第3章 再会 ~少年の力~

「・・・う~ん、こんなんかな?・・・」

いつぞやのように首をかしげる。そして、

「まあ、たぶん、なんとかなるでしょ!」

などと、いつかのようにあっけらかんと済ませるのであった。


・・・なんだかんだでその者には、「視えて」いるのだ・・・




「全然、何とかならないんですけど~!!?」

・・・と言ったどこかからくる泣き叫び声も、その者は聴こえなかったフリでやりすごすのだが・・・




「・・・見えました。あの建物です!!」

「よし、頼む!!」

空を飛びながら― 正確には魔法で飛ばせてもらいながら ―、ラルはこう思うのであった。

(どうか、俺たちの杞憂であってくれ!!!)



― 時は遡る。 ―



目的の場所‘風の聖地’は、立ち寄った街で仕入れた情報によると、確かに‘精霊の森’の南西の山地にあるらしい。

そしてその地は‘聖地’としては、一番と言っていいくらい普通の山奥にあるわけだが、そのままでは不思議な力で行く手を阻まれてしまう。

その地に入るには、聖地につながる道の途中に居を構える‘聖地の番人’と呼ばれる人物に認められないといけないらしい。

「・・・なるほど、それで聖地が普通の山奥にあるわけか。」

この情報により、ラルがなんとなくもっていた疑問が氷解した。

‘聖地’と呼ばれる場所はどこもその地に行くことすら並の人間には難しいとされている。・・・特にそれが顕著なのは‘光’と‘炎’、そして‘水’だ・・

・・・ラルたちの旅の最終目的地、「闇の聖地」も、存外普通ではないところにあるわけだが・・


 それはともかく、目指す‘風の聖地’は山道をただ奥にひたすら歩けばいい訳で、

・・・とはいえ、そこはやはり山奥ではある訳で、

「きつい~~・・・」

とセツナが言うのも、仕方の無いことだったりする・・・



「・・・少し休憩しよう。」

そう子供たちに言うと、ラルは山道の脇にある座れる分のスペースがある岩に腰掛けた。子供たちも思い思いに楽な態勢を取る。

セツナと、弱音は吐かなかったがやはり限界だったのであろうキセイはその場にへたり込み、セイカも俺と同様すぐ近くにあった岩にへたり込んだ。

それぞれ常人離れした魔力を持つ3人だが、体力面ではどうも同年代の子供と大差ないらしい。

そんな子どもたちの様子に、ラルはほほえましくなった。さすがに自分は魔物が襲ってきても戦えるだけの体力をまだ残している。

「・・・キセイ、回復お願い・・・」

首すらも向ける気力が無いのか、そのままの姿勢でセツナが言った。

珍しく不機嫌な表情になるキセイ -と何故かセイカ- が目に入ると、

「・・さすがにそんな気力は無い・・・」

とぶっきらぼうに答えるのが聞こえた。・・まあ、当然の答えだろう。

当の本人であるセツナもそう答えられると思っていたのだろう、落胆した様子は無く、

「・・そだね。・・ごめん・・・」

と素直に謝る。セツナから珍しい言葉が聴けたことに思わずラルとキセイが顔を見合わせると、

「・・・後、どのくらいなのか、ちょっと見てきます・・・」

と、― やはりなんとなく不機嫌な声で ―セイカは言うと、返事は待たず魔法で自らを浮かせ飛んで行った。


「?・・セイカ?」

「どうしたんだろう?」

今までに見たことの無いセイカの行動に首をかしげるセツナとキセイ。

ラルもその辺り気にはなったが、それよりむしろ、

「・・・飛行魔法も、それなりに高度なはずなんだが・・・」

とつぶやき、その辺を全く気にしていない残った2人の子供に対しても、改めて、・・呆れてしまった・・・



「・・そうじゃないでしょ・・・」

少女、いやむしろ幼児といえる彼女は、自分に対し悪態をつく。

「・・・わかってるでしょ、私は・・・・・」

しかし、感情とは仕方の無いものである。



しばらくしてセイカが戻ってきた。セツナとキセイも少しは回復したであろうが、まだ立ち上がらない。

「・・・何かあったか?」

「・・・番人の方と思われる屋敷を見つけられました。距離的にはそんなになさそうでした・・・が、」

「が?」

セツナとキセイが情けない顔でセイカの方を見る。・・・半ば予想がついたが、ラルは続きを促した。

「・・・はい、まだここから結構高い位置にありまして、さらにこれからは今まで以上の急な坂道が続くようです。」

「・・・そうか」

セツナとキセイががっくりしている様子が見えたが、ラルは今後の行動を考えることに頭を回す。

・・・と、突然なんとなく身体が軽くなった気がした。

・・まるで宙に浮いているような感じ・・・ではなく、実際に浮かんでいた!

見るとキセイも同じように浮かんでいる。

「・・・な?」

「も~、体力、限界!魔力で行くことに決めた!!」

と、セツナが開き直ったように言った。つまり彼女がこれをやっているのだろう。

自分が宙に浮くだけでも結構な修練と魔力がいるはずなのに、それを自分も含め3人となれば単純に3倍・・とはならないかもしれないが、かなりの魔力がいるのは容易に想像できる。

実際、さすがのセツナも、

「3人はやっぱきつい、かな。セイカは自分でいけるよね?」

「はい。・・・あとキセイと合わせて2人なら何とか大丈夫だと思います。」

この発言に目を見張るラルとセツナ。

(・・・この子らに限っては、いちいち驚くのが間違いなのか・・?)

