第七章

第八十二話 絆の力<前編>

気が付くと、私は湖底に浮かび上がった魔方陣の中心にうずくまるように倒れていた。

天空に浮かぶ新月の五芒星ごぼうせいが神々しい光を放ち、大地を照らす。

体を貫いた凄まじい電流が血潮と共に全身を駆け巡り、溢れかえった熱量が荒れ狂う龍の如く線状閃光となってあたりに放電された。


「うぅぅ・・・、あぁ・・、ぁあああ!!!」


心臓はドクリドクリと生命の鼓動を繰り返し、そこから送り出される高熱の血液が体内を循環する。一瞬でも気を抜けば体中を暴れまくる巨大な力に負けてしまう。


--これが黄竜こうりゅう様の力!!ダメ・・、力が、・・・強すぎて押し潰されてしまう・・!!私一人ではこの力を制御しきれないの!!?


黄竜こうりゅう様の力強い言葉が私の意識に語りかける。




おう、汝の真の心を示しを結ぶ時、そなたの真の力が覚醒せん。』




--大地の印・・?魔方陣のこと!?


天の雷鳴は次々にとどろき、無数の強烈な閃光せんこうが私の体をつらぬく。衝撃と共に上からのし掛かるような強い圧によって、体がさらに大地に押し付けられ、自由な身体の動きを抑制する。


「桜ちゃん!!!」


強烈な放電が私とすばる様の間をはばむ。

再び、巨大な落雷が私を襲い、凄まじい霊気が私の体へ蓄積されて一向に強度を増していく力に太刀打ちができない。

私は抗うこともできぬまま、今にも気絶しそうな意識を必死に保とうとした。


「桜ちゃん待ってて・・、今、行く!!」


黄竜こうりゅう様の霊気は張り巡らされた結界のように私を取り囲み、円状に放電される黄金の閃光が龍のようにあたりへ広がっていく。

昴様が放射される霊気をまともに受けながら私の方へ歩みを進める。


「・・・昴様、・・こっちに、来ては・・ダメ!・・うぅ、あああぁ・・・!!!!!」


近づいた昴様の手が私に触れようとするけれど、強い力に弾かれた。それでも昴様は腕を伸ばして猛る霊気が充満した私の体を抱き起こす。バチバチと閃光が走り、昴様の体に強力な電流が纏わり付いて、その顔が苦悶に歪んだ。


「・・・黄竜こうりゅう様の力が強すぎて私には制御ができないのです。けれど、魔方陣を完成させなければに黄竜こうりゅう様の力が完全には覚醒しない・・。」


「諦めないで!一人でダメなら俺の呪力も使って黄竜こうりゅうを制御する!!一緒に災いを討ち果たすんだ!!!」


昴様が私の体を支えて力強く立ち上がる。

その息は荒く、昴様の呪力でさえ神龍を抑えることは難しい。

私たちの体に与えられる負荷は想像を絶していた。


「昴様・・。」


昴様が背後から腕をまわして私の体を支える。


「桜ちゃんは俺と同じ陰陽師なんだよ!そのことをずっと教えてきたつもりだ。自分の力を信じて!!」


--自分の力を信じる・・。


私は頷き、両手で印を結ぶ。

左胸の五芒星ごぼうせいの熱量が一気に増幅、溢れ出る力の反動で意識が飛びそうになった。後頭部を殴られた様な強い衝撃が襲い、体中を駆け巡る荒ぶる力に何もかもが張り裂けそうになる。

体の重心は定まらず、頭上から強く押し付ける重力が体の均衡を許さない。


「俺もしゅを唱える!一緒に魔方陣を完成させるんだ!!」


昴様が私の印を結んだ手を包むようにして同じく印を結ぶ。その瞬間、力がさらに増幅されて私たちの周りへ光の波紋が一気に広がると、魔方陣に浮かぶ紋様が光の波を追いながらさらに輝きを増していく。眩しいほどの光が大地を鼓動させ、光の波紋が次々と円形に広がりその威力をさらに増幅させる。



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