第一章 出逢い ~子供たちの力~

「・・・なんで、こんな状況に・・・・・」

 ラルはため息をつかずにはいられなかった。



 そもそも一人で旅立った、付け加えれば結構シリアスな状況だったはずだ。


 なのにそれは、いつしか「3人」の、賑やかともいえる、旅へと変わっていた。


 その内訳は、20歳前半の見るからに戦士のいでたちをした青年-これがラル-と、

 5歳になるというやたらにぎやかな少女(幼女)

 そしてその少女にからかわれている一つ年上の少年(つまり6歳)となっている。


 その若い・・というよりも幼い二人の会話も、

「とかいって、自分はまだそのくらいの魔法しか出せないくせに」

「うっ・・・」

 と常にこういった感じなのである。


 ラルは子供が苦手というわけでは特に無い。

 それでも、それなりの決意で街を出たはずが、気づけば一見、単なる幼児二人の保護者役。

 ・・そんな今の状況を考えれば考えるほど、身体の力が抜けてくるような気がするラルであった・・・


「どうしてこうなった・・・」




 ― 時は少し遡る ―


 ラルの旅の目的地は、ラルが生まれ育った街からほぼ真北にある。

 しかし最短ルートを通ろうとすれば、‘ゲル砂漠’という砂漠地帯を通らねばならない。

 その地は文字通り見渡す限り一面の過酷な砂漠であり、そこを通るものはめったにいない。

 しかも迂回して北にいけるきちんとした街道があるとなれば、普通の旅人ならどちらを選ぶかは明白であろう。

 ラルもそんなにゆっくりできる旅ではないが、あえて危険な砂漠を通るまでも無いだろうと判断して街道ルートを取った。

 ・・・そこで、二人の変わった子供たちと出会うこととなる。


 東に大山脈を望み、西に広大なゲル砂漠に面する、実質‘北と南をつなぐ唯一の場所’であるラスの関にラルが着いたのは、昼も少し下がったところであった。

 関と名はついているが、近くにあまり街が無い都合上ちょっとした宿場町ともなっている。

 この関を通るために必要な条件は特に無い。

 ・・無論、指名手配されている罪人とかならば問題だが、もちろんラルは罪人ではないので、すぐに通過する「予定」であった。

 ・・・そう、「予定」である以上、そうなるとは限らない。


 最初は、多分に主観は入るものの、まあ普通だった・・・

「旅の方ですか?失礼ですがお名前を。」

「・・・ラルと言います。」

 ここで通常ならば帳簿調べが始まる。

 無論、指名手配の罪人などが真正面から堂々と本名を名乗るはずも無いのだが、それはそれ職務と言うやつである。

 まあ、希に本人たちも手配されていることを知らないとか、ついうっかり喋ると言ったことが皆無ではないので、全く効果が無いわけではないのだろうが・・・

 だが、ラルと同じかやや年上と言った感じの門番は、名前を聞くなり帳簿を見ようともせず、

「!ああ、お父上の使いか何かでしょうか?」

「・・・まぁ、そんなところです。」

「そうですか。ではお気をつけて!!」

 そう言うと、あっけなく検問を開ける。

 ・・・どうやら、今生の英雄の一人であり、近隣の街の長でもある人物の息子であるラルの名をどこかで聞いていたと言ったところであろう。

 いつもこうという訳ではないが、まあ、ラルにとっては普通の範疇である・・・


 ― そしてここからが、普通とは異なっていた ―


「魔物だーー!!魔物の群れに子供が2人襲われてるぞーーー!!」

「なんだって!?」

「くっ!」

 声のするほうを向くと、確かに少し遠くで魔物の群れが暴れている様子が見えた。

 魔物 -どこからか現れる凶暴な生物。多くは野生の肉食獣と同じ様なものと思っていい。もちろん別の名がつくからには違いがあるのだが-は、ここから見る限りこの地方では珍しくない、凶暴な犬に近いタイプのようだ。

