第七十三話 魂の淵源<五>

天頂の燃え盛る月は動かないままだ。

けれど、月の周りで輝く数億の星たちが共鳴するかのように輝きを増していく。

一つ、また一つ、次々と流れるような光の連鎖。

不気味だった夜空が数えきれない星たちによって光り輝いていく。

すると、地獄の業火をまとった月が欠け始めた。


「月が!!」


月はその輪郭から徐々に欠けていく。

半月になり、弓張月ゆみはりづきになり、そして、漆黒の新月となっていく。

地上では地鳴りと金属音がさらに大きくなり、轟音ごうおんが私たちの耳をつんざいていく。

双子のお二人が叫んだ。


「湖の四方から何かが出てきます!!」


私たちの目の前で、西方白虎塚、南方朱雀塚、東方青龍塚、北方玄武塚が大地を破って山のように隆起していく。

天では、数億の星たちが不思議な音を奏でてはまたたき、地上では大地から無数の光の結晶がゆらゆらと舞い上がる。


すばる様・・、これはもしかして・・・、天照大御神アマテラスオオミカミ様が湖に施された絡繰からくり・・?」


「そうかもしれない・・。湖にこれほど大掛かりな絡繰からくりが仕掛けられているなんて・・、きっと、古文書に記された晴明様の予言は天照大御神アマテラスオオミカミ様の神託だったんだ!!」


目の前では地鳴りと一緒にガシャン、ガシャンという金属の爆音が轟き、巨大な塚が上へと盛り上がり続ける。

風が吹き荒れ、土煙が舞い上がった。


「一体、これから何が起こるというの!?」


突如、強烈な閃光せんこうが湖の周囲にほとばしる。

湖の四方を固めた巨大塚が、一気に光の線で結ばれていく。

まばゆい光が視界を埋め尽し、湖底を荒れ狂う炎の海が一瞬で消え失せた。

すると、湖の底に光の紋様が浮かび上がる。

その光景をの当たりにした私は息を呑む。


「この紋様は・・、私たち陰陽師一族の桔梗ききょうの紋!!」


私の言葉にうなずいて、前を見据えた昴様が続ける。


五芒星ごぼうせいの魔方陣だ!!!」


眼前に広がる湖底の大地に、光輝く五芒星ごぼうせいの魔方陣が浮かび上がった。

すると、巨大塚の周りに白と黒の不思議な光が現れ、段々と駒の形になっていく。

白と黒の光の駒が浮遊しながらそれぞれの数字を表す。

北方玄武塚に一と六、南方朱雀塚に二と七、東方青龍塚に三と八、西方白虎塚に四と九、そして中央、私たちのまわりには五と十。

私たちのいる場所は魔方陣の中心部。

天頂に留まる漆黒の新月がこちらを見下ろしながら、五芒星ごぼうせいの魔方陣は荒ぶる神の舞台となる。





ふわりとした柔らかい風が私の頬を撫でた。

同時に一筋の光が舞い降りる。





おう。』





優しい声が私に語りかける。





『桜、生きなさい。』





天照大御神アマテラスオオミカミ様のお言葉が私の心を優しく包む。





--この記憶は・・・。





『己の生命を信じなさい。その命の根源を信じなさい。』





--私の生命・・・。





『死とは必然、生とは偶然なのです。桜、お前はそのに気づいているはずです。』





天照大御神アマテラスオオミカミ様・・・。」





私は神の声を発する八咫鏡やたのかがみを見上げる。





『生きる喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、すべてをそのままに受け入れなさい。そして、考えなさい。生きて己の道を考え、探し続けるのです。』





天照大御神アマテラスオオミカミ様!!私は、この争いを終わらせます!そのために黄竜こうりゅう様の力が必要なのです!!」





『ならば、黄竜こうりゅうに己の信念を示しなさい。その心が正しきものならば、その力は自ずと己の内にある。それが、意志というものなのです。』





八咫鏡やたのかがみの中から天照大御神アマテラスオオミカミ様が語り続ける。





『望み通り、黄竜こうりゅうをここへ遣わせましょう。お前の意志が本物であるならば、その未来は必ず己の手にあるのです。』



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