「じゃ、キセイのバカをお願い。これでかなり楽できるわ。」

「バカはよけい・・・」「はい!!」

キセイの突込みよりも早く、さっきまでの不機嫌を忘れたかのように元気よく答えるセイカ。

その返事に言ったセツナすら若干たじろぎ、

「いや、そこまできちんと肯定されると・・・」

「・・・僕ってそんなにバカだったんだ・・・」

あきれたり落ち込んだりする周りに対しセイカは慌て、

「いえ、キセイがバカというのを肯定しているわけではなくて・・」

しどろもどろになるセイカ・・・だが、一応言っておかねばなるまい。

「・・・セイカ」

「! な、なんです、ラル様!?」

「・・・魔法を集中しないと、落ちてるぞ、キセイ・・・」

「・・・え?・・・あぁーーー!!!」

気づいたときにはすでに相当の落下速度―そしてなにやら断末魔の叫び―

「すぐ上げます!!」

言うやぴたりと止まったかと思うと、また同じような速さで戻ってくるキセイ。

「ゥワァーーーーー、グァ!!」

Gの影響だろう、情けない声をあげて・・



「ごめんなさい。キセイ。」

「・・ん、大丈夫、大丈夫。・・それより聞きたいことがあるんだけど?」

「何でしょう?」

「さっきは何で機嫌が悪かったの・・って、ウワーーーー!!!;;」

タブーだったのだろう。・・再び― 今度は意図的な ―自由落下に加え急転回、ひねり、一回転などを織り交ぜてキセイが、・・文字通り宙を舞う・・

ものすごい叫びが聞こえるたびに

「何か言いましたか~?」

と笑顔― 口元は明らかに引きつっていた ―で答える様子を見て、ラルとセツナは戦慄を感じずにはいられなかった。



やっと元の位置に戻ってきたらしいキセイ― かろうじて意識があるのはなかなか ―に、少しは気分が落ち着いたセイカの最後の言葉、

「さっきの言葉、訂正しますね♪」

「ゼエゼエ・・エ?」

「キセイは・・・やっぱりどうしようもないバカです。」

最後とばかり、先ほど以上の速度で宙を舞うキセイ。

「ア~~レ~~~~~」

(・・・・驚くのが間違いなんだろうな。)

というか、セイカは怒らせまいと誓うラルとセツナであった・・・



「と~ちゃ~く♪」

「・・・あっという間についたな。」

「・・・・・」

「え?ひゃ?・・うわっ!?」

・・・なかなか機嫌が治らないセイカをなだめ、番人がいると思われる館に辿り着く。

― 約一名、着いたというより“落とされた”感じのものもいたが ―

「これは、騒がしい連中が来たな・・・」

その様子に気づいたのだろう、番人と思われる人物が姿を現す。

が、ラルはその人物に見覚えがあった。

「え?ゲインおじさん!?」

「!・・・ラルか?」

「はい、そうです!お久しぶりです!」

「そうだな、大きくなったな・・」

この会話にぽかんとなる子供たち。セツナが聞いた。

「あの、ラル様、お知り合いの方ですか?」

子どもたちの問いかけに、はっとなるラル。

「あ、ああ、すまない。思わぬ人にあったので少し動転して・・」

改めてこの懐かしい人を、子供たちに紹介する。

「この人はゲインといって、俺の父が街を興した頃にしばらく協力してくれた人だ。・・・おじさんと呼んでいるが、血のつながりは無いぞ。」

この言葉に特に反応したのは、やはりと言うかセツナだった。


‘北の英雄’レイルがその名の由来となった北の地での事件、出来事を解決。その後、彼の妻となる‘聖女’と呼ばれる女性と共に南の地に旅立ち、街を築いたのはかなり有名な話だ。

だが当時、それに関わった人物については- 故意かどうかは不明だが -、何故かほとんど知られていない。

彼の妻である‘聖女’ですら、彼とどのように関わっていたのか知られていないことが多く、まして他に共に戦ったものがいたのかすら定かではない。

・・・このゲインという人物はその端的な例と言える。


「・・・ゲインという。よろしく。」

「は、はじめまして、セツナです!」

「はじめまして、キセイです。」

「セイカです。」

ラルはふと違和感を感じたが、次のセツナの問いかけに忘れてしまう。

「・・・あ、あの、‘北の英雄’レイル様の親友みたいな方ですか?」

「・・・まあ、そうだな。」

一抹の不安を感じながら、ごまかす事ではないので正直に答える。

「・・・てことは、有名人・・・スゴイ人って事ですよね・・?」

「・・・・ま、まあ、そうなるかな・・って、まさか?」

自分の不安の理由に気づいたときにはすでに遅く、

「それじゃあ、サインをお願いします!!」

「やっぱりか!!」

「ああ、いいぞ」

「そんなあっさり!?」

と、連続で突っ込みを入れてしまうラルであった。


「・・・子供の言うことだ。というより、おまえ、キャラ崩れてるぞ。」

「・・・キャラ、変わってますね。」

「どういうことだろ?」

ラルが若干へこんでいるうち、セツナが差し出した―やはり出所は不明な―色紙にすらすらと自分と相手の名前を書いていた。

・・・さりげなく達筆だ。

「あ、ありがとうございます!・・レアものゲット!!」

飛び上がらんばかりに喜ぶセツナ。それを見ながら一言、

「・・・レアすぎる気もするけどね・・」

「良かったね、セツナ。」

なんとなく朗らかな雰囲気にラルは思ってしまう。

(・・何なんだ、この状況は・・・)