 だが、こんな宿場町の近くに現れるケースはあまり多くない。・・・ひょっとしたらこれもあの邪気の影響なのだろうか。

 しかも魔物の出現を叫んだ男も戦士というわけではなさそうだ。そうなるとラルと門番が魔物の群れに一番近い。

「あの群れに子供二人はまずいな!!」

 躊躇せずラルは群れに向けて駆け出す。

「子供たち救出に向かいます!この場はお願いします!!」

 ラルは剣を、門番の青年は槍を手に持ち駆け出す。それは戦士としては当然の行動とも言えよう。

 ・・・だが、後で思い返した時、「ひょっとしたら、いらなかったのかもな」ともラルは思うこととなる。



 ― どうもその喧騒に、なにやら違和感があった ―


 確かに魔物が4体程いる中に子供が2人いた。が、

「・・・あれは、襲われてるというのか?」

 と思わずつぶやかずにはいられなかった。

 ・・・というのも、当の子供たちに、全く怯えた様子が見受けられない。実際、こんな会話が。

「っ!もう、多い!!」

「・・・でもこれだけで、終わりみたいだよ?」

「やれやれね・・・」


 これはいったいどういうことだろうか?

 ・・・一見して、かわいいというより、まだ愛らしいと表現した方が近いと思われる女の子と、幾分頼りなさげな少年・・というよりまだ男の子の会話にしては物騒すぎる

 だが、ラルは父には及ばないにしても、(少なくとも本人が思っているよりは)一流の戦士である。

 そのような疑問は一旦頭から払い、剣を握り、駆ける。

 2人の子供のちょうど死角と思われるところから、一体の魔物が飛びかかろうとしていたからである。

「そこの2人!伏せろ!!」

 ラルの声にいち早く気づいた女の子が、とっさに男の子を押さえるように、自らも伏せる。

「てやっ!!」

 気合一閃!魔物は胴体を大きく切り裂かれ、次の瞬間、消滅する。

 それをきっちり確認し、残りと対峙しようとする。・・が、

「ボーッとしない!ちょっと捻挫しちゃったじゃない!」

「ご、ごめん。後で治すから・・・」

「当然よ。全く・・・」

 おろおろしている男の子を尻目に、女の子はなにやらぶつぶつつぶやくと、

「ハッ!!」

 と両掌を残っている魔物たちのほうに向ける。すると、どうだろう。

 ゴォーーー!!「ウギャァーーーーー!」

 突然、強風・・いや竜巻が3体の魔物をまとめて飲み込み、次の瞬間には魔物は消滅してしまっていた。

「「なっ!?」」

 それを見たラルと門番は、目を疑い、瞬間的に声すら出すことができなかった。


 ・・それも当然であろう。

 女の子が‘風の魔法’を使ったのも驚きだが、それ以上に尋常な威力ではなかったからだ。確かに先ほどの魔物は、魔物としては並以下―いわゆる雑魚―の部類に入り、魔法に対する抵抗力がほとんど無い。

 加えて‘風属性の魔法’というのは、魔法の中ではかなり一般的な部類に入り、使えるものはそれなりに多いとも言える。

 ・・・しかしそれを差し引いても魔物を3体同時に、一撃で消滅できるものは・・・しかもあんな小さな子供が!!


 だが、ラルたちの驚きはそれだけでは終わらない。

「ほら、終わったわよ。さっさと治して!」

「わ、わかったよ。人使い悪いんだからぶつぶつ」

 不平を垂らしながらも、男の子が女の子の足首に手をかざす。やがて少年の掌から水色の球が出て、女の子の足首の腫れがひいていく。

(男の子の方も魔法使い!?)

 もはや目を点にするしかないラルと門番のもとへ、2人の子供が近づいてくる。

 どうやら先ほどの捻挫を含め、怪我などは無いようだ。・・・それも男の子の魔法で治したのかもしれないが・・・

「助かりました、ありがとうございます。・・・ほら、あんたも!」

「あ、どうもありがとうございます・・・」

 深々と頭を下げる女の子と、うながされて頭を下げる男の子の姿。続けて女の子が何気なく、とんでもないことを言う。

「えっと、門番の方たちですか?私たち‘北の闇’に向かっているんですけど、通してもらえませないでしょうか?」

(!・・北の闇、だと・・・)



