第七十四話 友達<番外編・一>

ガマの一件を解決したすばるはすっかりガマガエルのあやかしたちと仲良くなった。

そんなある日のこと・・・


「こーんにーちわー!!!」


昴は、とある屋敷の門先で元気よく挨拶をする。


「おや?昴君か。いつも元気でいい子だね。」


昴が挨拶をするのと同時に門先から現れた男性が笑顔で話しかける。

男性はこれから外出なのか従者を連れており、その出立いでたちからどうやらこの屋敷のあるじのようだった。


「おじさん!!こんにちは!!!僕、遊びに来たんだけどおうちの中に入ってもいーい?」


「もちろん、いいよ。・・だけど、うちのせがれはさっきからどこへ行ったのやら・・ちっとも見当たらないんだよ。もしかしたら他所よその家に遊びに行ったのかもしれない。何にも言わないで出ていくなとあれほど言っているんだがね・・。」


あるじ眉間みけんしわを寄せて不機嫌そうにする。


「大丈夫だよ!!」


昴はそう言うと、そのまま駆け足で屋敷の中へ入っていく。


「お、おい!昴君!」


すると、従者の一人がおずおずとお辞儀をするとあるじに催促をする。


「恐れ入りますが、お時間の方が迫っておりますゆえ、お急ぎ願いたく存じます。」


「ふむ、そうだった。」


あるじは昴の後ろ姿を目で追いながら困ったように笑うとそのまま外出していった。

屋敷の庭は結構な広い造りで、松や楓が植えられ季節の花々が可憐に咲いていた。

大きな岩が所々置かれた一画では、岩の周りに砂利が敷き詰められており見事な枯山水を表現している。


「おっとっと・・・!ここは通っちゃダメ!」


昴は玉砂利で完璧に表現された水の流れを踏まないように、器用に避けて庭を走り抜ける。

やがて、屋敷の裏手の大きな木の下に到着した。

昴が思いきり息を吸い込むとありったけの声で叫ぶ。


「うーーちゃーーーん!!!あーーそーーぼーーーーー!!!!!」


少しの間を置いて、ザワザワと木の枝の一つが揺れた。

返事はない。

昴はもう一度、大きな声で元気よく叫ぶ。


「うーーーーーちゃーーーーーんーーーーー!!!!!」


ザワザワ・・と枝が揺れた。

すると、バツの悪そうな小さな声がする。


「・・・すばるくん、声、大きいから・・。見つかっちゃう・・。」


「ふふ。いつもそこに隠れてるの知ってるよ!!」


「・・だから、声が大きいってば!」


「待ってて!!今からそっちに行くからね!!」


昴は木の幹に手をかけるとスルスルと器用に登っていく。


「うーーちゃん、みぃーーつけたーーーー!!!」


昴が笑顔で言うと、木の上にいた人物が慌てて人差し指を唇に当てる。


「シィィィィィィィィィィ!!!静かに!!」


木の上の太めの枝に一人の男の子が座っていた。

男の子は水干すいかん姿の上から女性用の着物を羽織っている。


「うーちゃん、また女の子の格好してる。」


昴が無邪気に「ふふ」と笑う。


「・・変かな?・・ボク、どちらかというとこっちの格好が好きなんだ。」


幼い男の子は色白で華奢な体つきだった。

容姿はどちらかと言うと女性的で、整った色素の薄い顔立ちがさらにそれを際立たせている。

しかし、その瞳は物憂げに下を向いていた。


「ううん、変じゃないよ。うーちゃんに似合ってる。」


昴がそう言うと男の子が顔をあげた。


「・・ほんと?」


「ほんとうだよ!」


「・・・でも、父上も母上もお前は変だって言うんだ。だから人前で女の子の格好をさせてもらえない・・。ボクはこっちが良いって思ってるのに大人はどうしてダメって言うの?」


「・・・どうしてかなぁ?僕もわかんないや。でも、うーちゃんが好きならどっちでもいいんじゃないかなぁ?僕はうーちゃんの格好はキレイだと思うよ!だって、似合ってるもん!」


昴が無邪気に笑った。

うーちゃんと呼ばれた男の子は少し頬を赤らめる。


「・・・ありがとう、すばるくん。」


「どーいたしまして!ねえねえ、それはそうと一緒に下へ降りて遊ぼうよ!」


「・・ごめん、今日は家庭教師の先生が来る日なんだ・・。だけど、先生もボクのこと男のくせに変だって馬鹿にするから・・。だから、今日が終わるまでずっとここにいるつもり・・。」


「えー!ずっとここにいるの?」


「うん・・。先生にも、誰にも、会いたくない・・・。」


「そんなのつまんないよ!僕はうーちゃんと一緒に遊びたい!!」


すると、昴が良いことを思いついた。



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