここに残ります。」
「なに?」
「へっ?」
「・・・・・」
全くもって寝耳に水の発言だが、セイカは構わずに言葉を続ける。
「今のところ魔物はいないようですが、もし‘闇の八創士’との戦い時に紛れ込んだらまずいですよね?だから一つしかないこの入り口に待機して私とキセイが片っ端から侵入してきた魔物を倒します。」
「・・ふむ」
妥当な案である。‘闇の八創士’は剣と魔法ともに最強クラスと言われている。
それに対抗するには、この面子の場合、剣にはラル、魔法にはリュウセイで対抗するしかない。
それに貴重な回復役の二人だが今回はおそらく出番はない。戦ってる間、回復する暇はないであろう。
「・・・わかった。セイカにキセイ、ここを頼んだ!」
「・・はい!」
「・・いきましょうラル様。」
頷くとラルとリュウセイは奥に向かって駆けていった。・・互いに無事にとは言わず・・・
「あの~、ボクの意見は・・・?」
・・・約一名取り残されている気もするが・・・
― ‘北の闇 奥の間’ ―
二人になったラルとリュウセイは、その後数体の魔物に遭遇したが苦もなく撃破。
そしてついに、最も魔力の高い奥の間に到着した。
そこには一人の男が待ち構えていた。
漆黒の髪に漆黒の瞳。
漆黒の鎧に漆黒の鞘。
そこには‘闇’そのものが存在していた。
二人を視界に捕らえても全く表情を変えず、その‘闇’はつぶやくように言った。
「ようやくたどり着いたか。」
「・・・‘闇’の八創士、ターク様ですね・・」
「言うまでもない。」
「そして、・・・今回の事件の元凶で間違いないのですね?」
「・・・・・」
何も答えず、八創士の中でも1,2の実力者と言われる‘闇のターク’が剣を抜く。
すなわち、「闇よりも黒い」と称される漆黒のサーベル。
「・・・問答無用と言うわけですか。」
「まさか、いまさら話し合いで決着がつくとも思ってないだろう、ラル?」
タークは一見、ただ剣を持って立っているだけだ。
しかし魔力を少しでも感じるもの、すなわちエプリカ世界の住人ならば誰もが感じるであろう。
この異常なまでに強大な、そして暴力的な闇の魔力を。
「・・・一筋縄でいくとは最初から思ってなかったが、」
「・・明らかに普通ではない魔力ですね。」
(実際その通りだしな・・・)
ラルは剣を抜き、リュウセイは魔力の集中に入る。
もはや戦う以外に手段はない。
・・たとえどんなに強大な敵であろうとも。
風と大気の姉弟は‘天の八創士’、
癒しの力を持つ二人は無数の魔物、
そして、
‘英雄’の息子と‘光’の使い手は‘元凶’たる‘闇の八創士’と
― 今、それぞれの戦いが始まろうとしていた ―
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