「‘北の闇’?・・・聞いたこともない地名だし、子供2人だけで行かせるのは、」

「私たち、そんなに弱くないですよ?」

「・・・まぁ、そうかもしれませんが、規則として・・・」

「・・・俺が同行します・・・」

 傍らにいたラルの言葉に、残り全員はそろって彼のほうを見る。

「俺が保護者として一緒に行きます。それなら構いませんよね?」

「しかしラル殿、よろしいのですか?」

「・・・ええ。」

「・・・ラル?」

‘ラル’と言う名に女の子の方が反応したのを、ラルは見逃さなかった。しかしあえて追求などはせず、

「二人の名前は?」

「あ、私はセツナといいます。で、こっちの頼りないのがキセイです。」

「頼りないって。・・・えと、キセイです。」

「セツナとキセイ、か。・・・ここを通るとなると俺が同行することとなるが、それでいいか?」

「・・・はい、お願いします。」

「うん、お願い。」

「ということで、後は任せて職務に戻ってください。・・・では、二人とも行こうか。」

「・・・はい。」

「うん!」

「・・・わかりました。お気をつけて。」

 こうしてラルは門番の青年に見送られ、2人の子供とともにラスの関を後にしたのであった。



 ラスの関を抜けて、しばらく歩く。門番から見えなくなるところくらいまで行くとラルは突然立ち止まり、

「さて・・・」

 と2人の子供のほうを振り返る。その表情はこれまでより厳しい。

「お前たちは何者だ?なぜ‘北の闇’に向かおうとしている・・?」

「・・・この良くない気が北、おそらく‘闇の聖地’から出ていることに気づいてないはずはありませんよね?・・・‘北の英雄レイル’の息子であるラル様なら?」

「・・・やはり俺のことや‘闇の聖地’の場所まで知っていたか・・・」

 その途端、女の子、セツナの表情が一転。喜びのそれに変わる。

「えっ!?ホントに?本当にあのラル様ですか!?」

「あ、ああ・・・」

 セツナの変容に若干たじろぐラル。

「うわー、やったー!! こんなに早く勇者ラル様に逢えるなんて!!」

「へ~、お兄ちゃんて勇者なんだ。かっこいい!」

 無邪気に騒ぐ子供たちを横目に小さな声でつぶやく。

「・・・俺は、勇者なんかじゃない・・」

 だが、そんな呟きなど、はしゃぐ子供たちに聞こえるはずも無く、

「何言ってるの!‘北の英雄’、レイル様の息子にして勇者のラル様よ!!」

「ええっ!?お兄ちゃんのお父さんもすごいんだ!!・・ますますかっこいい!!」

 再び驚き、はしゃぐキセイ。だが、逆にセツナの方はあっけに取られたように、

「・・・って、あんた。‘北の英雄’の話、聞いたことないの?」

「うん、聞いたこと無い。教えて。」

「教えて」と言われてちょっと困った感じになるセツナ。・・・これは詳しく知っているという訳では無いな。

「えと、・・・そ、そう!ちょうどいいからラル様ご本人に詳しく教えてもらいましょう! ・・・ラル様?」

 上目遣いで見つめるセツナ。・・将来、どうなるかはわからないが、少なくとも現時点でその視線に色気は無い・・・当然のことだが・・。

「・・・まぁ、ざっくり言うと、北の地方を支配しようとしていた悪い魔法使いを倒した功績から「北の英雄」と呼ばれるようになった風に俺も聞いている。」

「へー、そうなんだ。」

「・・・ひどい・・」

 ものすごく端折って説明したことに、不満げなものが約一名いるようだ。

 ・・・だが、父とは言え、いや実の父だからこそ、身内の功績を説明するのはこそばゆいんだよ!