「あ、ところでタリアは、あいつはどうしてます?」

「・・・それなんだが、今朝方出かけるといってから、まだ帰ってこなくてな。」

「出かけることは別に珍しいことではないのだが、いつも昼には一度帰ってくるのだが・・」

ゲインは少々不安そうに首をかしげる

「・・・魔物に襲われたということは?」

「ここは‘聖地’の近くだから、めったなことでは魔物は出てこない。それに並大抵の魔物ならば出てきたとしても、遅れを取ることは無いと思っている。」

「そうでなければ娘一人で行かせはしない。・・・俺はあいつの父親であり、剣の師匠でもあるのでな。」

「・・・ですが、今は事情が違うかもしれません。」

突然介入してきた声の方を向くと、神妙な表情のセイカがいた。

「どういうことだ?」

「まず一つは、これは私たちがここに来た理由と関係あるのですが、北からの禍々しい気に呼応するように魔物が大量、凶暴化したこと。」

「・・・それは俺も感じていたが、数日前にこの付近を調べてみたときはそんなに変化は無かった。おそらく聖地からの気で、邪悪な気が相殺されているのだろう。」

「出たとしてもせいぜい以前から街道に出ていた雑魚程度だ。あいつがその程度の敵にどうにかなるとは思えない。これはあいつの剣の師匠としての客観的な考えだ。」

「・・・ではもう一つ。これは先ほど立ち寄った街で耳にしたのですが、ここ最近、この山に立ち寄った人が、時折行方不明になるそうです。・・・特に女性ばかりが・・・」

「・・・なに?」

これはラルも初耳だった。反応から見て、セイカを除く全員がおそらくそうなのだろう。・・・むしろ複数ある街の噂や情報の中で、この少女が着目した情報がこれといったところか。

「・・・それでその原因というのが、家出が単に重なった、凶暴化した魔物に襲われた・・といったものの中に「山にいる何者かにさらわれた」というのも結構、噂されていました・・・。」

「!!」

「セイカ、まさか・・・」

悪い予感がした俺にセイカはうなずくと、窓の方を指差し、

「・・・先ほど空から偵察した際、聖地からの気とは別に、わずかながら怪しい気を感じた廃墟らしきものが見えました。・・・この辺りで何か起こったとしたら、その場所が関わってる可能性が高いと思います。」

「くっ・・」

何かあったという確証など無い・・・ひょっとしたら用事が長引いただけで、そのうちひょっこりと帰ってくるかもしれない。

・・・しかし、最悪の事態が想定される中で、その原因が取り除ける見込みがあるならばやっておきたいという想いはある。・・・現にもしそうだとすれば、幼馴染の少女以外にも捕らわれている人がいるかもしれないのだから・・・

