第八十三話 絆の力<中編>

湖底に刻まれた魔方陣の光度が強くなり、五芒星ごぼうせいの紋様に五色の輝きが灯ると、東西南北に配置された塚に浮かぶ白と黒の駒も一層の光を放った。

駒が魔方陣の数字を表す。

北方玄武塚に一と六、南方朱雀塚に二と七、東方青龍塚に三と八、西方白虎塚に四と九、中央には五と十。

私は頭のずっと奥の方、脳の神髄に映る光り輝く晴明桔梗の図式に意識を集中させた。

頭上に輝く新月の五芒星ごぼうせいの下、すばる様と一緒にしゅを唱える。



『北方玄武!!!!!』



玄武塚の真上で雷鳴がとどろき黄金の電流が一つところに集中すると、一気に地上へ落雷する。轟音と共に玄武塚が聖なる光に包まれて、清らかな水をたたえた黒き巨大なぎょくが出現する。

玄武様が大地を揺らす雄叫おたけびをあげる。



『南方朱雀!!!!!東方青龍!!!!!』



天が閃光とともにいななき、一瞬で朱雀塚と青龍塚に巨大な雷電が突き刺さった。

南に鳳凰ほうおうの如き聖火に包まれた巨大なぎょく、東に気高き蒼茫そうぼうたる青龍の如きぎょくが出現すると、朱雀すざく様と青龍せいりゅう様が力強く咆哮ほうこうする。



『西方白虎!!!!!』



私たちの言霊ことだまに呼応して、湖の西側に隆起した巨大な白虎塚に凄まじいいかづちが突き立てられた。落雷の轟音とともに巨大なぎょくが出現する。

まるで超高度の金剛腕を持つ白虎びゃっこの如き、全方向全反射の輝きを放つ球体が浮かび上がると、白虎が獣の雄叫おたけびをあげる。



『我らここに四神の御霊みたまを合わせ、新月の五芒星ごぼうせいう!!!!!』



天空の新月の五芒星ごぼうせいを見据え、私と昴様が強く印を結ぶ。

同時にグワンとした重力の圧が重くのし掛かる。

黄竜こうりゅう様のたける力に体の均衡が奪われて、その圧倒的な力に押し潰されそうになった。


おうちゃん、しっかり!!!」


倒れそうになった私の体を昴様の力強い腕が支え直した。

私は必死に大地を踏み締めて立ち上がり、ブレる視点の位置補正を行う。

吹き飛びそうになる意識を定め、心を水平に保ちながら、荒ぶる神龍の霊力を魔方陣へ充填じゅうてんさせていく。

黄金に輝く黄竜様の力が魔方陣に注ぎ込まれる程に、私たちにかかる負荷が大きくなっていく。

荒れ狂う力に体を激しく揺さぶられ、一瞬でも気を抜けば体がバラバラにされてしまいそうになる。


--苦しい・・。


再び、体の均衡が崩れそうになった時、不意に、かぐわしい香りが鼻先をかすめ、ふわりとした清らかな手が、私たちの印を結ぶ手の上に重ねられる。


「・・・椿つばき?」


昴様もその気配に気づく。


————『桜ちゃんならできるわ。信じてる。』


一瞬、優しい微笑みが見えたような気がした。

私は自分の意思をもう一度奮い立たせて、崩れかかった体勢をを必死に立て直し、印を強く結んで意識を集中させる。

それと同時に魔方陣の動力が瞬時に加速。


--私は自分の力を信じる!神様から与えられた自分の使命を果たす!


昴様と一緒に二つの言霊ことだまを唱える。



大蛇オロチ蘇る時又神に剣を賜わらん!星の授け給ふくしと共に!汝其剣を以て大蛇を討ち果たせよ!!!!!』



大地に結ばれたしるし・魔方陣の光量が一気に増すと、五芒星紋様の中心片側半分に白い勾玉まがたまが浮かび上がった。

続けて、天照大御神アマテラスオオミカミ様の御神託、安倍晴明様の言霊ことだまを祈りとともに叫ぶ。



『新月の五芒星ごぼうせいより金色の印を給ふ後胤こういんくしと為り、日より剣を賜わる使ひと災を払ふべし!!!!!』



今度は魔方陣の中心片側半分に黒い勾玉がはっきりと印されて、左胸の五芒星ごぼうせいからかつてない強い光が溢れ出した。

私と昴様がしゅを解き放つ。



黄竜こうりゅう!!其の尊き霊験れいげんを我ら陰陽師に授け賜え!!!!!』



龍神の雄叫びの如き雷鳴が轟くと、稲妻が天空をほとばしる。

刹那せつな、瞬きのうちに強烈な光を放った新月の五芒星ごぼうせいから数億の光の矢が一気に魔方陣へ射込まれた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る