第七十一話 魂の淵源<三>

呪いの雄叫おたけびが怨念となり天をつらぬく。

すると、天頂で不自然にとどまった満月が赤黒く燃え出して、にわかに湖からいくつもの竜巻が発生した。

湖水の流れは荒れ狂い、その濁流が急激に早くなっていく。

すばる様が叫ぶ。


「湖水がなくなっていくぞ!?」


前方の湖面では、中心点から濁流が渦を巻き、徐々に水位を下げていく。

同時に、沸点を超えた湖水が炎と一緒に巻き上げられて蒸発していく。

湖上では凄まじい風が灼熱の水蒸気を含みながら吹き荒れた。

四神たちが迫る熱風を跳ね返す。

やがて、湖が干上がると湖底が現れる。


「■§※ナ$イ!!!0※10全員1101皆殺し■ダ1!!!!^"01■§※??a!!!!!!」


憂流迦ウルカがこちらをにらみ付けて鋭く咆哮ほうこうした。

昴様が私をかばいながら刀を構えると、双子のお二人も身構える。

一方で、なぎ様は憂流迦ウルカの呪術にとらわれたまま苦しみにもだえていた。

憂流迦ウルカが再び凪様を捕らえる。


「若様!!!」


双子のお二人が叫ぶけれど、凪様は連れ去られていった。



凪様を捕らえた憂流迦ウルカが湖底の中心に降り立つ。

その巨体から赤黒い炎が波紋のように広がると、またたく間に地獄の業火が湖底をおおい尽くした。


憂流迦ウルカの巨体は異様な動きでうねり続ける。

前方を見据えた白丸様が叫ぶ。


「・・憂流迦ウルカの様子がおかしい!!!」


憂流迦ウルカは呪いの雄叫おたけびを上げ続けている。


不気味にうねり続ける巨大な蛇。


やがて、八つの蛇の巨体が不規則に絡み合っていくと、その巨体同士が次々と癒着ゆちゃくして、一つの巨大な黒い塊になっていく。

そして、その肉の塊の内側から重々しい心音が鳴り始めると、肉塊がビクン、ビクンと何かで突かれるような不自然な動きを開始する。

それに呼応するかのように、憂流迦ウルカの周りで燃え盛る炎の勢いがさらに強くなり、焼けつく嵐が巻き起こった。

天頂では不気味に赤く燃える月が下界を見下ろして、地表の憂流迦ウルカを赤黒く照らし続ける。



突如、内側から突き破るように、巨大な肉の塊が次々とその形態を変容させ始めた。



ビクンッと肉塊が跳ねた。

すると、塊のある一点から、対になった暗黒の巨大な翼が生え伸びる。

その翼には羽の代わりに不気味な髑髏どくろがウヨウヨとうごめいて、獲物を狙う鋭い爪が幾つも並んでいる。



再び、ビクンッと肉塊が跳ねた。

硬い塊の数カ所に亀裂が入り、手足が生える。

その巨体は鎧に包まれ、はがねの筋肉が隆々と盛り上がり、表皮がみるみるうちに邪悪な大蛇オロチの鱗に覆われていく。



鋭く硬い尾が伸びる。



首が生え、頭が生える



頭部から鬼の角がメリメリと突き出す。



眼前に広がる悪夢のような地獄の業火の中で、憂流迦ウルカが鬼の姿となっていく。



そして、鬼が禍々まがまがしく立ち上がると、黒い波動が蝙蝠こうもりとなって舞い上がった。



鬼がゆっくりと顔をあげる。

口先は耳まで裂けて、鋭い牙の間からは血に飢えた長く黒い舌を出し、不気味な邪目を光らせていた。

まさにこの瞬間、『鬼神オロチ』が誕生する。


その異様な光景を前にした黒丸様が叫んだ。


憂流迦ウルカが、完全にオロチに呑まれました!!!」


白丸様が続ける。


「これが完成形・・、オロチの完全なる復活だというのか!?」




私は鬼神オロチから目をらさなかった。


--私の使命。


私はふらつく体を懸命に起こして印を結ぶ。

両手で印を組むと、体の内側から発せられる呪力が一層強くなり、左胸に集まる熱量が心臓をより強く圧迫した。


--・・苦しい、息が・・・。


おうちゃん!!!無理に力を使いすぎてはダメだ!!!」


昴様が私の身を案じて印をほどこうとした。

それでも、荒ぶる神の力が私を奮い立たせる。

この決意は揺るがない。


--もう弱い私じゃない!!!


私は昴様のてのひらを握り返してはっきりと言う。


「昴様、私も皆様と一緒にオロチを討ちます!!!」


--けれど、このまましゅを放ってもオロチはきっと再生してしまう・・。どうすれば・・、どうすればいいの・・?天照大御神アマテラスオオミカミ様は私に何を託してくださったの・・?


私は燃えるように熱い体の熱量に耐えながら天空を見上げる。


黄竜こうりゅう!!お願い・・・!!!」


私は黄竜こうりゅう様に祈りを捧げる。


「あなたの力を貸してほしいの!!」


私は強く印を結び直す。


「たったひとつの願い!!!」


私の左胸が熱くなる。




「私はこの争いを終わらせる!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







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