ラルに迷いは無かった。

「・・・セイカ、その場所まで案内を頼めるか?」

「!はい、もちろんです。」

「・・・ということでゲインおじさん。ちょっと、その親不孝娘を探してきます。」

「もしかしたら単に俺たちの考えすぎで、そのうちひょっこり帰ってくるかもしれないのでおじさんはここに残ってください。」

「・・・すまない、頼めるか?」

ラルは努めて余裕の表情を見せると、

「僕もあれからかなり成長してるんですよ。剣の腕はもちろん、危険を感知して対処する方法とかもある程度心得てます。・・・では、子供たちのことをお願いします。」

その言葉にセツナとキセイは驚き、

「ラル様、私も行きます!」

「僕も!!」

そういうと思ったラルは厳しい表情を作ると、

「・・・これはお前たちとは関係ないんだぞ?」

「でもラル様の知り合いなら手伝いたいんです!!・・・私が飛ばしていけば速いと思いますし。」

「僕も手伝いたいんだよ!!」

そういった子供たちの表情は真剣そのものだった。


嬉しさのあまり、思わず笑みを浮かべながらラルは言う。

「・・・わかった。正直、一緒に来てもらえるとありがたい。頼りにしてるぞ。もちろんセイカもな。」

頼りにしていると言われ、素直に喜ぶ子供たち。ラルはその様子をほほえましく見ると、次の瞬間には表情を引き締め、

「それじゃあここに来たときと同じようにセツナは俺を、セイカはキセイを連れて飛ばしてくれ。・・・ではゲインおじさん、改めて行って来ます!」

「はい!」

「うん!」

「行ってきます。」

「・・・頼むぞ。」

そして4人の青年と子供たちは来たときと同様にして、‘聖地の番人’の前からいなくなった。


「・・・思い通り、だな・・・」



― さらにそれから少し時間は遡り、―


「え、え~っと、・・・ガイコツさん、かな・・?」

「・・・・・・」

カシャ、カシャ

「・・でもなんで、動いたりしてるのかな・・・?」

・・・カシャ、カシャ、カシャ

「えと、・・とりあえず風球(かぜだま)!!」

少年の両の掌から拳大の風の力を集めた球が解き放たれ、彼に近づいてくるものに見事に命中する。

そう、この少年もまた魔法が使えるのだ。・・・しかし

ガシャン! ・・・・・ カシャン、カシャン、カシャン

「・・・うわ、一応、左腕は飛んだけどそのまま近づいてくる~~~」

そう、特定の攻撃以外では粉々にでもしない限り敵に襲い掛かってくるという、いわゆるガイコツの外見どおり、不死(アンデッド)の魔物なのだ。・・・しかも

「・・・うわ、なんか後ろにも何匹かいるし・・・」

この少年がまだ見えてないところも考慮すると「何十体」かもしれないが・・・

「・・・こういう時は。」

先頭の一体―少年が左腕を吹き飛ばしたやつだ―が、残りの右腕で少年に襲い掛かってくる。

少年は急いで―しかし案外落ち着いた感じで―、体勢を低くすると、

「逃げるが勝ち!」

シャッ、シャッ、シャッ!!


「・・・・・?」

「それじゃぁ~~~!」

しゅたっ!と手を上げると少年は颯爽と立ち去る。

・・・いや、しようとしたのだが・・・

「がいこつ、多すぎ!・・・おまけに、迷っちゃった、みたい・・・」

そう、今、少年がいる場所・・・廃墟は、元々盗賊対策のため入り組んだ構造をとっており、

・・・しかも通路を間違ったり、曲がり角に差し掛かるたびに新たな骸骨が現れる・・・

「全然、何とかならないよーーーー!!;;」

・・・といったような少年の叫びは、 ・・・実は何人かの人物に聞こえていた・・・・



― ほぼ同刻 ―


「た~す~~け~~~て~~~~~!!」

誰かの声が聞こえた。おそらく声変わりもしていない男の子の声。

私は元々耳がいい。それに少し前から父親から剣や戦いの手ほどきを受けているので、声の方向まで迷わずに行くことができた。

「・・・廃墟? こんなところに?」

結構長い間この近くに住んではいるが、こちらの方向には来た事が無かった。こんなところがあるとは・・・しかも、

「! アンデッド? 誰かが棲んでいる・・・?」

入り口の方を見ると不死の魔物、骸骨兵が正しく門番のように2体立っていた。

・・・門番がいるということは誰かがいる、もしくは何かがあるからに他ならない。

・・・そんな風に、女性が考えているうちに再び叫び声。

「全然、何とかならないよーーーー!!」

・・・文法的にはかなり問題はあるが、間違いなくこの中で少年、あるいは男の子が魔物に追われている。

「・・アンデッドはちょっと厄介だけど、助けに行かないわけには行かないよね・・・」

そう言って正面から颯爽と突入しようとすると、再び声が聞こえた・・・それもすぐ近くで。

「あ! やった、やっと出口だーーーーー!!」

女性は再び門番から見えない位置に姿を隠す。そうする内に少年のものと思われる足音も聞こえてきた。

(・・・なかなか速いわね。これなら骸骨兵から十分逃げられそう。)

なかなかではなく、かなりの速さで少年が姿を現す。一見普通の少年・・・いや、男の子だ。

「なんでこんな子が、こんなところから?」

などとつぶやくうちに、その男の子は当然のことながら気がついた2体の門番の骸骨兵と戦っ・・・攻撃を避けて逃げ回っていた。

(戦いには慣れてないようだけど、速さと、まだ体力も残ってそう。・・これなら逃げ切れるかな?)

逃げ切ったらとりあえず自分の家に連れて行くか・・・などと考えているうちに事態は動いた。

女性の見立て通り、男の子は最後の門番の攻撃範囲から出ることに成功し、自由への逃亡を果たす。


・・・かと思った矢先、

ズザザーーー!!!

と、何も無いところで足をひっかけ、・・勢いよく顔からスライディングした。


・・・・・・・・・


・・一瞬、妙な沈黙が流れる。 ・・・それは意思のないはずの骸骨兵側にしても同様のように女性には見え、

(・・・ここまできて、なんで何も無いところで思いっきりこけるかなあ・・・・・)

と思わず顔に手をやってしまう。

・・・だが、これは男の子―ちなみにまだスライディングした体勢から立ち上がってこない、衝撃のあまり気絶してしまったみたいだ―にとってのピンチなのは間違いなく、

(・・・あらら、囲まれちゃったか。・・・って、数、多!!)

その数は再び門番の任務、いや指令だろう、に戻った2体を除いても、ざっと20体以上。

(・・・よくこんなのから、ここまで逃げ切れたものね・・・)

しかも、最後にあんなドジさえ踏まなければ十分逃げられたのだ。男の子を見ながら女性は少し呆れる。

(とりあえずあの子を起こせば何とか逃げれそうね。・・・ちょっときついけど、)

女性は腰に佩いていた細身の長剣をスラリと抜くと、

「いっちょ、やってみますか!!」

男の子目指し、囲んでいるうちの一体に切りかかる!


