第六十七話 絡繰人形<後編>

白虎びゃっこ!!しっかりして!!!」


私は必死に白虎を抱きしめる。

血に染まった白い神獣の体が横たわる。

涙があふれる。

けれど、白虎は蹌踉よろめきながら立ち上がると、再び私をかばって盾になる。

血だらけの白虎が痛みに咆哮ほうこうする。


「白虎!!・・私を守るために・・・、こんなのひどい・・。」


視界の先ですばる様が蛇の巨体に叩き飛ばされる。

憂流迦ウルカの振り落とした巨体を玄武げんぶ様が受けて衝撃音が響く。

大地が深く削られ、土煙が巻き上がる。

蛇の牙が喰い込み、青龍せいりゅう様が鋭い悲鳴をあげる。

助けに入った双子のお二人と朱雀すざく様が叩き払われる。

私の目の前で、血をもって血を洗うがごとく壮絶な戦闘が繰り広げられている。


「やめて・・。」


双子のお二人が叩き飛ばされて私の近くに打ち付けられる。

私は駆け寄る。


「白丸様!!黒丸様!!」


「・・おう姫!ここは危険ですからお下がりください!!」


けれど、蛇の群れが猛烈に風を切って襲ってきた。

私たちの頭上でその大きな頭が次々に振り下ろされる。


「くそっ!!」


「桜姫!!こちらへ!!!」


黒丸様が迎撃体勢に入り、白丸様が私を抱えて跳び退しさる。


「我々は桜姫に傷一つ負わせない!!」


黒丸様が蛇の巨大な頭を叩き割る。

けれど、すぐに憂流迦ウルカの生首が生えてくる。

私を抱える白丸様のころもが真っ赤な血で染まっている。


「0((10▲小狐1亜"$%011■§q@※※??a!!!!!!」


もはや憂流迦ウルカの言葉はその意味をほとんど失っていた。

黒丸様が弾き飛ばされ、白丸様が私の前へ出る。

蛇の巨体が白丸様へ牙をく。

白丸様の力強い意志が叫びとなる。


「我々は命をかけて桜姫をお守りする!!!」


刀が一閃いっせん憂流迦ウルカの頭半分を叩き飛ばす。

けれど、すぐに斬られた箇所から再生する。

私たちを獲物に定めた憂流迦ウルカが猛攻を仕掛ける。


「桜姫!!私のそばへ!!!」


再び白丸様の力強い腕が私を抱えて跳び退しさる。

すぐさま黒丸様が蛇の攻撃を弾き返す。

白丸様が前へ出て私をかばう。

四方から襲いかかる蛇の頭を、白丸様が次々に斬り落とす。


「こいつらっ!!」


けれどその瞬間、


「兄上!!!」


黒丸様が叫ぶや否や、憂流迦ウルカの鋭い体当たりが白丸様を捉える。


「うああぁぁぁあああああ!!!!」


「白丸様!!」


黒丸様が地を蹴り宙を舞い、憂流迦ウルカの図太い胴体を一刀両断する。

別の一体が加勢して黒丸様を叩き飛ばす。

手薄になった守りを目敏めざとく見つけた複数の憂流迦ウルカが私を喰らわんときばく。

それでも黒丸様が私をかばいに入る。


「桜姫!!私の後ろへ!!!」


そう言った黒丸様が刀を一振りして、粘ついた赤黒い蛇の血を払い落とした。

再び、憂流迦ウルカの巨体が思い切り体当たりを仕掛ける。

刀が斬り裂く。

ぬちゃりとした血と肉が辺りに飛び散る。

けれど、八つの巨体は否応なく黒丸様を襲う。


「ぐあぁぁぁ!!!」


黒丸様が叩き飛ばされる。

すると、不意に背後から殺気を感じた。

振り向くと、憂流迦ウルカの生首が私を目掛けて猛然と迫っている。


「桜ちゃん!!!」


昴様がその巨体を叩き落とす。

それでも、別の一体が昴様へ体当たりを仕掛けて弾き飛ばす。

目の前を鮮やかな赤い血が飛び散った。


「昴様!!!」


視界の前方で憂流迦ウルカの胴に締め上げられたなぎ様が苦しみにもだえている。

地にした白丸様と黒丸様が震えながら立ち上がろうとしている。

その近くには真っ二つに割られた八咫鏡やたのかがみが無造作に落ちている。

昴様が血を流しながら刀を構える。

凪様が何かにあらがうかのようにもがき苦しみ、絶叫した。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」


--・・・こんなの嫌だ!


「凪様!!!」


--こんなことが現実なんて・・、嫌だ!!!


憂流迦ウルカの一体が私を目掛けて猛烈に迫ってくる。

私は震える足で大地を踏み締める。


--それでも私たちは戦わなくてはいけないというの!!!?


そして、両目を開けて憂流迦ウルカを真正面から捉える。


憂流迦ウルカ・・、こんなことはもうやめて!!!!!!」


私は強く印を結ぶ。

左胸の五芒星ごぼうせいが強烈な光を放ち始める。

次の瞬間、あたり一面が光に包まれて真っ白になった。

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