第七十五話 友達<番外編・二>

「先生たちに会いたくないんでしょ?そうしたら、ガマのおじさんのところに遊びに行こうよ!!」


「ガマのおじさん?」


「うん!この前友達になったんだ!饅頭が大好きなでっかいカエルだよ!!」


「え・・?カエルが饅頭って・・、すばるくん、いつも変わったこと言うよね。」


男の子が女の子のようにクスクス笑う。


「うん!僕もみんなに変わってるってよく言われるよ!!」


「ふふ」とすばるが笑った。

男の子も笑う。


「でもさ、どうやって誰にも見つからないようにここから出ればいいの?家の周りにも警備の者がたくさんいるよ?」


「ふふ、それはね!」


昴が自分の着物のふところに手を入れてゴソゴソと何かを出そうとする。

しかし、中々目当てのものが見つからないようだ。


「あれ?んーと・・、ここじゃなかったかな?ん??どこ行ったの???」


すると、胸元から一匹の白いふわふわの生き物が顔を出した。


「あっ!いたー!!」


「な、何それ?猫?」


「ううん、小虎って言うの!かわいいでしょ!!」


昴が小虎のひたいに頬を寄せると、白いふわふわの生き物が嬉しそうに鳴く。


「この子にちょっといたずらをしてもらうから、その間に一緒に全速力でかけっこだよ!!」


「?」


男の子は昴の言っている意味がわからず首をかしげた。

それでも昴はお構いなしに小虎を放つ。


「小虎、行っておいで!・・ふふ、大人の人たち、みんなびっくりするよ!」


昴は何を企んでいるのか、面白くて仕方なさそうに笑う。

放たれた小虎がスルスルと木を降りて行くと、やがて、屋敷の中へ入っていった。


しばらくの間、風がそよいで周りの枝葉を優しく揺らす。

楽しそうな小鳥のさえずりが聞こえる。

心地良い風が吹き抜ける。

さわさわ、さわさわ、さわさわ。


すると突然、女たちの悲鳴が響き渡った。




「キャァァァァァ!!!!!虎よ!!!大きな虎がいるわ!!!!」




小鳥たちが一斉に飛び立つ。

その悲鳴を皮切りに屋敷中の者が「何だ何だ!」とひとつ所へ集まっていく。

もちろん警備の者たちも慌てて屋敷の中へ入っていく。

通りでは見物人たちが何事かと覗き込んでは、屋敷の庭へ雪崩なだれ込んで来る。

昴が男の子の手を引いて合図を叫んだ。


「今だよ!うーちゃん!!」


「え?どういうこと??・・って、すばるくんちょっと待ってよ!!」


昴と男の子は急いで木を降りると、一目散に屋敷の外へ向かって駆け出した。

二人は慌てる大人たちを尻目に全速力で走る。

大人たちの狼狽ろうばいしきった顔が面白くて、昴はたまらずに笑いながら走り続ける。

状況が飲み込めない男の子もなんだか可笑しくて笑い出す。


人だかりをかき分け、屋敷の門を抜け、大通りを横切って、路地に入り、京の都を走り抜ける。

騒ぎを聞きつけた大勢の野次馬たちは好奇心が抑えられんとばかりに、二人とは逆方向へ猛烈に走り去っていく。

街中から野次馬たちが屋敷へ駆けつけるのだ。

昴と男の子は無我夢中で走り続ける。


やがて、人もまばらになってきたところで二人は足を止めた。


「やったやった!!大成功!!!」


幼子たちは息を切らせながらも、顔を見合わせて大笑いをした。

すると、足元でナァナァと鳴く声がする。


「小虎!よくやったね!!大人の人たちびっくり仰天してたよ!!!」


昴が一仕事終えて戻ってきた小虎を抱き上げて愉快そうに顔を寄せる。

すると、可笑しくて涙目になっている男の子が尋ねた。


「すばるくん、一体何をしたの?」


「ふふ、秘密だよー!」


昴は片目を可愛らしくつむる。


「え!秘密って・・、ボクにも教えてよ!!」


男の子がほっぺたを膨らませて訴える。


「ふふ、があるから教えられなーい!」


「守秘義務って・・。もう!こういう時だけ陰陽師規範を出すのずるいよ!他の人に言わないから教えて!」


「ふふ、この前習ったばかりの言葉だから使ってみたかっただけだよ!しゅひぎむってこういうふうに使うんだね!」


昴が小虎の喉元を撫でながら可笑しそうに笑う。


「ふふ、後でうーちゃんにも小虎のいたずらのタネ明かしをするね!」


「うん!知りたい、知りたい!!」


男の子の目が好奇心で輝く。


「んーと、その前に・・、ひとまずガマのおじさんのところへ遊びにいこっか!って、そうだ!!カエルおじさんの好物のお饅頭をお土産に買わなくちゃ。えっと・・、僕のお小遣い・・、このくらいあるからお饅頭三つくらいはカエル!」


「・・・もう、何言ってるの、すばるくん。・・ふふふふふ。」


二人がお腹を抱えて笑い合うと、小虎が満足そうにナァナァと鳴いた。


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