・・・その面差しはどことなく、‘聖地の番人ゲイン’のそれに似ていた・・・




「見えました!あの建物です!!」

「! よし、頼む!!」


―・・しかしながら、結果としてほんの一足遅かったのである・・・―



「・・・あ?」

「・・・・・気がついたようだな。」

「・・・え? ・・・な、何これ!?」

見知らぬ男の子を助けようとした女性は目を覚まし、・・・自分が手足を鎖で頑丈に縛られ、台の上に寝かされていることに気づいた。

もう一つ、おそらくはそのようにした張本人、いかにも魔術師が着そうな黒のローブで身を固めた痩せ細った ―人を見下した表情の― 壮年の男が目の前にいることにも。

当然、その女性は食ってかかる。

「! ・・・ちょっと、何のつもりよ!?」

「・・・先に私の質問に答えろ、そうすれば答えないでもない・・・」

「質問・・・?」

「貴様は ・・・まだ清らかな存在か?」

「!! な、何を!?」

「・・ふむ」

いきなりの性的な質問に、恥ずかしさの余り顔を赤らめる女性。・・・その様子を冷静に見て男は、

「どうやらそのようだな。・・ようやくといったところか・・・」

「な、な・・・わ、悪かったわね!!」

怒りと恥ずかしさの余り、自分でもわからないようなことを口にする女性。

「・・・いやいや、悪くはない。おまえの前にここに来た女どもはみな、私の求めていたそれではなかったがな。・・・中にはお前より年下のものでもな・・・」

「前に来た人たち・・・?」

相変わらず人を馬鹿にした態度や発言に対して文句を言いたかったが、それ以上に気になる発言があったのでそれはしまう。

(こんな人を見下した男を慕ってくるような人がいると思えない。・・・ということは)

