第七十二話 魂の淵源<四>

左胸の五芒星ごぼうせいから強い光があふれ出した。


--???!!


止めどなく溢れる光は、私の体を優しく包んでいく。


--とても清らかな光が・・・、体のどこからか・・・、とても奥深いところから湧き上がる感覚・・・。


まばゆい光の糸が左胸から体を伝い、手や足や頭を次々におおっていく。

体中が光で満たされていく。



それは、温かく優しい光・・・。



力強い意志の光・・・。



生命の光・・・。



すると、真っ二つに割れたまま大地に伏していた八咫鏡やたのかがみがカタカタと震えだした。

二つの破片がゆらゆらと宙に浮かび上がると、ゆっくりと旋回をはじめ、そのまま白丸様と黒丸様に近づいていく。

驚いたお二人が頭上の鏡を見上げる。


「これは!!?」


「一体!!?」


ゆったりとした鏡の旋回は続く。

やがて、青銅器の鏡に不思議な光が宿る。

片方の鏡は白色に、もう片方は黒色に、少しずつその色が変わっていく。

白と黒の鏡がお二人の頭上をぐるぐると規則的に回り続ける。

しばらく回転が続くと、鏡から白と黒の気のうねりがあふれ出した。


白と黒のうねりの間から清らかな声が降り注ぐ。





『白丸・・・、黒丸・・・。』





二つの鏡の破片が声を発すると、回転は止まった。

鏡は言葉を続ける。





『片割れ同士の魂たちよ・・・。』





鏡がゆっくりと双子のお二人の元へ垂直に降下する。

白丸様の手には白い鏡の片割れが、黒丸様の手には黒い鏡の片割れが、お二人の手元にそれぞれの鏡が、その淵源えんげんかえるかのように舞い降りた。

お二人が恐る恐る片割れ同士の鏡を手に取る。





『我は太陽の神・・・。人々は我を天照大御神アマテラスオオミカミと名付けた・・・。』





割れた鏡が言葉を発するのと同時に、まばゆい光があふれ出す。


天照大御神アマテラスオオミカミ様!!?」


お二人が驚きながら手に持った鏡を眩しそうに見つめる。

鏡はさらに言葉を続ける。





『愛しき片割れ同士の魂たちよ・・・。今こそ自らのを思い出しなさい・・・。お前たちは片割れ同士の者・・・、すなわち・・・、その起源をさかのぼればその魂の根源は一つなのです・・・。お前たちは一つの魂・・・。されば、互いの魂を合わせて一つの力に戻るのです・・・。まさに、今ここで、自らの魂の真実を思い出すのです・・・。』





お二人の手にある鏡がカタカタと震えて共鳴音を奏でる。


「我々の根源が一つの同じ魂・・・。」


白丸様の後に黒丸様が続ける。


「片割れ同士の魂を一つにする・・・。」


すると、鏡の断面が光り出した。

一瞬、まぶしい光に目をつむる。

次に目を開けた時には、お二人が何かの力で引き合わせられるように互いの鏡を近づけようとしていた。


「!!!!!」


白と黒の鏡が静かに合わさった。


「鏡が・・・。」


割れた断面が端から徐々につながり始めると、一つの鏡に戻っていく。


「一つの根源にかえる・・・。」


一つになった白黒の鏡は、再び双子のお二人の手元から離れ、宙へと舞い上がっていく。

やがて、鏡が天高く昇ると、ぐるぐると回転を始める。



段々と鏡の回転速度があがり、白色と黒色が残像となって融合していく。

鏡がまばゆい輝きを放ち、辺り一面が光に包まれていく。


「!!!!!」


鏡から放たれる光量が最大になった時、私たちの頭上で回転が止まった。

そして、後光をまとった鏡がひとつの啓示を示す。


八咫鏡やたのかがみが・・・」


私が驚きで思わず言葉をこぼすと、すばる様も続ける。


陰陽太極図おんみょうたいきょくず・・・、神羅万象の図になった・・・。」


太極図となった八咫鏡やたのかがみりんとした美しい声を発する。





『さあ、その魂の根源を同じくする者たちよ・・・。自らの魂に問いかけなさい・・・。自らの魂に眠る真実の力を見つけなさい・・・。自らの生きる力を信じなさい・・・。そして、今こそ自らの尊い生命せいめいを解き放つのです・・・。』





次の瞬間、八咫鏡やたのかがみから強烈な光が放射した。

私たちはあまりのまぶしさに目を開けていられない。

すると、大地がわずかに振動を始め、次いで大きな揺れが始まった。


「な、何だこれは?!!!」


昴様の腕が私を守るように引き寄せる。

私の五芒星ごぼうせいからは光があふれ続けている。

白丸様と黒丸様も立っているのが精一杯な様子で叫ぶ。


「すごい揺れだ・・・、それに地鳴りも始まりました!!」


地底から湧き上がるように、大きな地鳴りが響き渡る。

やがて、地鳴りの中にガシャン、ガシャン、という巨大な金属音が混ざり出した。


「地底から地鳴りとは別の大きな音が聞こえます!!伯父上、これは・・・!?」


「分からない・・、巨大な何かが地下で動いているのか!!?」


湖の四方をまもる塚の仕掛けを解錠かいじょうした時と同じ金属音が、その音量を増して地底から湧き起こる。

私は昴様へ身を寄せた。


「一体何が・・・!!?」


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