 まぁ、それ以外の大きな理由もあるにはあるんだが・・・


「・・・俺のことはさておき、さっきの質問に答えてもらおうか。何故、「闇の聖地」の場所を知っている?」

 先ほどと同じ問いかけを行うと、何故かセツナはキョトンとし、

「??そう言われても、ただ北側に良くない闇の気がとんでもなく大きいところを感じるだけです。・・・となると闇の聖地でしょう?」

 ・・・まぁ、あれほどの魔力を出せるなら他の気も感じ取れるであろう。この言葉も否定できない。だが、

「・・・では何故、そこに向かおうとしている?」

 と言う疑問が出てくる。そのまま問う。

 ・・・するとまたもやキョトンとした感じで、

「これほど大きな良くない気を感じたら、原因を調べようとするの、何かおかしいですか?」

 などとあっさり返された。・・その屈託の無さに、今度はラルのほうが唖然としてしまう。

「・・・それは」

「ラル様もそうではないのですか?」

 ・・・俺は初対面の不可思議な子供たちに疑念を抱いたことはともかく、このような質問をしたことを悔いた。

「・・・そう、だな。全くその通りだ。」

「あ、そういった理由だったんだ。てっきり‘八創士’、だったっけ?に、会ってみたいからだと思ってた。」

「そうそう、‘闇のターク’といえば八創士の中でも特に強い・・・って、それだけが理由じゃないもん!」

 ・・・ということは、理由の一部はそうなのか。

 ・・・なかなかのノリ突っ込み&墓穴っぷりに、人知れずため息が出てしまう。


「まあ、理由はとりあえず分かったが、子供2人だけでは危険だぞ。・・・例え強力な魔法が使えてもな。」

「? だから、ラル様が一緒に来てくれるのでしょう?」

「・・・なに?」

 俺は幾分しかめっ面になる。・・・先ほどの会話でこの子供たちがあぶない存在ではないとは思える。しかし、

「さっき保護者代わりになってくれるって」

「いや、ああでも言わないと面倒なことになりかねないので、とりあえず言っただけなのだが・・・」

「でも、確かに言ったよね~」

 と、余計なことをキセイ。・・・たしかに目的はほぼ同じではあるし、戦力的に足手まといになるとは・・・

「クェーーーーー!!!」



「「「!!!」」」

 突如けたたましい鳥類の叫び。驚いて全員上空を見ると、鳥形の魔物の群れ。・・その数ざっと30・・

「しまった!・・・こんなにいて気づかないとは」

 この魔物もそれほど珍しくないし、強さ的にはそれほどでもない。だが、

「来た!」

 魔物のうち一体が急降下してラルに向かってくる。素早く一閃。魔物は消滅する。

「あ、速い・・・」

 そう、この魔物の動きはなかなかに速いのだ。

 この間物に見慣れたものや剣の熟練が高い者なら、落ち着いてさえいれば対処できるが―ラルの場合はその両方といえよう―、逆を言えば、そうでなければ不覚を取りかねない相手ともいえる。

 ・・・しかもこれは1対1での話だ。

「くっ、今度は2体同時か!!」

 ラルをなかなかの敵と見たのか2体同時、それもラルの側面方向からそれぞれ向かってくる。

「せやっ!!」

 下がりつつ右からの敵を斬り、返す剣で左側をすかさず両断。・・しかし、

「!!・・・後ろからもか!!」

 敵の攻撃は2体で2面同時ではなく、左右と後ろからの3面攻撃だったのだ。・・何とかそれに気づいたが、その時にはやや遅く、

(致命傷は避ける!)

 と、対処しようとした瞬間!

 バシューーー!!

「クェッ!?」

 両者の目の前を横切る何かに、瞬間的に動揺する魔物。その一瞬で熟練戦士であるラルには十分。一刀で魔物を消滅させる。

 そして、それが飛んできた方向を見ると、

「水球(みずだま)・・・当たんないし・・・」

 と言いながら、少し落ち込んでいるキセイの姿があった。

「落ち込んでる場合じゃないぞ!まだかなりの敵が」

「詠唱終わり。 ・・・いっけーーーーー!!!」

 ゴオオオオオオオオ!!!