「ああ、来たと言うより連れてきたという方が正確だがな。」

「・・・私に、したようにか」

「お前の場合は少々慎重にやらせてもらったがな・・・」

ここにきてようやく、自分が捕まった時のことを女性は思い出せた。



「3つ!もう少し!・・・早く目を覚まして!!」

なるべく背後に回らねぬよう警戒しながら、3体目の骸骨兵を粉々に粉砕する。

なかなかの実力だった。

飛び出してからの最初の一撃は的確に骸骨兵の頭蓋を捕らえ、すかさず連続に剣を叩きつけることで無力化。

続く2体目はすぐにいこうとはせず、一旦構えなおして体勢を整え、同じく一撃目で頭蓋を粉砕。後は技よりも力を重視した剣さばきで相手を無力化する。

アンデッドに剣で対抗するのには適したやり方と言える。

・・・ただし使っているのが細みの剣であることからもわかるように、本来彼女は技やスピードを駆使して戦うタイプだ。

普通の相手ならば、最初の攻撃を頭蓋の他、のどや胸といった敵の急所に食らわせられればそれで通常は決着がつく。

しかし相手が、攻撃できるからだの部位が一部でも残っていれば襲ってくる可能性のあるアンデッドである以上、必然的に力を用いた、いわば解体作業が必要となってくる。

この作業は確実に、彼女の並以上はある、しかしそれは女性としての、体力を削っていく。


「ハァハァ・・・4つ目! ・・・目を覚ます様子なし。こうなったら無理やり突破して、抱えて逃げるしかないか。」

最初からその方法も考えないではなかったが、抱える際と抱えて逃げる間はどうしても隙が大きくなる。

それよりはこうしてこちらに注意を引き、そうしているうちに男の子が目を覚まし再び逃亡。その後、自分も撤退した方がリスクが少ない。

しかし彼女が安全策を最初とったがため、結果的に二人とも捕らえられることになるのは、神成らぬ身でわかるはずもない。

「よし、いく!!」

「・・・惜しかったな。」

「!!」

気づいた時に、それはそこにいた。黒のローブで身を包んだ、見るからに怪しげな魔術師が。

「・・・しばし、眠れ。」

差し出された右手からの負の魔力に、あえなくその場に倒れこむ女性。

普段ならば抵抗できたかもしれないが、疲れきった今の状態ではそれも無理な事であった・・・


あとに残ったのは骸骨兵の群れと、未だ起き上がらない少年。

しかし、骸骨兵は誰にも攻撃を仕掛けなかった。

・・・それはこの魔術師こそ自分たちを創ったものだからに他ならない。

「・・・なかなか頑張った。・・・素材として期待できそうだな・・・」

唇の端を上げ、嫌な笑みを浮かべると興味薄げにもう一人の少年のほうを見やり、

「・・・消すか。・・・いや、こいつが暴れたときの人質として使えるな。クックック」

さらに常人ならば吐き気をもたらすような笑いを浮かべると、魔術師は骸骨兵に少年も連れてくるように指示する。

・・・だが、この判断がこの後、自身に大きく降りかかってくることをこのものは知らない・・・



「・・・思い出したようだな・・・」

「ええ、・・・女性をエスコートするにしては最低のやり方をね!」

「構わんさ。・・・私は女の身体になど興味はない。・・・あるのは、」

男は口と表情を、常軌を逸した残虐なそれに変えて続ける。

「処女の血、命・・・それだけだ。」

「! ・・・ふう~ん。 ・・・どうやら格好といい、この場の雰囲気と言い、なんともべたべたな悪魔契約の儀式で間違いなさそうね。」

「ベタでも結果的に成功すればよい。そうは思わんかね?」

「・・・くっ!」

もはやお互い言うことも無く、魔術師は儀式をはじめ、女性は何とか戒めを解こうとする。

だがそれすらも、この人を人とも思わぬ男は認めず、

「・・・そうそう、もう一つ、貴様の言うベタな設定を加えておいたぞ。もう一度この部屋を良く見てみるんだな。」

「なに?」

両手両足が縛られた状態で、首だけを使ってもう一度周囲を見てみると、

「あ、あれはさっきの子・・・」

そう、先ほど自分が助けようとした少年、男の子が同じく手足を縛られ、床に転がされていた。

男の子はまだ意識が戻ってないようだ。・・・いや、顔に殴られた後があるのを見ると、起きたところでもう一度意識を失わせたのだろう。

そしてそのすぐ傍らには、この男の配下である骸骨兵が二体。

「意味はわかるな?あえていえば、おまえが何か変なことをしようとしたら、あのゴミを片付けると言うことだ。」

男は表情を変えることなく言った。

「き、きさま・・・」

「さて、私が力を手にするすばらしい儀式の最中だ。なるべく静かにしてもらおうか?」

「・・・ち、畜生・・・」

これほどこの言葉が似合う男はいない。・・・唇を強くかみ締め、憎悪の目で男を睨む。

しかし男は動揺するどころか、満足した余裕の表情で返し、儀式を再開する。

だが、男が望む静かな時はすぐに破られた。

それはこの部屋―男が儀式の間と呼んでいる部屋―の内部からではなく、外部から発せられた音。


「この部屋がそれっぽいよ!」

「・・・だな。 たああああ!!」

バガーーーーン!!!


・・・・・


女性が首をまっすぐ倒した視線の先・・ちょうど彼女の足の方向にある、この部屋唯一の出入り口が勢い良く破られ、

「え?・・・・・」

そこには始めて見る男の子とこれまた初めてみ-いや、自分の良く知っていた少年が成長したような-青年の二人の姿が。

(・・・え? ・・・・でも、まさか・・・)

「ラルにいちゃん、あっち!!」

「わかってる!!」

「!!!」

男の子にその名を呼ばれた青年は、素早く部屋の隅、男の子がいる方に駆け寄ると、

「たあっ! はっ!!」

ガシャン!! ・・ガラガラガラ・・・

一太刀、そしてその返す剣で一太刀。

そのたった二太刀で青年は、二体の骸骨兵をすさまじい勢いでそれぞれ壁まで弾き飛ばし、再生できないくらい粉々にしてしまう。

「!!?」

「な、なに!?」

驚愕する2人―幼馴染の女性と元凶と思われる魔術師―を他所に、ラルは男の子を縛っているロープを剣で切る。

一緒にいるキセイに男の子の介抱を頼むと、自分は儀式が中断されている祭壇に一人向かう。

まずはまだ、― 二重の意味で ― 驚いている生贄の女性の元にいき、彼女を縛っている鎖をおもむろに断ちながら、表情を柔らかなものに変える。

「・・・全く。ゲインおじさんが心配してたぞ、タリア。」

「!!!」

この時タリアは、

(なんてタイミングで現れるのよ・・・ラルのくせに・・・ラルのくせに・・・・)

そして緊張が解けたのか、我知れず涙を流し、

(・・・ラルのくせに ・・・・かっこよすぎよ・・・)

「おや? そちらの方とお知り合いでしたか?」

「・・・・・」

ラルは答えようとはせず、タリアを生贄にしようとし、おそらくは村の娘も生贄としてこれまで亡き者にしたであろう男の方を向く。

その表情は・・・無論怒りのそれである。


「・・・何人殺した・・・」

「ん? ・・・さて、5,6体といったところかな。案外少ないだろう?」

「!!」


迷わずラルは男に横から切りかかる。すさまじい速さだ。

しかし男は、おそらく魔法を使ったのであろう、驚異的な跳躍でラルの剣の射程から離れる。

「くくく、わが傑作たちよ、ここに集え!」

男が呪文を唱え持っている杖で床を叩くと、突然部屋中に例の骸骨たちが現れる。

その数ざっと50、この廃墟にいる敵のほぼ全てと思われる、

「・・・さて、剣に自信があるようだが、これだけの数を相手にできるかな?」

「・・・さあ?さすがにこれだけの数は俺だけでは大変かな?」

「なに?」

「キセイ!!」

「りょーかい!!」

ラルの視線の先、そこには先ほど捕らえられた人質の少年と、ラルと一緒に来ていた男の子―キセイ―がいた。

そしてキセイは、魔法で光を外に向かって放っていた。

「え?」

「な!? あんなガキが初歩とはいえ光の魔法だと!!?」

「・・・・・」

タリアと男が驚くのも無理はない。

そして実は、ラルもまた2人とは違う意味で驚き・・・いや、呆れていた。

(合図の方法があると聞いたから任せたが、まさか2属性、しかも高等属性の光魔法を使うとはな・・・全くどうなっているんだ、この子達は・・)

そしてラルを驚愕させた光の合図は、その役目を果たす。



―廃墟上空―

そこには2人の少女がいた

彼女らはそこにいるのにはもちろん意味が、役目がある

「! 来ました、キセイからの合図です!!」

「待ってました!! ・・・私の全力、いっけぇーーーーーー!!!」


「! くるよ!!」

「タリア、すまん!」

「え?」

ガバッ!

