第六十六話 絡繰人形<中編>

ゆらりと立ち上がったなぎ様が左腕の剣を振りあげた。

次の瞬間、猛烈な勢いでこちらに迫る。


「凪様!!!目を覚ましてください!!!」


私は思いきり叫んだけれど、その声は吹き荒れる強い風にむなしくかき消されていった。

目の前に迫った凪様が猛然と剣を振るう。


おうちゃんは俺の後ろにいて!!白虎びゃっこ!!!桜ちゃんを守れ!!」


白虎が私をかばうように前へ立ち、大地を踏み締めて雄叫おたけびをあげた。

すばる様が凪様の攻撃を弾く。


「凪!!しっかりしろ!!正気を取り戻せ!!!」


強烈な連続攻撃を昴様が弾いてかわしていく。

視界の端では双子のお二人と四神たちが大蛇オロチとなった憂流迦ウルカに立ち向かっていく。


--こんなことって・・、どうして昴様と凪様が争わなくてはいけないの!?


「凪様!!やめてください!!!あなたはそんな人じゃない!!!」


けれど、凪様は攻撃を止めようとしない。

次々と繰り出される凄まじい斬撃ざんげきを昴様が弾く。


「凪!!」


凪様が振り下ろす鋭い一撃を昴様が受け止める。


「俺の言葉を聞いてくれ!!!」


けれど、邪悪に光る凪様の赤い瞳が昴様を射抜く。

刀と剣の二刀流が強烈な猛攻を仕掛ける。


「くっ!!!」


手出しのできない昴様が後ろへジリジリと追いやられていく。

凪様の渾身こんしんの一撃が繰り出され、昴様が受けて返す。

けれど、あまりの衝撃で昴様が弾き飛ばされた。

昴様が体勢を崩して倒れる。


「昴様!!!」


凪様が容赦無く左腕の刃を振り上げる。


--もうやめて!!どうしてこんな悲しいことをしなくてはいけないの!?凪様は私たちを傷つけるような人じゃない!!!


私は咄嗟とっさに昴様の身をかばって前へ出た。

そして、凪様へ訴えかける。


「凪様!!もうやめてください!!目を覚まして!!!」


私は必死の願いを込めて叫ぶ。

すると一瞬、凪様の表情がゆがんで動きが止まった。

凪様が頭を抱えてうめく。


「う゛うぅぅ・・・。」


それでも、何かを振り払うかのように蛇目が再び見開かれる。

凪様が再び左腕の剣を振りかざした。


「凪様!!やめて!!!」


私は殺気に満ちた凪様の剣を前にして、すべもなく瞳を閉じる。

すると、すぐに温かく大きな腕が私をかばってくれた。

昴様が私の前に出る。


「凪!!やめろ!!自分の心を取り戻せ!!!」


昴様が凪様の強烈な一撃を受け止める。

再び激しい攻防戦が始まった。

武器同士のぶつかり合う音が次々と響き渡る。

昴様が凪様の攻撃を弾く。


「凪!!お願いだ!!俺の言葉を聞いてくれ!!!」


凪様を傷つけないようにして、昴様の刀が攻撃を受け流す。

妖刀白虎と二刀流がぶつかり合う音が、激しい動きで衣がはためく音が、攻撃と防御の荒い息遣いが、それらが絶え間なく続く。

刹那、妖刀白虎が鋭く一閃いっせんした。


「!!!!」


キィィィンという金属の甲高い音が鳴り響き、凪様の右手の刀が宙を舞った。

続けて、乾いた音とともに刀が大地に転がる。

一瞬の静寂。

再び、凪様が苦しみにもだえる。


「う゛ぁあ゛あ゛あぁああああ!!!」


突然、憂流迦ウルカの巨体が大地に振り下ろされた。


「凪君は、ボクの一部§※ダ!!!!」


昴様が私を抱えて地をる。

蛇の巨体が大地に叩きつけられて衝撃音が響いた。

大地に激震が走る。

私たちがついさっきまでいた大地が深く削られた。


「スバル・・、あンまり僕のカラダをいたブらな$%いでよ!!」


大蛇オロチの巨体と一体化した憂流迦ウルカの生首が不気味にしゃべった。


憂流迦ウルカ!!凪にかけた術をけ!!!」


呂律ろれつの回らない憂流迦ウルカしゃべり続ける。


「凪君の体ハ僕が$骨のずいまでむさぼり喰っ@;テあげる・・。僕の体ノ一部011-、こっち二帰ってオイで・・。」


「凪様!!!」


憂流迦ウルカが凪様の体に目まぐるしく巻きつくとあっという間に連れ去っていく。


「若様を離せ!!」


双子のお二人が凪様を追う。

けれど、憂流迦ウルカの巨体に弾き飛ばされてしまう。

それでもお二人は憂流迦ウルカに立ち向かっていく。

昴様と式神たちも凪様を救出しようと激走していく。

憂流迦ウルカの重い波動が何度も波紋を広げ、昴様たちを押し返す。

凪様が苦しみに絶叫する。


--お願い・・、こんなことはもうやめて!!


憂流迦ウルカがその巨体を次々と振り落として襲いかかる。

双子のお二人が迎撃する。


憂流迦ウルカ!!若様を返せ!!!」


「若様!!正気になってください!!!」


青龍せいりゅう様の尾が憂流迦ウルカの巨体を鋭く叩きつける。

朱雀すざく様が烈火の火炎攻撃を繰り出す。

すかさず朱雀様の背後から別の蛇がからみつく。

玄武げんぶ様の大地の牙が朱雀様を援護する。

憂流迦ウルカが邪気の波動を広げて四神たちを叩き落とす。

私は凪様に向かって叫び続ける。


「凪様!!自分の心を取り戻してください!!!あなたの心は憂流迦ウルカに支配されるような弱い心じゃない!!!」


白虎が落ちてくる岩や炎を叩き落とし、体を張って私を守る。

憂流迦ウルカの鋭利な波動が私たちを目掛けて一気に迫る。

白虎が私をかばう。

邪悪な波動が白虎の体をえぐり、裂傷れっしょうから血が噴き出す。

神獣の悲鳴があがる。

それでも白虎は必死に私を守ろうとする。


「白虎!!!」


私は叫んだ。

けれど、蛇の鋭い波動が第二波、第三波と次々に襲いかかる。

衝撃波を喰らった白虎が無惨にも地に崩れ落ちる。

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