「「ウギャーーーーー!!」」

 と突然、巨大な竜巻が出現し、瞬く間に魔物を飲み込んでいく。

 ・・・その大きさ、威力はすさまじく、残った20数体の魔物が跡形も無く消滅していた・・


「・・・な、なに・・・?」

 これにはさすがに唖然とするラルをよそに、得意げにセツナ。

「あの動きを捉えるのは大変だけど、あっちが空にいるうちに全体攻撃すれば問題ないよね。」

「あ、そっか・・・」

「もっと頭「も」使わないとね、キセイくん。」

「‘頭も’って、・・ひどい。」

「・・・・・」

 セツナの戦法は確かに有効ではあるが、それはあれだけの強力な魔法が使えるならの話だ。

 前提からして、常人のそれではない・・・


「・・・わかった。」

「・・・え?」

 キョトンとしてラルのほうを見るセツナ。こんなところは年相応なんだなと苦笑しつつ、

「保護者役、引き受けよう。一緒に闇の聖地に行き、この邪気の原因を突き止めよう。」

「ホントですか!?」

「ホントに?」

「ああ、頼りにしてるぞ、2人とも。」

 これは俺の偽らざる気持ちだ。

「あ、ありがとうございます!」

「やったー!」

 ・・・本当にこの子供たちは頼りになる。むしろ足手まといなのは、俺の方なのかも知れない。

 魔力の大きさは基本的に生来変わらない。希に何かの弾みで強大化したり弱体化することも無いではないが、それも一種の才能と言えよう。

 ・・・子供たちの類稀、と言うより異常ともいえる魔法の才能に、ラルは少し嫉妬したのかも知れない。

「あの~、それでこれから行くところですが・・・」

「?このまま‘聖地’近くまで街道を通るつもりだが?」

「・・・それは問題ないのですが、できれば‘精霊の森’にも寄って欲しいな~、なんて」

「精霊の森?」

 その場所はここからほぼ真北にある。目的地‘闇の聖地’のほぼ南東だ。

「・・・まぁ、街道からそれほど離れてもないし、寄ってもそれほど時間はかからないが、そこに何かあるのか?」

「・・・なんとなくですけど。でも、行かなきゃいけない気がするんです!!」

「あ、これが‘女の勘’ってやつだね。」

「・・・その使い方は多分違う。」

 というまでもなく、キセイはセツナに叩かれた。

「・・・まあ、無理に反対する理由も無いし、構わないが。」

「ありがとうございます! それともう一つお願いがあるんですけど!!」

 嬉しそうに礼を言うと、さらに意気込み、むしろこっちが本命とばかりにラルに詰め寄るセツナ。

 あまりの勢いにたじろぐラル。・・・そこに、学習能力が無いのかキセイが、

「さっきからお願いばっか、デッ!?」

 みなまで言わせず肘うちをかますセツナ。・・なかなかの速さだ・・・

「・・・もう一つ、頼み?」

「えと、・・・サインください!!」



「・・・は?」(ラルはあっけにとられている)

「・・・・・」(セツナは恥ずかしそうに黙って返事を待っている)

「ゲホゲホ」(キセイは今だむせている)

「・・・えと、サイン?」

「はい!この色紙に一筆お願いします!!」

 いつの間にやら色紙に加えマジックが手元に。いったいどこに持ってたんだ?いや、聞くまい・・・

「・・・サイン、と言われてもな。」

「ラル様の名前を書いてもらえばいいですから!!」

「え、と、これでいいのか?」

「はい! ・・後できれば隅のほうに「セツナへ」と・・」

「あ、ああ・・・「セツナへ」、と・・・」

「あ、ありがとうございます!!!レアものゲットー!!!」

 サインなど書いたのは生まれて初めてなので、確かにこの世に一枚。・・・そういった意味では確かにレアだろう。だが、

「・・・書いたやつが有名ではないと、自慢にはならないだろうに。」

 そんなラルのつぶやきは、無邪気にはしゃぐセツナには聞こえない。そこへやっと回復したらしいキセイが、

「・・・えっと、これで2人は‘ふうふ’?」

「・・・何故、‘勘’の漢字は知ってて、‘夫婦’の漢字は知らないのか・・・じゃなくて、どこから突っ込めばいい・・・」

 あまりに意味不明なキセイの発言に、瞬間的に意味不明になるラル。

 さらにセツナが何故かもじもじしながら、

「・・そんな、まだ夫婦までは・・・」

「‘まだ’って何だ!?・・・というか照れるな!!」

 ・・もちろんそんな叫びは、空に虚しく響き渡るだけだ・・・



 -・・・何はともあれ、青年は不思議な子供たちと出逢った -

 ― そしてそれが、仕組まれたことだと知らされるのは、まだ先の話・・・ ―


 -何はともあれ、こうして一行は3人となった-




「・・・ホント、どうしてこうなった・・・」

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