突然ラルがタリアに覆いかぶさる。

突然のことに動揺、紅潮するタリア。

「ちょっ?ラル、何を!?」

「いいから、飛ばされないよう、もっと俺に抱きついて!!」

「と、飛ば、・・抱き?」

「!! きた!!!」

「な、なんだこの風、魔力は!?」


とてつもない大きさ、威力の竜巻は廃墟の壁を穿ち、

中にいた骸骨兵数十体を粉々に粉砕し、

「こんな、こ、ん、な・・・ぐわあああ!!!」

それを創りだした元凶の魔術師も吹き飛ばし、

「くっ!」「きゃあああ!!」「ひゃあぁーー!」「・・・ん?」

その場で伏せていたものだけを残し、やがて消滅した



「や、やた・・・・つ、つかれた・・」

「・・・お疲れ様です。じゃあ降ろしますね、セツナさん」

「お、お願い・・・」

「・・・全くたいしたものだよ、あの子達は・・・」

「え? ・・あの子たち?」

ラルの視線のほうを見ると、確かに2人の少女が空から降りてくる様子が見えた。

キセイ・・ラルと一緒に来た少年の合図であの少女のうちのどちらか―おそらく疲れきった様子の子―が、空から強力な魔法を放つ、もう一人の子はそのナビゲートと魔力が尽きた後の空中浮遊魔法役といったことなのであろう。

これだけのことを成し遂げた子供たちに唖然としたタリアだが、はっと我に帰って真っ先にやったことは、

「・・・ちょっとラル。いつまで押し倒しているのよ・・・」

「え? ・・あ、ごめん!!」

あわてて身体を離すラル。 その顔は真っ赤だ。


その慌てる様子が、懐かしく、妙におかしかったタリアが、上体を起こし笑おうとする。


・・・と、

ボンッ!!!

「・・・え?」

「タリア!!」

右肩の背部・・・タリアはそこに大きな衝撃を受け、

・・・ゆっくりと、再び仰向けに倒れ・・・意識を失った・・・


「タリア!!!・・セイカ!キセイ!、回復をしてくれ!!」

「はい!!」

「すぐいくよ!!」

「ククククク、儀式は終了だ・・・」

狂気じみた声がした方向をみると、件の魔術師が魔法を放った体勢で立っていた。

その身体はセツナの放った魔法のため、いたるところに傷がありこうして立っているのが不思議なほど。

・・・しかしその表情は恍惚のそれであった。

「儀式・・だと・・?」

「ククク、そう。 ・・・この私がより優れた存在になるための儀式・・・後は生贄の血さえあればよかった。」

「! 貴様っ!!!」

ラルの怒りの剣が男に襲い掛かる!

ギンッ!!

「なに!?」

首を狙った渾身の一撃は、無造作に差し出された男の細い左腕にあっさりと止められ・・・いや、単に切り落とすことができなかったのだ。

細い外見からは想像もできない硬さに、表面に浅い切り傷がついただけである。

先ほど魔法で受けた傷も見る見るふさがっていく。

「・・・・言った、ダ、ろう。・・元から、アル、優れた知力。 ソレニ、悪魔の強靭な肉体さえつけば、ワタシハ、もはや完璧、ナノダ・・・」

動きが止まったラルに対し、男・・・いや、徐々に変化しつつある「それ」から強烈なボディブローがラルにくりだされる!

「ぐはっ!!」

その威力に耐えられず、後方に吹き飛ばされ、床に背中から激突するラル。

「モハヤ・・剣、ナドデハ・・俺の皮膚を、キズツケル、程度しか、デキナイ。・・・モットモ、」

もはやほぼ悪魔に身体をのっとられたその男は周りを見渡し、先ほど強力な魔法を放った人物―セツナ―を探す。

そのセツナは人質だった少年を介抱していた。いかにも疲労困憊といった感じで・・

「サキホドクライノ魔法ヲ、モウイチド喰らったら、ショウショウヤバイノデナ。・・・イマノウチニ、死んでモラウ・・・」


ゆっくりとセツナに向かって歩き出す悪魔。

ラルは先ほどのダメージから、まだ立つことすらままならない。

セイカとキセイは、一時でも手を休めると非常に危険な状態のタリアに、回復を施すので精一杯。

まさに絶体絶命。・・・しかし、悪魔が一つ失念していたことがあった。

それは、


「・・・全く、何であんたがここにいるのよ・・・・・」

「・・・・ん?」

「ほら、早く目を覚ましなさい!」

「ひう!? ・・・あれ、セツナ?」

「・・・おはよう、シュン。」

「・・なんでセツナが?」

「・・・・それはこっちの台詞。・・・とにかく、今はあっちを見なさい。」

「え?」

セツナが示した方には、こちらに迫ってくる異形の悪魔の姿。

「ええ!!? ・・・なに、あれ?」

「・・知らないけど、このままだと殺されるわね、間違いなく・・・」

「・・・ええ?」


もう一度周囲を見渡すシュンと呼ばれた少年。

そして必死に立って戦おうとするが、ダメージが大きすぎるのかなかなか立てないでいる青年と、

・・・同い年くらいの子2人に治癒の魔法を施されている、

一目で重症とわかる・・、先ほどシュンを助けようとしてくれて捕らえられた女の人がいた。

「・・・あのお兄さんはあいつにやられたの?」

「・・・そうよ。」

「・・・・あのお姉さんも・・・・・?」

「・・・・・その通りよ。」

少年はこうつぶやきながら、ユラリと立ち上がる。

「・・・風よ・・・・・」



悪魔は・・・もはやほぼ完全に悪魔と成り代わった男は余裕であった。

確かに自ら言ったとおり、先ほどの威力の魔法を喰らってはこの強靭な肉体でも大丈夫とはいえない。

あの時助かったのはとっさに近くにいた骸骨兵数体を盾にしたことと、広範囲に魔法を使った結果、一人一人への攻撃力が落ちたためであろう。

だが、それを撃ったらしい子供は魔力を使い果たしたのか疲労困憊。

他にも魔法を使えるものがいるようだが、攻撃してこないところを見るとそれほどの魔力は持たないのであろう。

・・・いや、あれほどの魔力を持つのが異常なのだ。

だから、魔力を使い果たした子供と、先ほど人質として使った子供が何やら話していても気にも留めなかった。

そして、人質に使っていた方の子供がユラリと立ち上がり・・・


「・・・風よ・・・・・」

「ナニ!?」

男、いや悪魔は見た

少年の身体から目に見えるほど強大な魔力が放出され、

「す、すご・・・」

「ほらキセイ、手を休めないで!」

「う、うん」

少年を中心にすさまじいまでの風が逆巻き、

「こ、これは・・!?」

「・・まったく、」

「ああああああああ!!!!!」

とてつもない威力の突風の魔法が悪魔に向かって撃ちだされる。

「ナ、ナンダトーーー!!?」

「・・・本気を出せば私と同等、・・・いえ、それ以上の魔法が使えるのに。」


「グアア、コンナ、ワレノ、キョウジンナ、ニクタイガ!!!」

その強烈な突風の魔法は、悪魔をズタズタ・・いや、後も残らないように切り刻み、

背後の壁と何本かの木々を同様にし、しばらく後収まった。

「・・こんな風にね。」

「・・・・・・」



――――――――――――



危機は去って、力を使い果たしたのか少年がへたり込む。

「・・・ご苦労様、シュン」

「・・・はは、ありがと・・・」

健闘を称えるセツナと、それに応えるシュン。

この二人がどういう関係なのかラルは聞きたかったが、そのとき、

「よっし!これで命に別状無し!・・後はしばらく休めば大丈夫!!」

「や、やった・・・」

声のほうを向くと、汗をぬぐうセイカとやはり魔力を使い果たしたのかへたり込むキセイ。

・・・そして、まだ意識は戻らないが肩の傷はほとんど消え、幾分穏やかそうに見えるタリアの姿が。

それを確認して安心するや、2人分の寝息が聞こえる。

もしやと思って見てみると、壁を背中に2人で肩を支えあう形で眠るセツナとシュンの姿。

「はは・・・」

その様子がなんともほほえましく見ていると、キセイたちの方でも

「・・セイカ、僕も疲れたからちょっと休んでいい?」

「ん? ・・・私のほうがいろいろやったはずだけど、ま、いいわよ。」

「ありがと・・」

言うや否や、こちらは床にばたんと大の字―にしては子供なので妙に小さいが、―となってあっという間に寝息を立て始めた。

「・・まったく・・・」

といいながらもなんとなく嬉しそうにラルの方を向くと、

「ラル様、ラル様もしばらく休んでください。」

「・・いや、しかし・・」

確かにラルもダメージがまだわずかに残っているので少し休みたいところだが、そうなるとセイカ一人になる。

もう大丈夫であろうが、それでも気が引ける思いでいると、

「もう大丈夫ですよ!なんにせよみんなが起きないと帰れませんし、ラル様にはタリアさんをおぶって帰るための体力を回復して欲しいので!」

「あ、わ、わかった。」

なんとなく慌てて休むようにするラル。その場に横になりながら、

(確かに言っていることは道理だが、なんとなく有無を言わせぬようなところがあった気が・・・)

などと考えながらも、やはり疲れていたのだろうか、眠りにつくラルであった。



「・・・さて」

先程自身が言ったようにもう大丈夫であろうが、念のためタリア―と、キセイ―が見える位置に座るセイカ。

その表情は、やはりどこか嬉しそうである。


「お疲れ様、キセイ」

「・・ラルさん、セツナ、・・・そしてシュンもお疲れ様でした。」




― 荒涼とした廃墟に、 ―

― しばし少女の声が響き渡った・・・・・ ―

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